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黒糖ロールさん

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死神の憂鬱

14/01/19 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:12件 黒糖ロール 閲覧数:1671

時空モノガタリからの選評

友人のひどい言葉に「冗談きついな」とどこかあっさりとした反応を見せる「わたし」の絶望が、死神との対話のなかで癒されていく過程が自然でとてもいいですね。死神の禁句が「極楽」というのは面白いし納得です。確かに死神と極楽は相性が悪いことでしょう。
比較的淡々としているように見える主人公ですが、死神を呼び寄せてしまうくらい、彼女の絶望は深かったのでしょうね。彼女の気持ちの描写は最小限にとどめながらも、死神とのやりとりを通して心境の変化が描がかれているので読みやすかったと思います。死神が消えると同時に彼女の心に光が差しこむラストが、自然で爽やかな後味を残していました。 

時空モノガタリK

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 ヘッドフォンを耳に押しつけ、大音量でロックを聴いていると、心が落ち着く。今もベッドにもぐりこみ、激しい音の波に自分を埋没させている。今頃、両親と妹は、テレビを見ながら夕食をとっているのだろう。
 プレイヤーの音量を上げた。ヴォーカルの絶叫が、階下の家族団欒の想像を少しは壊してくれる。
「あんた生きてる意味ないよね」
 友人の言葉がフラッシュバックする。「冗談きついなあ」と返しながら、笑い顔を作るしかなかった。
 友人は蔑むようにこちらを一瞥して、別のクラスメートのほうに走っていった。
 あれから、わたしは学校でひとりだ。
 アニメに出てくるような楽しい学校生活を期待していたわけじゃない。それでも、こんな日々は御免だった。生きていることが恨めしく、命を授けてくれた両親を恨むようになっていた。そんな自分が薄汚い存在に思えてくる。
 それに今、苦しみに浸り切ることもできない――。
 体を起こし、枕元を見た。やっぱりいる。
「何してるの」
 体操をしている小人を睨みつける。落ち武者のような禿頭をした白装束のおっさんは、両腕を回している。
「体操や。死神業も体が資本や」
 小人は自称死神だったりする。成績は悪いらしい。元々は体も通常の人間ほどあったらしいが、仕事に失敗するたびに体が縮んでしまう罰を受けるらしく、今は缶ジュースぐらいの大きさだ。
「で、いつ死ぬんや? 後生だから死んでくれ」
 関西弁が鬱陶しい。
「そっちが死ねば」
 冷たく言い放ってやった。
「そんな汚い言葉、人に向けて使ったらあかん。使っていいのは、うちら死神だけ」
 おっさんの微妙なウインク顔は、小人サイズでも吐き気がする。
「わたし自身が汚いから」
 小人は困った顔をすると、汚いことあらへん、あんたはべっぴんさんや、などと慰めてきた。相手をするのが面倒になり、掛け布団を頭までかぶる。布団越しに小人の関西弁が聞こえる。そのまま眠ってしまった。

