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むあさん

ほっこりする短編を書くのを常に目標にしてます 小説家になろうにて主に執筆していますが、何か思いつくとこっちにも投稿します。未熟者ですが、書くことは人一倍好きで人一倍時間を費やします。

性別 女性
将来の夢 大切な何かを見つけて、のんびりゆったりモノガタリをかきながらの暮らすこと。誰かを救える人になりたいです。
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ある冬の朝

14/01/27 コンテスト(テーマ):第四十八回 時空モノガタリ文学賞【 昭和 】 コメント:1件 むあ 閲覧数:991

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 まだ夜も明けていない冬の早朝。
 キュッキュッと音を立てつつ、家々の郵便受けに詰め込む新聞。軽快な足跡を響かせて走る中学生の少年か……高校生の青年か。
 配達が終わり、作業場に戻った彼は、軽くなった肩掛けの鞄を背負い直し、少しずつ赤ばんできた空に向かって手を突き上げる。今日は何円稼げたか、そんなことを思いながら、彼は家路を急いだ。

 早々に起き始めた、母達の作る朝餉の匂いが、軽い準備運動を終えた彼の鼻腔をくすぐる。きっと、お腹を空かせている。彼はそんな匂いに複雑な表情をしつつ、それでも今日の勤務を終えた充実感の方が優っているのか、その駆ける足音は軽い。
 窓の立て付けが悪いのか隙間から湯気と、一際目立つ包丁の音。

 トントントントン

 いつも耳にするそんな音に合わせ、軽く足を踏み鳴らして駆けていく。


 タッタッタッタッ
 トントントントン


 まだ辺りは暗闇に閉ざされている。しかし、そんな大根を刻む音が、ひとりでに子供達を起こしていくのだ。

 目覚まし時計なんてない。
 母が呼びかけることもない。
 自然な目覚め。


「母さんおはよう」
「お母さんおはようございます」

 寝巻きのままでも礼儀正しく、小さな子供達が挨拶する。年長になるにつれて寝巻きではなく普段着に着替えてから父母らに挨拶するようになる。そんな、当たり前の日々。




 穏やかな暖色が、辺りを包む。
 吐く息が白く、朱に染まる空に浮かんで消える。
 新聞配達の青年も、もう家に着いて、食卓で新聞を広げる父に挨拶していることだろう。



 朝日が眩しい、6時半過ぎの寒空。
 今日も、また、朝が来た。




 テーラードコートの裾を手首に添わせるように引き下げ、ただ隙間風の吹き込むマフラーの中に首をすくめて歩く私。

 ただただこの懐かしき光景を頭に思い浮かべながら、朝日を見やる。
 あの時代は、実に良かった。
 実に良い、時代だった。


 子供達にも、見せてやりたいものだ。あの、穏やかな、微笑みの時代を。
 そう思いつつ、今日もあの【かつての新聞配達の青年】は、年齢を感じるようになった足腰に鞭を打ち、その革靴で地面を蹴る。


 ーーただ、それだけの話。


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このストーリーに関するコメント

14/01/29 そらの珊瑚

むあさん、拝読しました。

どこか散文詩のような詩的味わいがありました。
家族が密閉された個室で寝るのが当たり前となった現代では
大根を刻む音がめざまし代わりといういおつな日常も失われてしまったかなあと。
しみじみとした昭和のひとコマをそっと取り出したような逸品ですね。

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