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昭和先生

14/01/05 コンテスト(テーマ):第四十八回 時空モノガタリ文学賞【 昭和 】 コメント:4件 るうね 閲覧数:1505

時空モノガタリからの選評

「旧人類」「新人類」と決めつけられ困惑する‥…これは時代の境目に生まれた人間には宿命的につきまとう問題なのでしょうね。時は連続して流れているのにたった数年の違いで「旧人類」と言われるのは「昭和先生」にとって理不尽なことだと思います。ですが、平成の世になってスマホやケータイが普及してからは、コミュニケーションのあり方もずいぶん変わってしまった感はあります。「昭和先生」にとっては生徒達の態度は理解できないのでしょうね。
「全く面倒をかけられなくなったら、教師っていう職業はどんなにかつまらないものだろう」という「父」の言葉が印象的です。「ゲームで負けた罰ゲーム」で見舞いにきたと正直に言ってしまうような「新人類」とつき合うのは「昭和先生」にとっては面倒なことでしょうが、それをおもしろがって付き合うしかないのかもしれません。

時空モノガタリK

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「廊下は走るな、といつも言ってるだろう! 何回言えば分かるんだ!」
 克也が注意するとその男子生徒は、すみません、と頭を下げた。不承不承という言葉が、しっくりくる態度だった。それが、克也の癇に障る。
「大体、お前らはだな」
「あの」
 その男子生徒は最新型のスマホを取り出して時間を確かめると、そう口を開いた。
「そろそろ部活の時間なんで、行ってもいいですか」
 明らかに迷惑そうな表情。それを隠そうともしない。
 彼の友人たちも、克也に非難するような視線を向けている。
 新人類。
 克也の頭にそんな単語が浮かんだ。
 怒る気も失せ、手で行くようにうながす。
 友人とともに去っていく男子生徒の声が聞こえた。
「いやー、ついてないよ。昭和先生につかまっちった」
 なにが昭和先生だ!
 克也は内心憤る。
 昭和というのは彼の名字ではない。むろん名前でもない。
 この学校で唯一となってしまった昭和生まれの先生。
 旧人類。
 それが今の克也の立ち位置だった。


「てなことがあったんだよ、親父さん」
 その夜、飲み屋の屋台で克也は店主相手に愚痴をこぼしていた。
「なにが昭和先生だよ。あいつら、教師に対する尊敬の念なんて微塵もありゃしない」
「そうだねぇ」
「平成以降の生まれなんて、みんなあんな風なのかな」
「そうかもねぇ」
「俺が学生だった頃はさ……」
「そうだよねぇ」
「…………」
 明らかな生返事を返してくる飲み屋の店主に、克也は半眼で問う。
「親父さん、あんたいつの生まれ?」
「平成三年ですけど」
 世も末だ、と克也は天を仰ぐ。


 家に帰ると、妻はもう眠っていた。
 食卓の上に、カップラーメンが乗っている。帰りを待つ気ゼロだ。そういえば、妻も平成生まれだったな、と克也は投げやりに思い出していた。
 なんだか寒気がする。早く温まって寝よう、と思いながら、風呂へ行ってみると、すでに栓が抜いてあった。がっくりと肩を落とし、そのまま寝巻きに着替え床に入る。隣で寝ている妻に一言文句でも言ってやろうかと思ったが、その気力すらなかった。頭まで布団を被り、泥のような眠りに落ちていく。


 次の日、克也は風邪で学校を休んだ。
 妻などは鬼の撹乱だと笑っていたが、当人にとっては笑いごとではない。
 風邪などほとんどひいたことがなかったのに。もう年か。それとも、なにか大きな病気の前触れではないか。
 前日のこともあって気力が衰えていたのか、どうにも弱気になってしまう。ああ、もう仕事など辞めてしまおうか。
 そう思いながら、克也は再び眠りにつく。


 夢を見た。
 父の夢だった。
 父も克也と同じ教師で、よく家では生徒の愚痴をこぼしていたものだった。ただ、その表情がどことなく嬉しそうだったので、いつぞや克也はそのことについて訊いてみた。
「生徒は教師に面倒をかけるのが仕事なのさ」
 父は迷わずそう言った。
「全く面倒をかけられなくなったら、教師っていう職業はどんなにかつまらないものだろうと思うよ」
 そう照れたような表情で話す父の姿を見て、克也は教職に就こうと思ったのだった。


「あなた、お客様よ」
 妻の声で、克也は目を覚ました。
 見ると、戸口に克也のクラスの男子生徒が二人、立っている。
「昭和先生、お見舞いです」
「お見舞い?」
 どういう風の吹き回しだ。克也がそう問う前に、男子生徒はつまらなそうに。
「ゲームで負けた罰ゲームで」
「……お前らな」
 克也は布団から起き上がる。少し体調が戻ったのか、だいぶ気分は良くなっていた。
「そういうことは、本人の前で言うもんじゃないぞ。あと」
 と、克也は言葉を切り、
「俺は昭和先生じゃない!」
 苦笑しながら、男子生徒の頭にゲンコを見舞った。


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このストーリーに関するコメント

14/01/22 光石七

拝読しました。
平成生まれが圧倒する社会も近い気がしますが、いずれ彼らも古い人間になるわけで。
最後の場面、よかったです。罰ゲームだとしてもお見舞いはうれしかったでしょうね。
教師としての原点に返り、主人公がこれからまた頑張っていくことがうかがえて、心が温かくなりました。

14/01/25 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

いやー、構想段階ではもっと「いい話」になる予定だったんですが、いまいち決まりませんでした。私も昭和後半の生まれなので、定年近くには肩身の狭い思いをしそうです。
心が温かくなったと言っていただけて嬉しいです。
ありがとうございました。

14/02/26 高松塚

拝読いたしました。
もう少し、長い文章で読みたかったかも知れません。特に、お父さんとの下りは。(制限があるから、仕方ないのですけれども)
良い話だと思いました。
最後のゲンコは、モンスターペアレントが黙っていませんよー。

14/02/26 るうね

るうねです。
コメント、ありがとうございます。

たしかに、全体的に淡々と筆を進めてしまった感があります。父親とのくだりも含めて、もう少し筆を割くべきでしたね。字数にもいくらか余裕があったはずなので。
良い話だと言っていただけて、嬉しいです。
最後のゲンコはやっぱり「昭和」の先生を象徴するものかな、ということで、あえてモンペの存在を無視ししました(笑

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