 小人の体操の掛け声で目が覚めた。朝日が眩しい。時計を見ると、九時を回ったところだった。ため息を吐き、ベッドから降り立った。
「あんたと会って、何日経ったかいな」
「……今日で三日目」
「え。明日締め切りやん。死神の仕事だけに四日間やねん」
 そう言いながら、小人は慌てた様子もなく屈伸運動をしている。わたしは部屋を出て、リビングに向かった。
 キッチンに立つ母親から、平坦な気遣いの言葉をもらう。こちらも、休みたいといつものように返事をする。
 トーストと目玉焼きを交互に流し込みながら、テレビのニュースを眺めた。小人は、さも当然というように、テーブルの端に座りテレビを見ている。
 食事を終え、席を立とうとすると、小人が何か言いたそうだった。
「何よ」
 小声で問うと、学校に行かんのか、と父親のようなことを言ってきたので無視した。
「ちゃうねん。お願いがあるねん。風呂に入りたいねん」
 白装束の袖を振り回しながら、小人がいつになく真剣に訴えてくる。本題はそっちかと思いながら、暇だったので少し考えた。
 食器棚から、大きめの陶器製ボウルを取り出すと、ポットのお湯を注ぐ。母親の視線を感じたが、深くは聞いてこなかった。ボウルをお湯で満たすと、そっと階段をのぼって、部屋に持ち込んだ。
 机の上にボウルを置いた。小人はボウルを覗きこんでいる。指をボウルの中にいれると、小人はすぐ手を引っ込めた。ボウルの側に小人は寝転んだ。お湯が冷めるのを待つことにしたようだ。
 わたしは、またベッドにもぐりこんだ。小人が勝手に喋り始める。
「明日締め切りやけど、あんたええ子やから死なんでええんちゃうか、思ったりするねん」
 心底どうでもいいと思いながら、天井を見つめる。
 ――そろそろ頃合いや。入らしてもらいますわ。あ、こっち見んといてや。恥ずかしいから。
 ――ええ湯ですなあ。白い陶器の風呂ってのは乙ですな。
 小人の独り言を聞いてるうちに、微笑んでいる自分に気づく。幸せそうで羨ましい。
 ――極楽、極楽……。ああ!
 急に大声がしたので机の方に目をやると、小人がボウルから情けない顔をこちらに向けている。
「禁句ゆってしもた……。極楽は、仕事キャンセルの宣言やねん。うっかりしとった」
 そうですか大変ですね、と丁寧に嫌味を言ってやろうと口を開けると、小人は消えていた。
 部屋が静寂に包まれる。
 わたしは机に近づいた。そっとボウルの中を見ると、窓から差し込む光が、ぬるま湯と白い陶器の肌を、ただ照らしているばかりだった。


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このストーリーに関するコメント

14/01/21 石蕗亮

初めまして。
拝読させていただきました。
面白かったです!死神の禁句が良かったですね。
あと関西弁なおっちゃんというのも味がありました。

14/01/21 黒糖ロール

はじめまして。
お読みいただきありがとうございます。
面白いといっていただけて嬉しいですー。

石蕗亮さんは多作でいらっしゃるようで見習いたいですっ。

14/01/23 石蕗亮

私は現実逃避で書いているので文章がかなり稚拙でお恥ずかしいかぎりです。
いつも殴り書きなのできれいな文章にならず、自分でもよみにくいな、と思ってます。
その点、黒糖ロールさんの文章はパッと目について引き寄せられました。
読みやすく、自然に入ってくる文章と構成でした。
見習いたいです^_^

14/01/23 

拝読いたしました。
主人公の孤独感や絶望感と死神の禁句が対照的で面白かったです。

14/01/23 黒糖ロール

石蕗亮さん

私も現実逃避で書いてます(笑)

いろいろおほめいただいて恐縮です(汗)
文体については人それぞれだと思いますので、
石蕗亮さんの味というものがあって素敵だと思いますっ。

14/01/23 黒糖ロール

榊さん

お読みいただきありがとうございます。
気がつけばオチがああなっていました(汗)

14/01/30 そらの珊瑚

黒糖ロールさん、拝読しました。

「私」が学校で対面している重い現実と、
死神のとぼけた(風呂にはいりたいねん、笑いました)それも関西弁の! キャラクターの対比が実に面白かったです!

14/01/31 黒糖ロール

そらの珊瑚さん

こちらもお読みいただけたようでありがとうございます。
笑っていただけましたら幸いです。
この女生徒とおっさんのやりとりは楽しんで書けました。

14/02/02 murakami

こんにちは。はじめまして。

死神のキャラクターがすごくよかったですし、会話も面白かったです。
他のお話もよかったですが、特にこれがよいと思いました。

14/02/03 黒糖ロール

村上さん

はじめまして。
お読みいただいてありがとうございます。
キャラクター命の物語なので、キャラクター楽しんでもらえたのならよかったです。

14/02/05 gokui

 読ませていただきました。
 うーん、なんか絶望感ゼロ。楽しませていただいちゃいました。キャラ設定抜群です。死神の元ネタってもしかして目玉のおやじですか?

14/02/08 黒糖ロール

gokuiさん

お読みいただき感謝します。
元ネタは、女優の釈由美子さんがテレビで話されていたちっちゃなおっさんです。

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