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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

性別 女性
将来の夢 印税生活
座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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幻の影

14/03/06 コンテスト(テーマ):第三回OC 【 廃 】  コメント:11件 かめかめ 閲覧数:1607

時空モノガタリからの選評

「幻想的であり、なおかつ映像として鮮明に浮かぶ描写が大変すばらしいと感じました。「廃校」の圧迫されるような怖さ、そのなかに潜む美しさが巧みに描かれていたと思います。月光、鏡といったものが非常に神秘的に、効果的に使われている印象を受けました。
共に忍び込んだ友人の正体が明かされたとき、廃校への侵入はスリルを味わうものから儚く切ない恋物語へと変化する。展開の妙、構成の妙にしびれた作品でした。」

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 忘れ物があるんだ、そう言って、田辺が消えた。

 1987年3月、僕らの母校は廃校になった。島に一つだけある小学校の最後の卒業生が僕たちだった。
 児童数の減少から廃校が決まっただけのことで、土地の二次利用などということもないまま、校舎は当時のままに残っている。
 集まりのため島に戻った僕と田辺は、寄り道することにして母校へ向かった。
たそがれ時の光を受けて木造の校舎は黄色くそまっている。すべり台やブランコも昔のまま。校舎に近づいてみても、窓は割れてもいず、扉もかるく南京錠がかかっている程度で、封鎖というほど厳重でもない。校庭などは島の盆踊りに今でも使われているというから、そのせいでもあるのだろう。

 入ってみようか、そう言って田辺が南京錠をいじりはじめた。
 鍵開けか、こそ泥みたいだな。僕の言葉に田辺はニヤリと笑い、肩にさげていた鞄から小さなドライバーを取り出した。眼鏡の修理をするためのキットを持ち歩いているのだという。
 そのドライバーで田辺はサビが浮いた南京錠の金具自体をはずしてしまった。泥棒以上の大技に僕たちはなにか楽しくなり、けらけら笑いながら校内に入った。

 下駄箱、木の廊下、職員室のプレート。つきあたりにある理科室は、骨格標本が怖くて一人では入れなかった。二階には教室が三つ。低学年、中学年、高学年とわかれて勉強した。
 すべてがなつかしく、すべてがおどろくほど小さかった。僕たちは小人の国に踏み込んだガリバーのような気持ちになった。

 本来の目的の会場に向かう途中、渡船場の辺りで田辺が忘れ物があるんだ、と言い出した。
 仕方ない、戻るか?いい、一人で行ってくる。そんな会話をして、田辺は小学校に戻っていった。
「夜になって忘れ物を取りに学校に戻ると、鏡のなかに閉じ込められる」
 そんな怪談を思い出したのは、座敷に陣取り、刺し身の大皿がカラになったころだった。そう言えば、田辺は妙に遅い。
 なんだか僕も学校に忘れ物でもしたような、尻がモゾモゾするような不安な気持ちになって、田辺を迎えに行くことにした。

 月はほとんど丸く、夜道を行くのに苦労はない。
 大人になってから島の道を歩くのは初めてのことだった。人っ子一人いなくて、通りに並ぶ家に灯りも見えない。鳥肌のたちかけた腕を押さえ、漁師は夜が早いんだと呪文のように繰り返しつぶやいた。
 小学校にたどり着き昇降口へ向かう。壁際の下駄箱たちの間を僕の影が長く這う。大きく息を吸い込み、階段の方へ足を向けた。

 階段の踊り場に巨大な鏡がかかっている。子供なら三人並んで姿を映せる。だが、あの頃そんなことをする子供はいなかった。怪談を怖れ、みな鏡の前を駆け抜けていたのだ。
 僕は恐る恐る鏡の前に立った。のぞきこむと、ふふっと笑いが込み上げる。
なんのことはない。大人になってしまえば月明かりに照らされた自分の姿など、怖くもなんともなかった。
 田辺、いるのか?二階に向かって声を張り上げた。僕の声は沈まった校舎に喰われたかのように消え、反響もない。
 鳥肌がたった。
 腕を押さえても寒気は消えない。僕は腹の底に力を入れてもう一度、叫ぶ。田辺、いないのか?

