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クナリさん

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緒方は僕を見つめて、

14/02/24 コンテスト(テーマ):第五十二回 時空モノガタリ文学賞【 勇気 】  コメント:11件 クナリ 閲覧数:2001

時空モノガタリからの選評

「いじめ」という難しいテーマを、繊細な観察力や洞察力で丁寧に描かれていると感心しました。「緒方がいじめられている、と言っていいのは、この世界で緒方だけ」「自分の娘がいじめられていると知ったおばさんも、自分がいじめられていると親に認識された緒方も、酷く傷付いたと思う」という洞察力も鋭いなあ、と思います。たしかに「いじめ」という言葉には人を傷つける響きがあるように感じます。
「緒方の味方をしようとしたのは、元々、正義感とか勇気とか、そういう格好いいもののおかげじゃない」という彼の正直さもリアルで好感が持てました。そうした中学生の男の子らしい素直な気持ちが動機として描かれることで、青春もののさわやかさ、読みやすさも加わっていて、親しみやすい作品となっていたと思いました。

時空モノガタリK

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緒方早苗がクラスの中でされていることを、俺が緒方のおばさんに勝手に話したのは、単に、俺がその状況に耐えられなくなったからだった。
あなたの娘さんは中学校でいじめられていますよ、などとは言わず、緒方の受けていた被害をなるべく冷静に、事実のみを淡々と説明した。
緒方がいじめられている、と言っていいのは、この世界で緒方だけだと思った。

おばさんはその日のうちに学校に問い合わせ、俺は翌日担任の竹内先生に呼び出され、なぜ先に学校に相談しないんだと叱られた。
正直に、「生徒も先生も自分もひっくるめて、俺は学校というものに愛想を尽かしているからです」とは言わなかった。
子供を何とか信じようとする先生達と、先生を満足させるのが得意な奴らの間で、居場所を無くすのは、いつも、一人で頑張ろうとする奴だった。緒方みたいに。
自分の娘がいじめられていると知ったおばさんも、自分がいじめられていると親に認識された緒方も、酷く傷付いたと思う。
それでも、言わずにいられなかった。

最初は、女子の悪ふざけのうちだと思ってた。
緒方が放課後に靴を隠された時、俺が一緒に探したことがあった。あの時も、そんなに深刻には考えてなかった。
けれどその後、緒方の我慢の限界を試すみたいに、段々皆がエスカレートして、男子まで参加するようになり、これは異常なことだと思った。
全員で、思いつく限りの方法で、緒方の心も体も追い詰めた。
教室の中が、『緒方』と『それ以外』になっていた。気がつけば全員が、『緒方』を指差して笑っている。
見ていて、寒気がした。そして、自分も『それ以外』の方にいるのだと気付いて、愕然とした。

おばさんの問い合わせを受けて職員会議が開かれ、俺達もクラス会議を開いた。その時には、クラス中に俺が“チクッた”とばれていた。
率先して緒方の持ち物を隠していた学級委員が、「いじめてたつもりはないけど、そう取られるんだったら、これからはもうしません」と溌剌と言い、教室中の善人面が皆で頷いた。
それから一応事態は沈静化して、緒方を傷付ける奴はいなくなったが、俺や緒方に話しかける奴もいなくなった。
告発者たる俺には、何度か緒方が教室で話しかけようとして来た。
そんなことをされてはたまらないと、俺は努めて緒方を無視した。

その日、下校途中にある橋の上で、俺は欄干にもたれていた。
夕暮の空が赤味を増し、虫の声が大きくなる。
自分のしたことは正しかったのだろうか、と悶々と考えていた。
「尾垣君」
突然声をかけられて、驚いて振り向くと、緒方が真横にいた。
「何してんだよ。お前、帰りこっちじゃないだろ」
そう言ってしまってから、慌てて辺りを見回す。
「大丈夫だよ。誰もいないから」
どきりとした。
「私、ちゃんと分かってるからね。尾垣君が、私のことで最近仲間外れにされてるから、そんな時に私が尾垣君に話しかけたら、そのせいで私がまたいじめられるんじゃないかって心配してくれてるんでしょ」
俺は、思い切り赤面した。
「ありがとう。それに、ごめんね。勇気があるって、お母さんも言ってた」
おばさんめ、何を言ってくれている。
俺が緒方の味方をしようとしたのは、元々、正義感とか勇気とか、そういう格好いいもののおかげじゃない。
それは多分、女子が最初に緒方に嫌がらせを始めたきっかけと、同じものだった。
つまり、緒方の顔立ちが他の女子と比べて優れているとか、透き通った声もよく似合っているとか、手足がすらりとして長いとか、そういったもの。
「本当に勇気があるのは、緒方だ。俺に勇気なんてものがあるとしたら、それは、緒方からもらったんだ。毎日教室のあちこちから、何度も傷付けられながら、自分以外の誰も傷付けようとしない緒方から、だ」
そして俺はこれから先、あの教室の中でたった一人間違わずにいた『緒方』の姿を、ずっと忘れないと思う。
緒方は困ったように笑い、
「私、いつも、もう死んじゃいたいって思ってたよ。誰かが私を殺してくれないかなあって。逃げたくて仕方なかった」
その緒方はまだ、ここにいる。
俺のしたことは、間違っていなかったと思っていいのだろうか。
緒方が俯かせていた顔を上げ、
「勇気って言うんなら、私、勇気を出して尾垣君に言おうとしてることがあるの」
とまっすぐに俺を見た。
実は俺にも、緒方に伝えたいことがあった。
言っていいのかどうかは分からなかったが、夕陽を浴びて輝く緒方の綺麗な顔を見ていたら、これ以上黙っていると胸が潰れてしまいそうだった。
でも、俺の気持なんかより緒方の方が大事だ。
どんな内容だろう。
いじめとは別の何かに、苦しんでいるのだろうか。
俺に、出来ることがあるのだろうか。
何でもいい。
何があっても、味方をする。
覚悟を決めて、緒方を見つめる。

緒方が、息を吸い込んだ。


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このストーリーに関するコメント

14/02/24 草愛やし美

クナリ様、拝読しました。

そうか、そういうことだったのね。気づかなかった私って、……、年いっちまったんかな。苦笑 
息を吸い込んで、さあ、ここからが始まり。いいなあ、二人だけの世界。でも困難はまだまだありそうに感じます。それこそ、二人で勇気を持って、立ち向かって欲しいなあと思います。頑張れー若者!!

