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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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死ニゾコナイ

14/01/30 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:19件 そらの珊瑚 閲覧数:2348

時空モノガタリからの選評

「筋肉が萎縮していく」病気にかかった男の絶望が、「海」「船」「切れかかった街灯」といったイメージとともに叙情的に描かれていて、とても美しい作品だと思いました。特に冒頭と最後の詩がいい雰囲気を出していますね。暗くて広大な海の中をただよう男の孤独と絶望が伝わってきます。
また、「女の紐」の例えが見事だと思いました。「キャミソールの紐ってなぜあんなに細いのだろう。ああ、そうかあの紐は見せかけなんだ。女の紐は太い縄だと相場は決まってるじゃないか」という一文は説得力があります。マリアの「紐」は、深いところでつながっているマリアとクオン、そして新しい命を繋ぐもののように感じられます。マリアに宿った新しい命は、例えクオンの子でなくてもどこか彼の希望につながっていく気がしました。
「おしきせの憐れみなんかじゃない」マリアの体温の中で、絶望の海を泳ぎ続けるクオンの姿はどこか哀しいけれど美しいですね。クオンが「波」が生まれる場所にたどり着けることを祈りたくなりました。とてもうまいうえに詩的な優しさ、美しさも備えた良作だと感心しました。

時空モノガタリK

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 寝室の窓の外で
 また今夜も
 切れかかった街灯が
 青白い点滅を繰り返す

 この世に未練があるのか
 ただ惚けてしまったのか
 それとも
 死ニユク前のあがきなのだろうか
 今夜も
 静寂であるべきはずの
 オレの
 夜を
 不規則という規則にのっとって
 あいつが邪魔をする

 寒空の下で
 ふるえながら
 脈をうつ
 あいつのことを思って
 寝返りすれば
 全てを使い切って
 逝くことへの
 これ以上ない哀しみが
 これ以上ない叫びが
 夢の渚にまで
 ざわざわと
 打ち寄せる
 
 ◇

「筋萎縮性側索硬化症です。一般にALSと呼ばれている筋肉が萎縮していく難病です。いすれ呼吸筋まで萎縮すれば死に至ります。もちろん呼吸器を付けることで延命は可能です」
 残念ながら、と医者は続ける。言葉と裏腹にその表情から読み取れるものは憐れみさえない。ただ事務的な響きがあるだけだった。あたかも死刑判決を読みあげる裁判官のように。
「有効な治療法は現在ありません。」
 
 ◇

――予感はあった。手が震える。力が入らない。仕事中にしゅっちゅうスパナは落とす。段差のないところで転ぶ……。身体の中で得体の知れないもんが生まれ、オレに赤い舌べろを出してる図。どうせ男のやもめぐらし、オレになんかあったところで路頭に迷う妻も子もない。そんな風に無頼を気取っても、心の奥底ではその正体を知るのが怖かった。
 そんな葛藤を抱えながら数ヶ月を無為に過ごした。いや、時間を無為に過ごしてきたのはそれまでだって同じことだ。造船ドックと切れかかった街灯がウザいおんぼろアパートの往復。時々馴染みのマリアを抱くのが楽しみといえば楽しみだった。

「ねえ、身体どっかおかしいんじゃない? クオンが勃たないなんて。この間もそうだったよね。それに最近妙によく転ぶ。変だよ」
「へっ男はデリケートな生き物なんだよ」
 オレのあるかないかわかんないほどの、あるとすればノミくらいの小さな男のプライドは、性交が失敗したことでさきほど見事玉砕した。ベッドでふてくされた風を装い、まだ半分も吸ってない煙草を灰皿に押しつけた。手の震えを悟られないように。
「今日はお金いらないから、その代わり病院行って」
「病院は警察とおなんじ位嫌いだ」
「クオンになんかあったら、アタシ泣くから」
「また大げさな。客がひとり減るだけだろう」
 マリアの背中がかすかに揺れる。女のキャソミールの紐ってなぜあんなに細いのだろう。
「明日、迎えにいくから。首に縄つけてでも病院行ってもらうから」
 ああ、そうかあの紐は見せかけなんだ。女の紐は太い縄だと相場は決まってるじゃないか。今まで何度騙されたことか。男ってつくづく学習しない動物だ。
「仕事あるしなあ」
「船作る仕事なんて代わりの人がいる。でもね、クオンの代わりの人はいない」
 オレより十は年下なのに時々彼女が母親に見える。なぜだろう。孤児院で育ったオレは母親なんか知っちゃいないのに。
 