 その時、鏡のなか、僕の後ろを人が駆け抜けた。一瞬だった。振り返る。壁しかない。影は階上に向かったようだ。僕は階段を駆け上がった。
 一番奥の教室が明るい。そっと足音を忍ばせて近づいていく途中で、明るいのは窓からさしこんだ月の光のせいだと気づいたが、ぼくの足はそのまま進みつづけた。
 教室のドアの隙間から、そっと中をのぞいてみる。人影があった。僕は目をつぶり勢いをつけてドアを開けた。


 目を開けると、女の子がいた。膝小僧が見えるスカートに、おさげ髪。少し大きな眼鏡をかけている。
「田辺……?」
 小学生時代の田辺の姿だった。
「どうしたんだ、田辺?」
「どうしてもここに来たかったの。マサくんに伝え忘れたことがあったから」
「忘れたって、なにを?」
 小さな田辺は一つの机を指差した。僕は近づいて、机に彫ってある文字を見つけた。

「マサくん、大すき」

 顔を上げると田辺の姿は消えていて、ただ穏やかな月の明かりだけが、教室に満ちていた。

 校舎を出ると、月は雲の陰に隠れようとしていた。
 田辺は30年前の今日、事故で死んだのだと思い出した。僕は法事のために、この島に来たのだ。
 では、僕と一緒に船を降りた田辺は、いくつの時の田辺だったのだろう?僕と同い年くらいに見えたのは気のせいだろうか。
 いつも田辺が僕のそばにいたと思うのは気のせいだろうか。夢の中を手探りするようで思い出せない。
 振り返り、校舎を見上げる。今はもう真っ暗なそこに向かって、僕は田辺に聞こえるように大きな声で返事をした。


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このストーリーに関するコメント

14/03/06 草愛やし美

かめかめ様、拝読しました。

廃校になった小学校での思い出、とても切なくて、一人残された田辺さんは待ち続けていたのでしょうね。

最近は都会の学校も統廃合があって、我が家の近くでも5つの小学校を統合する案が出ています。いざ、自分の町のこととなって初めて、廃校になるということの重みを感じている私です。廃校になった学校出身者は、自分の歴史がなくなってしまうようで、辛いことだと思います。

帰省された彼に出会えてよかったと思いたいです。僕の返事は、きっと……じゃなかったかと想像しています。さすが、かめかめさん、描写が素晴らしく、読んでいて机や教室など、容易く映像となって画面が浮かびました。とても素敵な作品だと思います、ありがとうございました。

14/03/07 タック

かめかめさん、ご投稿ありがとうございます。拝読いたしました。

廃校の描写がとても幻想的で美しく、目に浮かぶようでした。田辺さんは、いかなる思いで三十年もの歳月を待っていたのでしょうか。考えると切なくなります。男性だと思っていた田辺さんが女性だったのにも驚きました。

14/03/10 かめかめ

>草藍さん
コメントありがとうございます。
5つもの小学校が統合したら、通うのが大変ですね!
作品をお褒めいただき、ありがとうございます!^^!

>タックさん
コンテスト開催、おめでとうございます。
田辺を男性と思って頂けましたか^^やったあ。うふふ。
切ないと言って頂けて、田辺も成仏できると思います。

14/03/11 クナリ

錯綜する現実と幻想を、主人公の精神性が最後に支える、危うくも美しい夜の物語ですね。
面白かったです。

14/03/11 朔良

かめかめさん、こんばんは。
拝読いたしました。

夜の小学校というだけで結構怖いのにそれが廃校だったらどれだけ怖いんでしょう。
かめかめさんの描写が素晴らしくて、怖さより美しさを感じました。
田辺さんが女の子だったのは、私もびっくりしました。
伝えたかった思いが30年ぶりに伝わって本当によかったです。

14/03/12 かめかめ

>クナリさん
果たして主人公に深い精神性があるやらないやら。面白いと言って頂けたのが救いです^^

>朔良さん
田辺、うまく騙せたみたいでウッヒッヒです。
少しでも気に入って頂けたなら幸いです。

14/03/12 るうね

るうねです。
『幻の影』、拝読いたしました。

切ない話ですね。最後の「僕」の返事をあえてぼかすところも心憎い演出です。

14/03/17 かめかめ

>るうねさん
心憎い、ですか。人生初体験の言葉です!^^!ありがとうございます!

14/03/31 光石七

拝読しました。
田辺さん、女の子だったんですね。私も騙されました(苦笑)
描写がきれいで、廃校を舞台にした幻想的な雰囲気が素敵でした。

14/04/07 かめかめ

>光石七さん
幻想的と読んで頂けてうれしいです。
田代、大成功^^
コメントありがとうございます。

14/06/06 murakami

廃校の描写が生きていますね。
田辺が男だと思っていたので、結末に驚きました。

さすがの入選作ですね。

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