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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
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木星のキス

14/03/10 コンテスト(テーマ):第五十三回 時空モノガタリ文学賞【 太陽のせい 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:971

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 人知れず木星はため息をついた。なにせ巨大なのでその音は、太陽系全体に響きわたった。
「どうしたい、男のくせに、ため息なんかついて」
 ひと一倍好奇心のつよい地球が、火星の頭ごしに木星にいった。
「なんでもない」
「なんでもないことないだろう。あんたが、ため息をつくなんて、よっぽどのことだ」
「うーん」
「うなってないで、いってみな。およばずながら、力になるぜ」
「まあきみは、油断のならないところはあるが、切れ者だからな………。話をきいてくれるかい」
「いくらでもきくよ」
「彼女のことなんだ」
 と木星は、太陽系の中心を指さした。
「水星がどうかしたのか」
「ちがう、ちがう。もっとまんなかにいるだろ」
 地球は目の上に手をかざした。
「あれは、太陽だけど―――」
「その太陽なんだ」
「あいかわらず、情熱的に燃えてるね。彼女が、なんなんだ」
 きゅうに木星がもじもじしだすのをみて、地球は当惑に眉根をよせた。
 すると、こちらにちかづいてきた木星の衛星が、「いよっ」と地球にむかって気さくに挨拶した。
 みればそれは木星の第五衛星だった。
「だれかとおもったら、イオじゃないか。ちょうどいいところにきた。あんたの主の様子がへんなんだ。どこかわるいんじゃないのか」
 イオは、木星に気兼ねしながら、地球に耳打ちした。
「主人は、恋に悩んでいるんだよ」
「恋………」
 地球は、腕をくんで、さっきの木星とのやりとりをおもいだした。そしてその視線を、ふたたび、太陽系の中心になげかけた。
「まさか」
「そのまさかなんだよ。主人は、太陽に恋をしてしまったんだ」
「それは、われわれ惑星にとっては、禁じられた恋だぞ」
「だからこそ、主人は悩んでいるんだ」
「しょせん、片思いだろ」
 と、地球が無思慮な言葉を口にしたとたん、木星上の雲がみだれて、いつもは秩序だった縞模様がむちゃくちゃに揺れ動いた。
「主人がこうなったのも、太陽が美しすぎるからだ。衛星のおれとしては、せめて一度でいいから、それが願望である、太陽の頬にキスさせてやりたいんだ。そのおもいでを、心の糧として、これからも生きつづけていけるように」
 地球はイオの話にうなずきながら、木星のおちこんだ姿をみていた。ほんとうに、このままなにもしないでいたら、木星はすっかりやつれはてて、ガスでできたからだもいつかはしぼんでしまいそうだった。
「しかし、いったいどうやって、木星を太陽にちかづけるんだ」
「おれにひとつ、考えがある」
 地球は、イオからその考えをきくなり、そんなことができるのかと最初は否定的だった。だが、それ以外にどんな案もないとあっては、その方法を実行するほか、手はなさそうだった。
 それにはまず、冥王星とコンタクトをとらなければならなかった。
 ご存じのとおり冥王星は、もとは太陽系第9番目の惑星だった。それがいつのまにか準惑星にダウンし、本人はたいそうくさっているという。その冥王星に一役買ってもらうという案は、なるほど、本人にとっては名誉回復といえるかもしれない。
 案の定、地球がイオの提案を話したところ、冥王星は二つ返事でひきうけるなり、おおいにやる気になって、口から絶対零度の息吹をはきだした。これには地球もおどろいて、月ともどもマイナス273度という冷気からにげまわった。
 そしてこの冥王星の息吹こそ、木星を太陽にちかづけるために、必要だったのだ。
 地球が冥王星をつれてもどってくるのを、木星はまちわびていた。すでに話はイオからきいていた。冥王星の息吹で高温からまもられながら、太陽に接近し、その頬にキスするという、生死を賭けたアバンチュールを決行するのだ。
 その話はすでに、太陽系の全惑星にしれわたっていた。みんなは、木星の勇気に感心した。だれもが太陽に心をよせていたが、これまでだれひとり、その気持ちを太陽にうちあけようとしたものはなかった。それを今回、木星がやりとげようとしている。土星などは、その輪っかをうちわにして、太陽にむかう木星に、声援がわりに風をおくってやったりした。
 結果からいうと、太陽の頬にキスするという木星のこころみは、成功した。思いやりぶかい太陽は、ひとつもいやがることなく、木星に頬をさしだしてやった。 
 木星は歓喜し、その場で燃え尽きようとしかけたが、遠巻きにしていたみんなの懸命のよびかけに、我をとりもどして太陽から離れはじめた。冥王星の冷たい息にまもられながら、かれはぶじもとの軌道にもどっていった。
「みんな、ありがとう」
 木星は他の惑星たちに心から感謝した。
 太陽にキスしたとき、木星は口をやけどしていた。こればかりは冥王星にもふせげなかったようだ。
 木星の大赤斑は、太陽にキスしたときにできたものだということを、あなたはしっていただろうか。



 


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このストーリーに関するコメント

14/03/11 朔良

W・アーム・スープレックスさん、こんばんは。
拝読いたしました。

あれだけ美しい太陽、他の星々が惚れてしまうのもわかります。
惑星たちの性格付けもそれぞれの星にあってて面白かったです。
大赤斑は太陽のせいですか! そう思うとなんだかくすりと笑ってしまいますね。惑星の画像検索してみます。

14/03/11 W・アーム・スープレックス

朔良さん、こんばんは。

もともと太陽系の惑星は、太陽から飛び散ってできたので、その太陽に恋することは………まあしかし、固いこと抜きで、この話を読んでいただければとおもいます。
コメントありがとうございました。明日は、あたたかくなるそうですよ。

14/03/12 かめかめ

まさかの擬人化!!Σ(-◇-)度肝をぬかれました

14/03/14 W・アーム・スープレックス

かめかめさんの度胆が抜ーぬけるとは、嬉しい限りです。もっともっとぬけるよう、精進したいとおもいます。

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