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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

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ひだりうま

14/01/07 コンテスト(テーマ):第二回OC【 馬 】  コメント:6件 かめかめ 閲覧数:1935

時空モノガタリからの選評

 「馬」の字をくるりとひっくり返して書いたものを「ひだりうま」と読むという。「うま」の反対「まう」とも読める。それがこの話の宮地流の地唄舞に結びついているという実によく考えられた着眼点だと感心しました。古き良き時代を想像させる文体にも趣きがありました。
 その舞を伝承していく運命の後継者に待っていたのは修練の厳しさ。それでも逃げ出さずに凛としてそれに励む二人の乙女の姿にとても美しいもの、使命感のようなものを感じました。
 現代では個人の幸せを追うことは誰にも当たり前のように与えられた権利だと思いますが、個を犠牲にしてまで伝統を守るという非常なある意味な理不尽な世界。
そのようなことは日本の小さな集落においてかつてたくさんあったのではないかと想像します。歌舞伎は現代でも脈々と命ながらえていますが、知られることなく滅んでしまったものも多数あったのではと思いました。

そらの珊瑚

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 美代子は左手でもてあそんでいた舞扇で、ふと汗ばんだ襟元をあおいでみた。宗家に見つかればどれだけ叱られるかしれない。虫の居所が悪ければ「破門だ!」と怒鳴りつけられるかもしれない。
「それもいいのかな」
 ひとりごちて美代子は稽古場の柱に肩をもたせ掛けた。

 小さな流派だ。宮部流というのは。
 片田舎に残る土着の地唄舞。
 宮部村に住むもの意外で宮部流の名はおろか、舞を見たことがあるものはいない。地元の小さな神社で年に一回行われる秘祭の、さらに隠された秘儀なのだから。
 村で舞を修めているものも数少ない。代々、宮部家の長女が宗家として舞を伝承し、三人の弟子を持つ。一人は宗家の娘、あとの二人は神事によって選ばれる二人の村民である。
 秘祭の夜、その年に生まれた女子の名を書いた的に向かい二本の鏑矢が射放される。鏑矢は美代子の名を射止め、その晩から美代子は宮部流を継ぐ双翼の一方に決まった。
 稽古は厳しかった。三歳から舞自体はもちろん、日常の立ち居振る舞いに始まり、言葉遣い、着物の選び方、食事の内容まで決められていた。それは学校に行っても同じ事で、教師も同級生も皆、村の舞手には距離を取り、彼女たちが『ケガレ』なきように気を使った。

「美代子さん」
 呼びかけられ、はっと姿勢を正し帯の上部を右手で隠す。振り向くと姉弟子の伊予だった。
「どうなさったの、何か悩み事?」
 ふうわりと天女のような微笑をうかべる伊予に、美代子は言葉を飲んだ。宗家の娘である彼女は、美代子とは比べ物にならないほど厳しい環境に身を置いている。とても泣き言を漏らせる相手ではなかった。
「いいえ、お姉さま。なんでもありませんわ」
 ぎこちなく笑って見せたが、伊予は美しい眉を寄せ心配げな表情になった。
「わたくしたち、姉妹のようなものじゃないの。なんでもお話ししてくださいな」
 心から心配している様子の伊予に心動かされ、美代子は口を開いてしまった。
「お姉さまは、疑問に思われませんか」
「疑問?何にですか?」
「この舞……、いえ、この村にです」
 美代子は決然として伊予に相対した。
「舞のために生活どころか、人生まで捧げなければならない。学業も友人も、舞のために犠牲にしなくてはならない。それに、こ……恋だって……」
 うつむき肩を落とし、美代子の声は聞き取れないほど小さくなった。その肩に伊予は優しく手を置く。
「美代子さん、好きな方ができたのね」
 うつむく美代子のうなじは、つややかな桜色に染まった。伊予はふと笑んだ。
「どんな方なのかしら。わたくしに、ないしょで教えて」
 声をひそめ問う伊予に、美代子は目を合わせることができない。伏目がちにちらちらと伊予の膝あたりをうかがいながら小声で答えた。
「美術部の方なのです。わたくしの舞姿が美しいと誉めてくださって……。それで、手作りの根付をくださったのです」
 美代子の帯の上に、馬の根付があった。駆けている最中に振り返ったように左上に顔を向けている。いかにも手作りらしい素朴な風が好もしかった。
「まあ、愛らしい馬の根付ですね。その方も美代子さんを好いておられるのね」
 真っ赤になった顔を上げ、美代子は姉弟子を見つめた。瞳にたっぷりとした涙を溜めて。
「お姉さま、わたくし、普通の子のようになりたいのです。放課後にクラスに残っておしゃべりしたり、好きな方と手をつないで帰ったりしたいのです。舞さえなければ、わたくしも、わたくしだって……」
 伊予は静かな瞳をしている。まるで祭の夜の満月のように凛とした、それでいてあたたかなまなざしだった。
「美代子さん。美代子さんは舞がお嫌い?」
「いいえ、おねえさま。わたくし舞が好きです。でも、それよりも、わたくしはあの方を好きになってしまったのです」
 伊予は手を伸ばすと、そっと美代子の根付に触れた。
「ねえ、美代子さん、ひだりうまと言う言葉をご存知?」
「いいえ、存じませんわ」
「左馬の根付は縁起が良いとされているの。うま、と言うことばを左向きに書くと、まう。お祭で舞う祝福を身につけられるというわ。ねえ、美代子さん。その方は美代子さんが舞う姿がお好きなのでしょう?だからこそ左馬の根付をプレゼントしてくれたのではないかしら」
 伊予は美代子の手を取った。
「あなたの舞姿が、その方の心を捉えたなら、きっと待ってくださるわ。私たちがお勤めを終える十八まで」
 美代子は帯に下げている根付をそっと撫でる。左上を向いた馬の瞳が、思う君の瞳に似ているように感じられた。根付を身につけていれば、いつも見つめてもらっているよう感じることができるだろう。
 小さくうなずいた美代子の手を引き立たせると、伊予は初めて厳しい表情を見せた。
「さあ、美代子。お稽古を始めますよ」
 美代子も口を引き結び、扇を手に取った。


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このストーリーに関するコメント

14/01/10 そらの珊瑚

かめかめさん、拝読しました。

投稿ありがとうございました。
どこか古い時代を感じさせる物語ですね。
小さな村で秘儀の舞の後継者になってしまった
どこかいけにえ的な運命を背負ってしまった悲哀が伝わってきました。
それでも凛とした美代子が素敵です。
「ひだりうま」からこのように趣きのある物語を紡がれることに感銘を受けました。

14/01/13 かめかめ

>そらの珊瑚さん
オーナーコンテスト開催、おめでとうございます。
馬と言うテーマ、なんでだろう、そらの珊瑚さんは馬好きなのかな……
としばらく考えていました。
そういえば、今年は午年でしたね〜〜^^;

伝統芸能にはどうしても縛られてしまいがちなように思います。そんなところを読み取っていただけてうれしいです。

14/01/17 かめかめ

>猫春雨さん
コメントありがとうございます。
待ってやってほしいですね〜。私が言うのも変ですが

14/02/02 光石七

拝読しました。
恥ずかしながら根付もひだりうまという言葉も知らず、慌てて調べました。
改めて読むと、厳しい秘儀・伝統芸能の世界の中に古き良き日本が感じられますね。
素敵なお話をありがとうございます。

14/02/10 かめかめ

>光石七さん
あわわわわ。
検索させてしまって申し訳ありません。
一般的でない言葉は作中で説明すべきでしたのに……。

少しでもお気にいっていただけたなら、うれしいです。

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