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メラさん

 主に純文学系を書いていますが、特にジャンルにこだわっているわけではありません。気ままに、マイペースに小説を書いてます。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 知足。悠々自適。日々新た

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その手の中で

14/01/16 コンテスト(テーマ):第四十九回 時空モノガタリ文学賞【 絶望 】 コメント:8件 メラ 閲覧数:1273

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 歓喜、という言葉がぴったりだったと思います。あなたにとってあの日、あの瞬間の歓喜といったら、私も見ていて涙が出るほどでした。いえ、歓喜の瞬間だけではなく、あなたが積み重ねてきた努力。耐え忍んだ日々。私は遠くから見守っていました。だからあなたの感じた喜びの大きさは、計り知れないものでしょう。
 あなたは女性の私から見てもうっとりするくらいの美貌に溢れ、やさしく、目標に向かって健気に努力するという真っ直ぐな心を持ち、そして真の実力を兼ね備えたダンサーとして、これから素晴しい未来が待っている事でしょう。まだ高校生。あなたに輝かしい未来の他に、いったい何があるというのでしょうか?大きな賞を取り、テレビでドキュメンタリーを組まれるかもしれないという噂も、ちゃんと私の耳には届いています。おめでとう。小さい頃からの努力が、ようやく実を結んだのですね。
 私はあなたが中学生になる頃に、ようやく教員免許を取得し、あなたが住む町の駅近くのアパートに引っ越しました。初めは中学の非常勤をしながら、あなたが通う塾の講師を、アルバイトで始めました。そしてあなたが志望する私立高校で働きはじめました。幸いにも、あなたの国語の担当です。明るく面白い先生と、ほとんどの生徒が思っていることでしょう。それが私の演技だとは知らずに。
 私は二十歳の頃、ある男にレイプをされました。ノコノコと部屋について行った私も私ですが、人生最初の性行為が、裏切りと作為に満ちた「強姦」だったのです。
 あなたのお母さんは当時、キャンバスでも有名な美女でした。私は彼女に比べると地味な容姿でしたし、性格も明るくはありません。どうしてそんな私と親しくしていのか、今でも理由はよく分かりませんが、私はいつも彼女の影のような存在だったと思います。
 その彼女の交際相手が、どういうわけか私に興味を持っていたそうです。私の胸が大きいのと、処女であったことが、彼の一番の興味になったそうです。
 独占欲の強い彼女は嫉妬に狂いました。そしてその怒りは彼にではなく私に向いたようです。彼女は親友のフリを続けながら、巧みに私を陥れる手段を考えていたのです。
 私はあなたの母親である彼女に恨みを晴らす事がすべての目的で、恥辱と屈辱にまみれながらも生きてきました。
 私の復讐はこれから始まります。ようやく始まります。
 しかし、どうしてあなたなのか。
 あなたの母はブクブクと太って当時の美貌は見る影もありません。夫への愛も冷めています。人生に疲れています。だから娘のあなたに多大な期待をかけていますね。
 あなたの歓喜はこれから私のものになります。私の絶望がこれからあなたのものになります。
 あなたは人々の目に触れる事でより輝きをましています。
 私はインターネットで知り合った男と秋葉原で会い、非合法の媚薬を買いました。その薬は、たとえどんな相手だろうと愛情と性的欲求を感じ、そして尋常でない快感を感じてしまう薬品です。
 あなたが媚薬で夢中でさせられる男性に、不潔そうな中年の男を選びました。私自身も彼の口臭のせいで、交渉するのに骨が折れました。側頭部の髪の毛は脂ぎり、フケが浮いています。幾ばくかの謝礼で、彼は美貌なあなたを強姦する事を承認してくれました。
 今あなたが飲んでいるオレンジ・ジュースに、その媚薬はすでに溶けています。 
 あなたの進路の事などを相談したいと、私はあなたをお茶に誘いました。
 私は何食わぬ顔であなたの進路の話をしながら、体は戦慄しています。もうじき私の復讐劇が幕を閉じようとしているのです。
 店を出て、アパートに向かいます。ここの近くに先生のお家があるの、だからそこでゆっくり話しましょう。
 私は彼女と並んで町を歩きます。薬のせいか、あなたは頬に赤みをさしています。
 彼女の美貌に、多くの男性が振り返り、目を奪われます。
 しかしふと気づいたとき、私は固いアスファルトの上で寝ていました。
「先生!先生!」
 あなたは泣きながら、必死な様子で私にそう話しかけてます。いったいどうした事でしょう。
 しかしこんな至近距離であなたの顔を初めて見ましたが、神々しいばかりに美しい。どうして神はこうも我々人間の容姿に美醜と優劣の差を作ったのでしょう。
 記憶が蘇ってきました。交差点を渡る時、トラックが歩道を直進してきたのです。私は咄嗟に横にいるあなたを突き飛ばしました。トラックの大きな車体が目の前に飛び込んできました。
 あなたが私の手を握っている事は分かります。そして必死に呼びかけています。でも段々声が聞こえなくなってきました。音が、遠のいくのです。全身が、冷たい水の中に浮かんでいるようです。
 もっとも美しく、もっとも憎いあなたの手の中で。私の復讐は終わるのです。私の絶望は、私のまま。

