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四島トイさん

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三角関係フリーキー

14/02/17 コンテスト(テーマ):第五十回 【 三角関係 】 ターザン山本賞 コメント:4件 四島トイ 閲覧数:1022

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 ローカル線の無人駅。
 天井だけが高い駅舎。
 三角形に切り取られた天窓に、夕日が反射していた。ベンチの他には何も無いがらんどうの構内。オレンジ色の三角形がくすんだ床や壁にくっきりと投影される。形を持った陽だまりはきらきらと輝いていた。
 ベンチに腰掛けて、やがて暮れて消えるそれらを見る。
 下校を促す高校のチャイムが、遠く聞こえる。
 須原君、と名前を呼ばれた。
「わたし恋をしちゃったよ」
 隣に座った同級生の梨本サハラを見る。白い耳あてを指に引っかけてくるくる回していた。
「またか」
「うん。また」
「三組の笹原はどうしたんだ」
「田中ちゃんと付き合ってる」
「立野先輩は。三年の」
「吹奏楽部の本郷先輩と付き合ってる」
「七組の柿崎は……先輩より前だっけ。後だっけ」
「後。相玉さんと付き合うって。中学同じだったらしいよ」
 そうか、と呟く。
 そうだ、とどこか得意げに梨本サハラは肯く。
 失恋のたびに三ミリずつ切っている彼女の髪が、肩の辺りで揺れる。晴れ渡る空の下、連峰を見やるような遠くを見つめる視線が清々しい。
「次の恋は上手くいきそうな予感がする」
 そうか、と呟く。
 そうだ、と梨本サハラはニイッと口角を上げる。
 爛々と輝く瞳が俺の表情を光学的に読み取るように上下する。
「今度は誰に恋をしたんだ」
「大沢君」
「うちのクラスの」
「そう」
「面識あったのか」
「今日、購買でパン買ってもらった」
「何で」
「教室に財布忘れちゃって」
「俺も財布を持ち歩くのをやめようかな」
 須原君はわたしほど可愛くないからなあ、と彼女は笑う。
 ふと駅舎の向こうでかすかに踏切の警報音が聞こえた気がした。構内放送が間もなくの電車の訪れを告げる。
「一緒に行ったさがのんと困ってたら、おごろうか、て」
「佐ヶ野さんって、梨本のクラスの」
「うん。登山部」
「奇遇だな。大沢も登山部だ」
「うん。らしいね」
「……この間の冬合宿で怪我した佐ヶ野さんを大沢がおぶって下山したらしいな」
「うん。らしいね」
 梨本サハラの弾んだ声が周囲をぽんぽんとバウンドする。
 ベンチから腰を浮かせる。プラットフォームに続く階段を上る。彼女の声が後を追う。
「大沢君は絶対、さがのんのこと意識してると思う。さがのんも意識してる。そういう雰囲気だもの。じりじりしてる。何度も自分の手を握ったり、開いたりして、心の中身と向き合おうとしてる。この気持ちを育てようかどうしようか」
 彼女は一段飛ばしで階段を駆け上がると、追い越した俺を振り返った。
「そういうのって素敵でしょ。わたし大好きなんだ」
 梨本サハラは三角関係フリークだ。
 三角関係でなければ恋愛ができない。むしろ、三角関係のために恋愛をしている。誰かと誰かが恋したり、愛したりしてるのを間近で感じることに最高の喜びを覚える、らしい。
 だから例えば、惚れた同級生男子が告白しても蚊帳の外。
 登下校が同じ方向だからと理由をつけて一緒にいても蚊帳の外。
 意識させることすらできない。
 これが恋の病だというのならば、彼女に効く薬はあるのだろうか。
 プラットフォームで、シャドーボクシングの真似事をする彼女を見つめる。
「……それで、大沢が梨本のことを好きになったらどうするんだ」
 それはそれでいいよ、と彼女は顔を上げる。
「なっちゃうかなあ。須原君はそう思うの」
 どこか演技がかった仕草で彼女は両手を組んで、問い返す。
 俺は、と口を開いたものの言葉がすぐには続かない。
 頭の中できらきら輝く三角形が散らばる。俺ではない、誰かを結んだ三角形が。
「……大いに気に入らないけど、そうなればいい、と思う」
 思いきってそう言った。
 梨本サハラが目を見開く。
 乗客もまばらな電車が滑り込んでくる。キーギギギ、と金属の摩擦する音が長く尾を引く。ふしゅう、とため息のような空気の音に紛れるように、小さく続ける。
「……そうすれば俺も三角形に入るだろ」
 扉が開く。
 一拍置いて、彼女は電車に飛び込んだ。
 いくらか染まった頬のまま。


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このストーリーに関するコメント

14/02/21 朔良

四島トイさん、こんばんは。
拝読いたしました。

三角関係フリークという設定が面白いですね。そういう女の子を好きな須原君も大変だ…。
でも、今までの恋愛経緯を全部知ってて新しい恋の報告も受ける須原君…最後の彼女の反応を見れば、そうやって彼の気をいていたようにも見えてしまいます。
いろいろ妄想できてしまう、楽しい作品ありがとうございました。

14/02/22 クナリ

四島さんの作品は、毎度のことながら、見守りたくなるような、自分も参加したくなるような、非常に魅力的な人間関係に引き込まれますね。
掌編であることがもったいなくなるような、小説に切り取られた時間。
すばらしい作品でした。

14/02/23 gokui

 読ませていただきました。
 困った女性ですねえ。身近で最も大事な存在を彼女がどのように捉えるのか。先が気になる物語でした。

14/02/23 四島トイ

>朔良さん
 こんばんは。コメントありがとうございます!
 『三角関係』も難しかったです。他のテーマで三角関係を描くことはあっても、三角関係自体がテーマになるとこれほど難しいとは……
 至らぬ点ばかりですが、楽しんでいただけたのは読者が良かったおかげですね! ありがとうございました。


>クナリさん
 読んでくださってありがとうございますー
 過分なお言葉に恐縮しきりです。今、とあるテーマで長編に挑戦しているのですが挫けそうです……己の創作力の低さと鍛錬の足りなさを痛感しています。
 今回のテーマでは、『角』が削れて丸くなってしまった3人の話か、4人目が乱入して『三角錐』になってしまう話か、この話か、で悩みました。
 読んでいただけて、コメントまでくださったことにとにかく感謝です。ありがとうございます!


>gokuiさん
 読んでくださってありがとうございます。
 書き手ゆえの親バカなのでしょうが、私には梨本サハラという女子がとても愛らしいのです。困った女性ではあるのですが! 彼女の躍動を書きたと思わせてくれる人物でした。
 コメントまでいただけたこととても嬉しいです。ありがとうございます。

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