1. トップページ
  2. 男と女と赤ん坊

吉原 百々さん

失恋したので、こっちに全力投球。 日本語は難しいです。

性別 女性
将来の夢 恋愛マスター笑 女のひとの内側、そのものでありたい。
座右の銘

投稿済みの作品

3

男と女と赤ん坊

13/12/25 コンテスト(テーマ):第四十六回 時空モノガタリ文学賞【 夢 】 コメント:6件 吉原 百々 閲覧数:954

この作品を評価する

街を歩いていた。
やっと車が1台通ることのできそうな、裏道である。今は太陽が出ているから、夜ではない。そして冬のようだ。わたしは赤いダウンのベストに短いスカートを合わせていた。
隣には緑のダウンジャケットをガサガサ言わせて、眼鏡をかけた見知らぬ男が歩いている。
そしてわたしの腕には、いつ生まれたのかわからない小さな赤ん坊がしっかりと収まっていた。

記憶として残っているのは、わたしが確かにこの子どもを産んだことで、この隣の男が父親ではないこと。泣きもしない、身体だけはもこもこに柔らかい生き物。顔をのぞけば、んあーなどとわけのわからない声をあげてこちらを見ている。

言っておくが、わたしは子どもが嫌いだ。
なぜこんなことになったのか。

それは分かっている。あの人の子どもだ。だってあの人の子どもであるとしか考えられない。どこにでも行きたいところへ、やりたいことを使命だといって出掛けてしまう、ボーダーレスな人間。思惑にはまることなく、好きなように生きて好きなように死ぬであろう人。

あの人は子どもが好きだった。
みんなを愛してさらに愛される、言葉もいらない人だった。言わなくても分かってくれるその安心感がどれだけの人を虜にしてきたんだかわからない。きっとこの世界中には、たくさんのあの人の家族がいたって不思議じゃない。

本人は自分の家族ができて喜ぶだろう。彼にとって生まれてはいけない子どもなどいないのだ。みんな俺が愛してやると、その本気さだけは本物で今日もどこかに行ってしまっているらしい。ただ、ここで問題なのが、わたしが当たり前に妊娠し、なんの選択もすることなく出産してしまったということだ。なんとかなるだろうと産んでしまって、産んだからには働いていかなくてはならなくて、寝るところも何もなくて、こうやって探し回っている。
なんと無計画なこと。

わたしはこの命に何の責任もとれない。母はそんなで、父も所在不明であなた、どうやって生きていきましょうかと、またこの子どもを見つめた。輪郭はぼんやりして重さも感じられない。あんな男を好きでいるわたしへの罰かとも思う。これは現実ではない、夢だ。半分夢だとわかって、街をぐるぐるさ迷い歩いている。それなのに、隣の見知らぬ男は、俺のこと、父さんだって言ってねと、調子のいいことを並べた。しかしわたしのそばに来る男が、まともに働いてくれるわけはない。厄介な荷物がひとつ増えただけだ。

とりあえずこの街で住み込みで暮らそうと、怪しそうな通りに出てみる。変な親子は道を歩いては戻りを繰り返す。そうしているうちに、赤ん坊の様子がおかしいことに気がついた。隣の男は、キョロキョロするばかりでなんの役にも立たない。電信柱に書いてある病院を幸いに見つけ、そこへと向かった。赤ん坊は頬を赤くし、苦しそうに息をしている。わたしの命への責任はこんなもんか。乾いた気持ちは、どんどん透明になって、本当にいろんなことがどうでもよくなった。

病院は新築の匂いがしそうなほど立派で、間違ったものを寄せ付けない感じがした。隣の男に赤ん坊を託し、病院の中へと連れていく。

熱があるだろうその赤ん坊と、大事そうに不慣れな様子で抱き抱える、偽の父親。
「お金、稼いでくるから」

彼らに背を向け、病院を出る。どうしておろさなかったんだろうと、バカらしくなって小さく笑った。
これから夜の街へ出ていくところ。わたしはあの親子のもとへまた、帰るんだろうか、と思いながら、わからないよ、そんなことと頭のなかを空っぽにした。

その選択も夢のなかに置き去りにして、目が覚めた。
わたしのお腹はぺったんこ。子どももいない。

あの人もいなくなってしまった。
これが現実。わたしは夢を整理する。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/12/26 草愛やし美

初めまして、花井 侑理さん、草藍と申します。

拝読しました。不思議なお話に、どうなるのかしらと一気に読みました。

この女性は、どんな経緯があってこの夢に辿り着いたのでしょう? 描かれていない部分に秘密の香りがして、気になります。
赤ん坊と称しているが、形が定まってない胎児のようなものなのかもしれないと想像したり、隣の男は誰なのかとか──かってな想像を色々して、興味津々で読み終えました。
作品最後の部分「あの人はいなくて、これが現実……」という言葉に、この女性には切ない過去があるのかしらと思いました。

13/12/26 そらの珊瑚

花井 侑理さん 拝読しました。

現実で選択しなかった後悔のようなものが夢となったのでしょうか。
切ないですが、最後の言葉で「わたし」が現実を受け入れて
前向いて生きていけるような気がしました。

13/12/26 吉原 百々

草藍さん

コメントありがとうございます。2000字はやはり、書ける世界に限界がありますね。だからこそ言葉を大事にしなくてはいけないのに。ズバリな指摘、本当に勉強になります。これからがんばります!

13/12/26 吉原 百々

そらの珊瑚さん

前を向いて…と読んでくれるなんて。とてもうれしいです。
もう少し構成とか人物設定とかちゃんとします。

現実にはなり得なかったこと、憧れと後悔が入り乱れて散り散り。とでも言いましょうか。コメントありがとうございました。

13/12/27 朔良

花井 侑理さん、はじめまして。
拝読いたしました。

人は眠ってる最中に記憶を整理して、夢はその一部だといいますが、彼女も夢を見ることで、いろいろな思いを整理したのでしょうか。
現実には出来なかった選択に心を残しながらも、現実を受け止めようとしているのかな…とか考えてしまいました。

13/12/27 吉原 百々

朔良さん

コメントありがとうございます。夢のなかで頭を整理する。確かにそうなんですよね。でも思わぬ深層心理に心をかきみだされる。夢ってもやっとして、思い出すのに苦労してしまうので、だからこそ夢なんですけど、なかなか不思議なものだなぁと思います。

ログイン