 ◇
 
 病院からの帰り道、遠くでパトカーのサイレンが鳴る。おおかたどこぞのチンピラがかっぱらいでもしたかヤク中の人殺しか。オレもかつてその渦中にいて、クサいメシも喰った。いずれにしてもスラムでは珍しくもない光景だ。そんでも今、隣にマリアがいる。オレの事を心配してくれる誰かが世界でひとりいる。絶望するにはまだ早い、か。オレが欲しかったのはおしきせの憐れみなんかじゃない。人の体温だった。
「ねえ、私も明日病院行こうかな」
「おまえもどっか悪いのか」
「ううん、病気じゃないんだ。産婦人科。ドジだよねえ。娼婦が妊婦になっちゃったら商売あがったりだよ」
 誰の子かわからない命だというのに、なぜかマリアは悲しそうではなかった。むしろ微笑んでいた。女の紐はつくづく謎だ。
 オレは『おめでとう』と言うべきか言わざるべきかわからなかった。
 それが希望でありますようにと祈りながら、マリアをそっと抱きしめた。彼女の髪から潮風の匂いがした。
 オレの作った船は今どこを旅しているんだろう。
 
 ◇
 
 マミー、
 波はどっから
 産まれてくんのさ?
 その答えを
 オレはまだ知らなくて
 死ニゾコナイの
 ひとりとして  今夜も
 絶望に向かって泳いでいる


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このストーリーに関するコメント

14/01/30 そらの珊瑚

画像は「写真素材足成」様よりいただきました。

14/01/30 そらの珊瑚

間違いがありましたので訂正します。

キャソミール→キャミソール 申し訳ありません。

14/01/30 笹峰霧子

受診したら病名がはっきりわかるからとの怖さから病院へ行くことを戸惑ってる人かなりいますね。

人生の裏道を歩いてきた男の、今になって襲う悲哀が、文面からひしひしと伝わってきました。

ALSは治療して投薬していても進行する難病なので怖いです。
身近な友が昨年亡くなったとご主人から連絡がありました。

14/01/30 ドーナツ

拝読しました。


治らない病気と診断されるのはほんとうにつらいです、でも、この作品には、絶望の中に一筋の光を感じます。くらい海を灯台の明かりを目指して進む船、なぜかそういう光景が浮かびました。

この世に一人でも自分のことを心配してくれる人がいるのは幸せね。そういう母親のような女性の存在が、いつか絶望から希望へ進路を変えてくれるのではないかな、
そうであってほしいと願ってます。



14/01/31 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

悲しい現実、絶望しているオレなのに、優しいぬくもりがあって、救いでもあるが、余計切なくて絶望へとおちそうな。とてつもない恐怖でしょう、治らない病気、知識のないものにだって容赦ない宣告だと思います。母親を知らないオレが、せめてその温かみで少しは癒されるならばと祈るばかりです。
表現の仕方が乏しい脳みそから出て来ません──悪ばかりの絶望でなく人間の根本にある絶望を描いて厳しい状況にある、それでも僅かな救いもあって、だから余計悲しくて──言葉足らずですみません。いい作品だと思いました、ありがとうございました。

14/01/31 泡沫恋歌

そらの珊瑚さん、拝読しました。

この病気はかつて、私の実の姉がなった病気だと思います。
一般に筋無力症って呼ばれてる病気でしょうか。
この病気の残酷さは意識をもったままで身体が動かなくなることです。
死ぬほど絶望しても、自分では死ねない病気です。