14/02/24 泡沫恋歌

クナリ様、拝読しました。

虐めはされてる本人も、それを見てる周りもなかなか表面化し難い問題です。

尾垣くんは緒方さんへの虐めを表沙汰にしたことは勇気の要る行為だったと思う。
ホンの軽い気持ちで始めた虐めならば、すぐに止めることができる筈です。

最終、で、この二人の新たな物語が始まる予感がします。
頑張れ! 青春!!

14/02/25 朔良

クナリさん、こんばんは。
拝読いたしました。

友人に教員が多いのですが、いじめの問題は、本当にデリケートで難しいです。
“緒方がいじめられている、と言っていいのは、この世界で緒方だけだ”というのも本当だと思うし、いじめられていた、ということを知ったり知られたりすることで、親子関係でかえって傷つくことも多いと聞きます。
自分のことではなく、他人のことで行動を起こそうとするときって、それが返って相手を傷つけることにならないかって不安になりますよね。良かれと思ってしたことが本当に相手にとっていいとは限らない…。
傷つけてしまうかもしれないことも、自分が仲間外れになることも恐れず行動した尾垣君は、勇気があると思います。

終わり方も爽やかで素敵ですね。
まるで一本の映画やドラマを見るようで、最後まで引き込まれました。

14/02/28 クナリ

OHIMEさん>
自分がよく書くファンタジーにはうってつけのテーマだった気もしますが、身近な勇気のお話になりました。
いじめられてる方にもプライドがあるんですよ、みたいなのもね。
いやOHIMEさんそれ勇気育んでるじゃないですか、ご立派じゃないですか。
弱者の視点を忘れないようにしようとか、いや弱者として扱うなとか、とにかく価値観が入り乱れて、いじめというのは複雑怪奇で。

草藍さん>
思春期の男の子が女の子に、自分が犠牲になってまで何かしてあげる理由なんて、こんなもんっしょ! という書き手の価値観が色濃く出ているかもしれませぬ!
OHIMEさんは上のようにおっしゃってくださってますが、イカンっ、ぜんぜん精神性高ないやん(^^;)。

泡沫恋歌さん>
いじめを本当に解決できるのは本人だけだ、という論旨をフィクションでもノンフィクションでもよく見ますし、まあおそらくそのとおりなのでしょうが、それだけでは届かない場所というのがありますよね。
その場所の土台を作るのは、周りの人間の善性とか、信頼とかなんじゃないかなあと思います。
今回はいい方に出た例、ということで。実際には、おそらく逆のほうが多いのでしょう…。

朔良さん>
今日び、先生というお仕事は非常に非常に非常ーーーーに大変だと思います。
いじめの情報の伝わり方や扱い方次第で、家の中での居場所もなくしちゃうと思うんですよね。
家族にだけは知られたくない、というものでしょうし。
いじめられた人の行く末というのは、本人というよりも周りの状況に強く影響を受けると思います。
本人の気持ちは不可欠だけど、それを生かすも殺すも周り次第。利口ぶった人の「全部自分次第だよ」という言葉の甘えっぷりには嫌気が差します。
めずらしく、さわやかい終わり方になりました、ありがとうございます(^^;)。

14/03/10 かめかめ

「俺」がかっこ良すぎて幸福過ぎて嫉妬( −ヘ−#)
緒方は渡さん!^^

14/03/10 クナリ

かめかめさん>
そのようなお言葉をいただけるとは、登場人物たちも光栄の局地であります。
いけないことだと知りながら、「いじめをやめよう」と言えないのは、「でも、そんなこといったってどうせなくならないよな…」というあきらめのせいもあると思います。
それでも声を出す勇気、そういう人はかっこいいですよね。

14/03/21 gokui

 読ませていただきました。
 社会問題に触れる難しい題材をうまく物語にしていますね。『終』の後に続くはずの台詞は、私たちの思っている台詞で良いんですよね。なにか不吉なものを予感する私はちょっとおかしいのでしょう。

14/03/22 クナリ

gokuiさん>
社会問題につながる話を書こうとすると、『一般論』というもののむなしさを感じざるを得ません。
具体例としての物語と作れていればいいのですが。
緒方が、まったく意外なセリフを吐くとしたら、ここまでで閉じるはずだった物語が、ここまでをプロローグとして新たに始まっていきますね。それもいいですねー。

14/03/23 光石七

いじめのリアリティといい、主人公の行動のからくりといい、秀逸ですね。
終わり方も幸せな妄想(笑)が膨らんで、素敵です。

14/03/23 クナリ

光石さん>
主人公は、世の中そんなに無償でがんばるヤツいませんぞ、という感じでッ。
この後は、それは赤面もののこっぱずかしいぐだぐだなせーしゅん劇です(^^;)。
人がいちゃいちゃするシーンて書ける気がしない…。

コメント、ありがとうございました!

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