  


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このストーリーに関するコメント

14/01/16 平塚ライジングバード

メラ様
拝読しました。

絶望というテーマに投稿された作品であることを前提に
読ませていただきましたが、冒頭の少女の栄光が淡々と
語られるシーンから、この後どんな悲劇が展開するのだ
ろうと戦慄しました。
卓越した文章力に裏付けられた、息を呑む文章・展開に
本当に引き込まれました。
面白かったです!!

14/01/17 草愛やし美

メラさん、拝読しました。

そして、ラストの切なさに、驚きを持ちながら、正直な気持ち、安堵している私がいます。絶望は私のままに……。よかったのでしょうか? よかったのですよね。彼女をかばった時点でそれはそうあった結果ですから。
人間関係の複雑さによって生じた復讐心、ですが、絶望を人のものにできずに終わるこの話に感動しています。人の心、真の部分、芯の部分とでもいうのでしょうか。きっと、彼女は絶望を私のままにしながらでいいのではなかったかと、私は願ってしまっています。
読みごたえのある深い内容の絶望でした、ありがとうございました。

14/01/17 泡沫恋歌

メラさん、拝読しました。

絶望というか、こんな復讐は失敗した方が絶望ではないように
思いますが・・・。

相変わらず、メラさんの描写が上手くて、展開を楽しみながら
一気に読み進むことができました。

読み応えがあって、面白かったです。

14/01/17 クナリ

絶望というテーマの下、短い字数の中で、よくぞここまでというくらい
「嫌なこと」が詰め込まれていますね…。
あれよあれよというまに文章に運ばれていき、待ち受けているのは
このラスト。
さすがですね。

14/01/18 朔良

メラさん、こんばんは。
拝読いたしました。

冒頭から引きこまれてしまいました。
少女に対する想い、若いころに受けた屈辱と絶望、そして復讐…。
もっとも憎い相手、と言いつつ、主人公は“あなた”のことを憎み切れてないような気がします。
復讐が果たされずに終わって、一番ほっとしているのは、実は主人公自身なのでは…。
面白かったです!
素晴らしい復讐と絶望の物語、楽しめました。ありがとうございました。

14/01/18 メラ

平塚ライジングバードさん(いいネーミングですね)、草藍さん、恋歌さん、クナリさん、朔良さん、コメントありがとうございます。
ノベリストでも同名作品を投稿していますが、この三倍強の長さです。ここまでカットするのに苦心しましたが、これはこれでうまくまとまったと思います。
確かに自分自身、よくこんな「嫌な事」書くよなと呆れています。復習は遂げれず、この主人公の女性は実はほっとしているのかもしれませんね。

14/01/26 石蕗亮

メラ様
拝読させていただきました。
人間臭さが滲み出ている、リアルな感覚で読み進めていきました。
本当にこの先生がここで語っているかのようなリアルな感覚でした。
経験した人でなければ見えない壁の向う側の景色。
それを彷彿させる作品でした。
とても良かったです。

14/02/04 gokui

 読ませていただきました。
 深い作品ですねえ。根底の主人公の心理は、教え子を助けたところにあるのでしょうか。では、表面で考え、行動している主人公の行為こそが、『私の絶望』になるのでしょうか。主人公の復習とその失敗で終わらないところが深いですね。考えさせられました。

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