サイクロイドさん

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夢魔

13/12/28 コンテスト(テーマ):第四十六回 時空モノガタリ文学賞【 夢 】 コメント:2件 サイクロイド 閲覧数:722

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 気がつくと私は、見覚えのない場所に立っていた。何車線もある道路、雲を突き抜けんばかりのビル、港の大きなクレーン。東京のようだが、何となく違う。一番違和感があるのが、人影が一切見えないことだ。わからないことだらけだが、留まっていても仕方がないので、私は歩きだした。するとすぐに、前から歩いてくる人が見えた。それが誰であっても、今の孤独感が和らぐと思えば、それだけでほっとした。薄い霧のせいで、表情や佇まいがわかったのは、相当に近づいてからだった。

 近づいてくる人が男だとわかるほどに距離が縮まると、向こうから話しかけてきた。「ここはあなたの夢の世界です。さあ、あなたの欲望を全開にして生きてください。現実は嫌なことだらけなのだから、夢の中でぐらい、贅沢したって罰は当たりませんよ」男は甘い囁きを仕掛けてきた。現実なんてうんざりだという思いが浮かんできた私は、その言葉に乗りたかった。だが、本当に夢の中なのか、自分の思いどおりになるものか疑いはぬぐえなかった。そんな私の心を見透かしていたのか、男は「ほら、試しにこの邪魔な霧を晴れさせてはどうです?『霧、晴れろ』と念じれば一発です」と誘ってきた。「わかった。やってみる。念じればいいのね?」自分で自分のやることを確認するように、私は男に返事をした。そして言われたとおり念じると、本当に霧は晴れた。男は満足そうな笑顔を浮かべると、「これでこの世界はあなたの思うがまま。さあ、存分にお楽しみください。しばしご機嫌よう」と言って消えた。

 再び一人になった私は、まず友達を作ろうと思った。念じると100人の人が突然現れ、友達らしく私に話しかけてきた。次は恋人が欲しくなった。映画や小説の中でしか出会えないような、容姿端麗・頭脳明晰、人間性も申し分ない上に私のことが好きでしょうがない人が現れた。出会い方すら現実ならあり得ないものだった。友達とカフェに行ったらそこの店員さんで、私の帰り際にレシートと一緒にそっと連絡先を渡してくれた。ベタなストーリーだが、実際にあると分かって起こると悪くない。こんなにも自分の思うままになるなんて、自分が神様になったような気分だ。

 それからの私は、本能の赴くままに生きた。好きなものを買い、好きな場所に行って、やりたいことをやる。勉強みたいにやりたくないことは全然やらなかった。それで許されるんだから、この世界は天国だ。何が何でもしがみついてやる、と私は決意した。けれど、そんな決意に反してあの男が現れた。「歩美様、残念ながらもうお時間です。お目覚めください」突然の天国終了宣言だった。「嫌よ!私はこの世界に残る!現実に帰ってもいいことなんか何にもないじゃない。あなたがそう言ったでしょう?私の邪魔をするなら、あなたを消すわよ」私の本気を示すために、ありとあらゆる兵器を出して見せた。地上を埋め尽くす兵士、戦車、戦闘機、大型ミサイルに衛星軌道上の巨大レーザー砲まで出した。「なんと素晴らしい。ここまで夢を自在に操れる方は中々お目にかかれません。さぞいい夢でしたでしょうね。それでもこれで終わりです。私は、あなた以上にこの世界を操れるのですから。始めることも終わらせることも」そう言うと、男はポケットから蓋の空いた懐中時計を取り出した。「嫌だ、止めろ!私は戻りたくないんだ。頼むから止めてくれ!」私は必死で懇願した。でも、声がだんだん出なくなり、男にしがみついて止めようにも足が思うように動かない。自由が効かなくなっている内に、男は懐中時計の蓋を閉めた。

 パタンという音と共に男以外全て消え去った。私の意識は段々薄まっていった。視界に残っていた男も、遠のいていって最後には消えた。




 「ジリリリ」と目覚ましがなる。7時ちょうど、今日も晴れ。いい天気だな。いつもより体が重いのはなんでだろう。夢見てたからかな。良かったような悪かったような、よくわからない夢だったな。「歩美、ご飯できたわよ」と下からお母さんの呼ぶ声がする。食卓には、トースト、ハムエッグ、スープが並んでいた。席に着くと早速「いただきまーす」と言って食事を始めた。「このトーストすごいおいしい♪」


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このストーリーに関するコメント

13/12/29 四島トイ

拝読しました。
夢にすがり付く主人公の必死さは、朝の目覚めの名残惜しさに通じますね。戦争規模で夢に留まろうとする主人公の執念がおもしろく描かれていました。

ただ、主人公の背景がほとんど語られないのが残念です。現実は嫌なことだらけで、友人や恋人を欲し、勉強をしたくない主人公。彼女が女性かどうかすら冒頭では語られません。学生か社会人かも判然とせず、どこか「話づくりのための話」として完結してしまい訴えるものが希薄であるように思え勿体無く感じました。

目覚めから朝の食卓への描写はシンプルで好感が持てるので、夢に登場した男や主人公の願望などもう一工夫あればさらに読み応えのある作品になったのではないかと思いました。
拙い感想ではありますが御容赦ください。

14/01/05 サイクロイド

四島トイ様

 はじめまして。サイクロイドと申します。まずは、ご覧いただき感謝申し上げます。
 また、貴重なご意見ありがとうございました。コメントのとおり、主人公の背景など、かなり書いていない部分があります。次回書くときには、そのようなディティールにも配慮して書きたいと思います。

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