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ポテトチップスさん

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祖父の残した和製ルガー

13/12/30 コンテスト(テーマ):第四十八回 時空モノガタリ文学賞【 昭和 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:1303

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正月を少し過ぎた1月某日、山田邦彦の祖母が老人介護ホームで死んだ。雪がパラパラと舞う中で、葬式はしめやかに身内だけで執り行われた。
邦彦の父である洋治は、必死に涙を堪えていた。
2月に入り寒風はひどく吹き荒れ、まるで石油ファンヒーターで暖まっているこの部屋に潜り込みたいかのごとく、邦彦の部屋の窓を寒風はガタガタと鳴らした。
夕方、パートから帰って来た奈津子が邦彦の部屋をノックしてドアを開けた。
「暖かすぎ」と顔を歪めた。
「なんだよ?」
「なんだよじゃないわよ。ただ家にいるだけなんだから、石油代がもったいないでしょう」
「寒いんだからしょうがねえだろ」
「まったく働きもしないで、1日中ゲームばかりして」奈津子は大きくため息を吐いた。
「ババア、早く部屋から消えろよ」
「母親に向かってババアなんてよく言えるわね。ましてや親に食べさせてもらってるっていうのに」
「うるせーな。で何だよ?」
「頼みがあるの。明日の午前中、亡くなったお祖母ちゃんの家に行ってちょうだい」
「はあ? なんで」
「明日のお昼過ぎに、お祖母ちゃんの家に解体業者が来るから、玄関の鍵を開けて待っててもらいたいの」
翌日の午前中、茶色のコートを来た邦彦は、自転車に乗って自宅から5キロ離れた祖母の家に向かった。玄関の鍵を開けて家の中に入ると、洋治と奈津子がだいぶ前に家財の処分をしていたので、ほとんど何も無かった。
解体業者が来るまでにはまだ時間があったので、暇を持て余す邦彦は、何も無い家の中を見て回った。
邦彦が小さい頃に亡くなった祖父の部屋に入ると、なんとなく懐かしい匂いが鼻の鼻孔を刺激し、祖父の優しいしゃべり方が記憶から思いだされた。
何もない押入れに顔を入れ、何気なく天井に顔を向けると、『秘』という文字が小さく天井板に黒い墨で書かれていた。その文字はだいぶ昔に書かれたのか色あせていた。
好奇心から天井板を外して天井裏に顔を入れると、何かがそこに置いてあった。それを手に取って日の当たる場所でそれを確認した。
邦彦は驚いて身を縮めた。
天井裏に置いてあったのは、革製のホルスターに収まった拳銃1丁と弾が3発だった。
本物の拳銃かどうか分からないが、それをコートのポケットにしまった。
昼過ぎ、解体業者がやって来たので、あとは家の解体を頼みますと業者に言って自宅に帰った。
自宅に帰り着いた邦彦は、自分の部屋で拳銃を手に取り眺めた。古い拳銃のように見えるが、本物かどうかは分からなかった。
3月に入った。まだ外を出かけるにはコートが必要だが、自転車を漕いでいると汗が額から滲んだ。この日、邦彦は隣町に向かっていた。
自宅を自転車で出発して40分程走り、ようやく目的の『高松銃砲火薬店』に到着した。
恐る恐る店に入ると、狩猟用で使用すると思われる銃がケースの中で展示販売されていた。
「はい、いらっしゃい」眼鏡をかけた店主らしき老人が言った。
「あのう、客ではないんです。ちょっと見てもらいたい物がありまして……」
邦彦はコートのポケットにしまって持って来たあの拳銃を、老人が座る椅子の前の台に置いた。
店主らしき老人は、革製のホルスターから拳銃を取り出した。
「ほう」と一言発し、続けて「どなたの?」と聞いてきた。
「亡くなった祖母の家の天井裏に隠してありました。本物の拳銃ですか?」
「本物。十四年式拳銃だよ」
「十四年式拳銃とは何ですか?」
「大正14年に大日本帝国陸軍の拳銃に制式採用されて、昭和20年の敗戦まで下士官用に官給されていたもの。私も終戦までの2年間、日本陸軍に徴兵されていた時にこの拳銃を持たされた。いや……、懐かしい」
老人は眼鏡の奥の目を細めながら、何かを思い出しているかのように黙った。
「戦争を肯定するつもりはないが、この国産の十四年式拳銃は非常に素晴らしい拳銃だった。別名『和製ルガー』とも呼ばれていた」
「和製ルガー?」
「この拳銃は外装がドイツ製の『ルガーP08』に酷似しているから、当時から和製ルガーと呼ぶ人もいたんだ」
「この拳銃はどうしたらいいのでしょうか?」
「すぐに警察に届けなさい。あなたのお祖父さんとお祖母さんが、終戦の形見として家に隠していたと話せば、刑罰は受けないから」
邦彦は頷き、老人から拳銃を返してもらった。老人に礼を言って顔をあげると
「昭和20年の敗戦の日、私は十四年式拳銃に込められていた8mm南部弾を、全部青空に向かって撃ってやったよ」と言った。
邦彦はあの戦争は何としてでも勝つべきだったのか、それとも負けて良かったのか尋ねてみたかったが、老人が眼鏡の奥で目をきつく瞑っていたので、頭を下げて店を出た。

終わり


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