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佐川恭一さん

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性別 男性
将来の夢 ノーベル文学賞受賞
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冬の再会

14/01/01 コンテスト(テーマ):第四十七回 時空モノガタリ文学賞【 再会 】 コメント:0件 佐川恭一 閲覧数:943

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 大学に入ってすぐにつきあい始めた彼女と別れたのは大学を出たときだと思っていたけれど、それから五年がたって、「別れるとか別れないとか、ちゃんと言葉にしていなかったな」と気がついてふと電話してみると、彼女は屈託のない調子で「ひさしぶりに会おうよ」と言った。せっかくだから一度会ってしっかり話をしようと思った。何事もなあなあに終わらせてしまうのがぼくの悪いくせだった。言いにくいことは言わなかったし心に負担のかかることはしなかった。でも、ぼくが放り出した責任の分だけ、他の誰かが傷ついているはずだった。そういうことはもうやめようと思ったのだ。

 冬のある日、待ち合わせをしている場所に約束の時間ちょうどにつくと、彼女はまだ来ていなかった。付き合っていたころ、そんなことは一度もなかった。いつも二十分だか三十分だか早めにきて、「ぜんぜん待ってないよ」というのが彼女だった。ぼくはそんな小さなことで、彼女が以前の彼女と決定的に変わってしまっていることを感じた。

 スマートフォンをいじりながら、時々まわりをきょろきょろと見渡したりして、彼女の到着を待った。カップルたちが待ち合わせに成功してどこかへ旅立っていくのをたくさん見送り、昔の彼女もこんな気持ちだったのかなと思った。ぼくは待ち合わせによく遅れていたから、彼女が一時間以上立ち尽くしていたことも少なくはないはずだった。
 彼女がやってきたのは待ち合わせの時間から二時間たった後だった。
「ごめん仕事で、連絡もできる状況じゃなくて、変わってないね」
「そっちも全然変わってない」
 ぼくたちはお互いをどう呼べばいいのかわかっていなかったと思う。その日は何をするのか決めていなくて、「どこ行く?」と聞くと「やっぱり変わってない」と彼女は笑った。結局彼女のよく行くらしいバーでお酒を飲むことになって、「ここすっごく面白いよ」と瞳をきらきらさせて言った。へえ、面白いってどんな……と聞く前に彼女は「いつものやってよ」と、とても格好良いバーテンダーに声をかけた。

 ぼくはほんとうに驚いたのだけれど、とても格好良いバーテンダーは流れ始めた音楽にあわせてボトルや銀のシェイカー、それにグラスをくるくると回したり放り投げたりしながら、酒の一滴もこぼさずにカクテルを作っていった。「すごい、すごい」と時おり拍手もまじえながら、ぼくはそれに魅入った。彼女も歓声をあげながら、そんなぼくを満足そうに眺めていた。

 一通りのパフォーマンスが終わり、ぼくがそれで作られたカクテルに口をつけながら彼女に話を切り出そうとすると、「そうそう、もう一人、フレアバーテンダーがいるのよ。うん、いいよ」なんて言い出して、今度はとても若い男が準備を始めた。
「フレア?」
「うん、ああいうパフォーマンスができるバーテンダーね」
「ふうん」
「最近はまってるんだ、ああいう、頭を使わないで楽しめるようなのに」
「何それ、疲れてるの?」
「少しね。でも、見てるの楽しいでしょ?」
 ぼくは正直なところ、たて続けに二度見たいと思わなかった。どんなものだってそうだと思う。
「ねえ、ひさしぶりなんだし……」
 そう言いかけたところでまた音楽が流れ出し、若いバーテンダーがくるくると色んなものを回し始める。さっきよりも質が低いことはぼくにでもわかった。二度目ということもあったし、技術の問題もあって、いまいちぴんとこない。それに何より、彼女と話をする貴重な時間がつまらない未熟なパフォーマンスに削り取られていることにいらいらした。
 ぼくは「もういいですから」と言って若いバーテンダーのパフォーマンスを止め、彼女と大事な話をする妄想を繰り返し思いうかべたけれど、実際には何もしなかった。ただ音楽が終わり、カクテルができあがるのを待った。その後もぼくは彼女と一対一というより、バーテンダーたちを交えて、ただ楽しいだけの話をするはめになった。びっくりするほど大きな声でおおげさに笑い合って、無理に調子を合わせたせいで頭が痛くなった。

「じゃ、また」
 バーを出て、僕は失意のうちに彼女と別れた。また会おうねとはどちらも言わなかった。少しして彼女の方を振り返ると、高いヒールを履いているのにすごいスピードで背中が遠ざかっていて、ぼくと今日会ったことなんてもう忘れているように見えた。それでもうぼくたちの別れなんてとっくに成立していることがわかって、もう一度やり直すなんてことがありえないこともわかって、なんだか言葉にこだわっている自分が馬鹿みたいに思えた。
 電車に乗ると、窓の外に雪がちらつくのが見えた。


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