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五助さん

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まだ、だいぶある

14/01/28 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:1件 五助 閲覧数:1027

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 遠いわけではない、険しいわけでもない。走るわけにも行かず、ゆっくりと歩くほど余裕があるわけでもない。夜の道を、急ぎ静かに歩いている。
 春になれば、この道すがら桜の花が咲き乱れる。夜の闇に浮かぶ白い花びらは、恐れとも美しさとも足を止め見いってしまう。今は冬、枝先に、つぼみを蓄えじっとしている。
 子供の笑い声が聞こえる。民家の一室から、テレビでも見ているのだろうか、それとも、学校で何かおもしろいことでもあったのだろうか、楽しそうな笑い声が聞こえる。何か特別な日なのかも知れない、誰かの誕生日か、お祝い事か、お母さんがとてもおいしいごちそうを用意してくれて、家族一緒に食卓を囲む、その後、だめだ考えるな。何か他のことを考えろ。
 月が見えている。雲の陰に隠れ、うっすらとだが見えている。意外と早く動いている。この月は太古の昔からたいしてかわらず、ずっと回っていた。世界をのぞき込みながら人類の歴史を、その浅はかな変わり様をあきれながら回っていたのだろう。
 少し先に信号機がある。黄色から赤へ、交代したところだ。あまり急いでも意味がない。  
 月から見れば、私のような存在は砂粒のように小さく、ありふれている。私の存在が世に与える影響は限りなくゼロに近く、私自身それでいいと思っている。だからといって、私が内包する苦悩、私自身しか感じることのできないそれは、あまりにも大きく、私自身を苦しめている。存在の大小にかかわらず内包する苦悩はいずれ訪れる。
 横断歩道を渡っているところ、右折車がろくに減速もせずにつっこんできた。私は慌てて小走りに信号を渡った。ちらりと見えたが、運転手は携帯電話をしながら運転していた。車のエンジン音が徐々に遠ざかっていく。
 いつかすべてが終わる。時間というものは、意識の存在によって長くもなれば短くもなる。息を整えろ。記憶は時間をあらわさず意識のみが時間を認識する。考えるな。未来は誰にもわからず、かすかな予感に満ちている。耐えろ。もしあの時、ああしていえば、もしこうなることがわかっていたら、引き返すことを決断していたら、時間よ戻れ、かなわなければせめて進めて欲しい。ずっとずっと先、安らぎの地へ。ああー!
 目を広げ呼吸を止める。
 けいれんに足が止まる。 
 背を伸ばし尻を固める。
 いかん。もう、もれる。


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このストーリーに関するコメント

14/02/07 gokui

 読ませていただきました。
 絶望とはまた違う気がしますが、面白かった。これは二回読まなければおもしろさが分かりませんね。『存在の大小にかかわらず内包する苦悩はいずれ訪れる』って、この大小の意味が分かったときのおもしろさったらありません。馬鹿げたおもしろさでは今回ナンバー1ですね。

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