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浅月庵さん

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今日だけ言わせて!

14/03/06 コンテスト(テーマ):第五十一回 時空モノガタリ文学賞【 奇跡 】 コメント:6件 浅月庵 閲覧数:1650

時空モノガタリからの選評

「この世に“奇跡”なんてものは存在しないし、0.00001%でも望みがあるというなら、その結果は奇跡なんかではなく必然」という理屈っぽい「僕」に「奇跡が連発」する。下手すると嘘くさくなりそうな奇跡の連続も、奇跡を認めたくない「僕」の頑固な性格のおかげか、違和感を感じさせなかったと思います。むしろ句読点の少ない畳み掛けるように起こる奇跡が、むしろ心地よく感じられました。最後「学生鞄と両靴がトラック目がけてびゅんと飛んで行き‥…」トラックを止めてしまうまるで漫画のような「ベタベタな展開」も気持ちよく決まっていたと思います。ここまでくるとさすがの彼も「奇跡」と認めざるを得ないですよね。同級生や「僕」の真面目そうなキャラも相まって、全体にさわやかな印象もあり、読みやすく楽しい作品だと思いました。

時空モノガタリK

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「奇跡的にカツサンド残ってたからゲットできた!」購買から戻ってきた同級生の鶴岡くんが満面の笑みで喜ぶ。周りの人も良かったじゃんと言うだけで、大して気にも止めていない様子。
 僕は教室の隅で、机の上に広げた昼食のお弁当そっちのけで、ぼんやりと考えごとをする。
 本当はこの世に“奇跡”なんてものは存在しないし、0.00001%でも望みがあるというのなら、その結果は奇跡なんかではなく必然になるのだと思う。奇跡というのは結局、物事に対して全く期待を持っていないネガティブ人間から発生する極論なのであって、5メートルほど遠くから丸めたティッシュを放って見事ごみ箱の中に収まっただけでも人は奇跡だ、と喜ぶ。超人気バンドのチケットが最前列で入手出来ても奇跡だし、今まで脈無しと思っていた女子に思い切って告白してみたらOKだっただけでも奇跡らしい。
 現代社会において奇跡というものはそこら中に腐るほど転がっていて、奇跡と口にする人の使用頻度があまりにも多すぎるし、軽すぎるのだ。
 自問自答を終えた僕は視線をお弁当へと戻し、ご飯を胃袋に収める作業に移る。教室の隅で、たったひとりぼっちで。
「あのさー、牧谷くん?」鶴岡くんがいつの間にか僕の机の前に立っていた。もしかして、心の声を聞かれたか。「なに?」
「俺らと一緒に飯食わね? 一人で食ってても楽しくないじゃん?」そう言って鶴岡くんは笑う。高校入学して一ヶ月、なかなか友だちの出来ない僕はいつも昼食を一人で摂っていた。そんな僕に差し出された助け舟、これはまさに奇......じゃなかった。
「ツルたちと食べるの嫌だったらさ、こっちで一緒に食べる? 女子しかいないけど」前の方から大きな声が聞こえる。他のクラスでも可愛いと評判の河西さんからもお誘いだ。なんだなんだ、一体どういった風の吹き回しなんだ。
「牧谷くん、嫌だ?」「い、嫌なわけないよ! 僕が行って迷惑じゃなければ......」「あはは、迷惑って! 一緒のクラスなんだからさ、仲良くしようぜ」そう言われて僕は鶴岡くんたちのグループとご飯を食べることになった。嘘だろう、このまま孤独の三年間を送ることに諦めをつけていた僕の元に起こった幸せへの第一歩。思わず口に出そうになるあの三文字を僕はぐっと飲み込む、ごめんなさい、前言撤回させてください、今なら反射的に◯◯と言ってしまいたくなる気持ちが分かります。
 その後も鶴岡くんたちは一緒に帰ろうぜ、って僕を誘ってくれたり、喉が渇いたからと僕が自販機でジュースを買うとスロットで大当たりして一本オマケのはずが人数分のジュースが出てきてみんなで奇跡だ、って騒ぐけど僕はつられそうになるのをぐっとこらえる。公園でジュースを飲んでいて網目状のごみ箱があるからみんなそれに向かって遠くから投げるけど全く入らなくて、僕が投げた空き缶は下手くそすぎて地面に叩き付ける格好になるのだけど、その跳ねた缶は通りかかった自転車の荷台でバウンドして宙に浮き、ごみ箱に見事入ってまたしてもみんなが騒ぐ。
「牧谷くん、強運すぎ! マジ奇跡連発じゃん!!」僕はみんなに褒められて嬉しいけど、絶対◯◯なんて言わないぞ、絶対に。
 鶴岡くんたちは僕の強運っぷりをネタにして話題が尽きないようだ。僕はなんだかテンションが上がってきて、今日は幸せな一日だな、と思っていると、ふと遠くの方にトラックが走っているのが見える。やじろべえのようにふらふらと走っているその車に、ふと何か嫌な予感を覚える。
 そんな時に、不運にも子どもが転がったボールを追いかけて道路に飛び出すというベタベタな展開が広がるし、トラックの運転手も居眠りなのか前方を向いていない様子が見えて、僕は咄嗟に走り出す。
「おい、牧谷くん! 危ないって!!」鶴岡くんの声を背に受けるも、僕の体は止まらない、本能に従うままに。
 だけど運動神経の良くない僕は自分の左足と右足が絡まってその場に転び、学生鞄と両靴がトラック目がけてびゅんと飛んで行き、フロントガラスにバシバシ当たると、中の運転手がそれに驚いて急ブレーキを踏み、子どもにぶつかるギリギリ数cmのところで止まった。
 その場の空気が固まる。みんな呆然と立ち尽くしているので、僕が一言呟く。
「奇跡だ......」そう言った途端、堰を切ったように周囲の人が騒ぎ出す。奇跡だ、奇跡だよと大観衆が沸いている。
 奇跡なんて軽い、多用し過ぎだと馬鹿にしてしまったけど、今日だけは言わせてほしい。「奇跡だー!!」
 奇跡は一生に一度起こるか起こらないか分からないくらいの珍しい喜びだから、これから先僕はもう奇跡だ、と口にすることはないだろう。
 ......恐らくだけどね、ちょっと自信ないや。
 
 


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このストーリーに関するコメント

14/03/06 かめかめ

奇跡まくり^^;
そして彼はすぐにまた口にすると思うな〜〜〜

14/03/07 浅月庵

かめかめさん
コメントありがとうございます。
初投稿に初コメントでとても嬉しいです。
我慢するけど多分、言っちゃうと思います(笑)

14/03/09 光石七

拝読しました。
奇跡の連続、でもその言葉を使いたがらない主人公がいいキャラしてますね。
これからも彼に奇跡が起こりそうな気がします。

14/03/10 浅月庵

光石七さん
コメントありがとうございます。
もはや神様が絶対「奇跡」と言わせたいがために
起こしまくったような気がします笑

14/03/11 朔良

浅月庵さん、はじめまして。
拝読いたしました。

確かに世の中には安易に奇跡が起こりすぎてるような気がします。
少し意固地になって奇跡を認めたがらない牧谷くん、いいですね。
そういう子だから、神様もムキになって奇跡を起こして認めさせようとしてたのかも。
面白かったです。

14/03/11 浅月庵

朔良さん、初めまして。
コメントありがとうございます。

自分も大したことじゃないのに
反射的に奇跡だ、って言っちゃうことが多いので、
一度改めようと思って書きました笑

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