いつ死ねるか分からない・・・絶望的な病気でした。



14/01/31 そらの珊瑚

霧子さん、ありがとうございます。

ひしひしと伝わる。とても嬉しいお言葉です。それは創作する際に私がいつも心がけていることのひとつであるからです。
ALSを初めて知ったのは有名なホーキング博士もそれを患っておられたことからです。
難病のひとつですが、進行が早く根治させる治療もないそうです。友人のご主人様もそうでしたか。さぞや大変だったでしょうね。

14/01/31 そらの珊瑚

ドーナツさん、ありがとうございます。

「絶望」というテーマで思いついたのは治らない病気でした。
私も難病のひとつを患っておりますからそういう心情には心当たりがあります。
私の場合はまだ症状を抑える薬がありますが(それも根治はありません)けれどもALSの方の絶望はそれ以上のものがあると想像します。
人の苦しみはよく「生老病死」に尽きると言われますが、おっしゃるようにそんななかでも、いやそんななかだからこそ希望を感じたり、希望が輝くことがあるのだと私も信じたいです。
せっかく生まれてきたのですから。

14/01/31 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

重症筋無力症でしょうか? 
それだとしたらたぶんALSとは違うのではないかと思います。
(間違っていたらごめんなさい)
適切な治療によって「寛解」という普通に生活を送れる状態にすることも可能だと聞いたことがあります。
それにしても治るということがない難病という絶望はあるとは思います。

14/02/01 朔良

そらの珊瑚さん、こんばんは。
拝読いたしました。

確かに絶望の話でありながら、どこかに希望の見える、優しい話だと思いました。
辛いことが多かったであろう人生、そして不治の病…絶望に向かって泳ぎながらも、でも、その先にある小さな希望が、男には見えているのかもしれませんね…。

14/02/03 そらの珊瑚

朔良さん、ありがとうございます。

どんなに絶望しても、たとえば溺れている人にとっては藁一本がそうなるように
やはり希望というものがそこにあってほしい、そんな願いを込めて
この話を書いたのかもしれません。
汲み取っていただきまして、嬉しかったです。

14/02/08 鮎風 遊

詩と物語の合体、新鮮ですね。
男の寂しさがうまく表現されていて、うんうんと納得。
それにしても逃げ出したいような世界かな。

14/02/08 gokui

 読ませていただきました。
 確かに病は逃れることのできない絶望です。当人はもちろん、周りの人間もほとんど何もできずに絶望を感じるでしょうね。この作品はそんなやり場のない絶望がリアルに描かれていて、読んでいるとつらいけどやっぱりいい作品です。

14/02/10 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

逃げ出せれば楽になるでしょうね。
なかなかそうはいかないのが人生かなあって思います。

14/02/10 そらの珊瑚

gokuiさん、ありがとうございます。

リアルを感じていただけて、嬉しかったです。
テーマが絶望ですから、とことん絶望を描こうとは思ったのですが
やはり突き放すことができす、プラズアルファのものを足してしまったというかんじです。

14/02/10 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

コメントをお返したつもりがなぜか返せてないのに気づきました。
重い病気になるとそれまで健康であったら叫びたくなるような葛藤があると思います。
医学が進歩しても治せない病気や原因不明の病気など絶望に値するような病気は結構あるかと。
けれど葛藤に向き合うことで、何がしかなの絶望からの出口のような
ものが見つかったらいいなあと思います。

14/02/10 そらの珊瑚

OHIMEさん、ありがとうございます。

実はこの物語は詩を下敷きにして描いたものでしたので、そう言っていただいて嬉しかったです。
絶望はもしかしたら人を試しているのかもしれませんねえ。
だったら乗り越えてみたい、そんな男なのではと思います。
このゆくすえは私も想像してみましたので、そう言っていただけて
ふたりも喜んでいることと思います。

15/05/07 そらの珊瑚

文末の「変」は、ミスです。申し訳ありません。

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