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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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村八分

13/12/23 コンテスト(テーマ): 第二十三回 【 自由投稿スペース 】  コメント:1件 ポテトチップス 閲覧数:1082

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村八分(むらはちぶ)
江戸時代以降、村落で行われた私的制裁。村のおきてに従わない者に対し、村民全体が申し合わせて、その家と絶交すること・・・(コトバンクから引用)


隣町に建つ『スーパー植松』の駐車場に、一台の真新しい白い乗用車が止まった。
木戸満男は珍しい車だなと横目で見ながら、自分の軽自動車のドアを開けた。
「木戸さん、どうも」と、誰かに声をかけられた。
後ろを振り向くと、横下忠三だった。
「なんだ、車買ったのか?」
「無理して買ったんだ」
「無理して高級車買ったのか……」
「トヨタのクラウンって言う車だ。この村じゃ高級車に見えるかもしれないけど、東京では庶民車だ」
横下忠三は木戸満男よりも3歳年下の78歳だった。横下は細々と小さな田畑を耕して育てた野菜や米を売って、妻である秀美と暮らしていた。
最近、横下の羽振りが良くなったという噂を、木戸の妻である美津子から聞いたことがあった。
「あんた最近、随分と羽振りが良いみたいだね」
「木戸さん、からかうのはやめてくれ。貧乏暇なしでちょこまかと動き回ってる」
「そうか。今度、お茶でも飲みに来なさい」
「そうさせてもらいます」と言って、横下はスーパー植松の入口に歩いて行った。
木戸満男が暮らす秋田県田辺郡上原村は、45世帯が暮らす過疎の村だった。村に病院やスーパーはなく、食料の買い出しや病気をした時などは、このスーパー植松のある隣町まで出かけなければならなかった。
木戸は食料を助手席に載せ、軽自動車を運転して自宅まで続く村道を走った。
9月に入ってから山の紅葉は日に日に進み、まるで山が燃えているかのように真っ赤に染まっていた。
1時間近く車を走らせて、ようやく自宅に到着した。
「ただいま」
「お帰りなさい」と、美津子が言った。
美津子は木戸から食料の詰まった買い物袋を受け取って台所に行った。
秋田の山間にあるこの村では、よほどの家が9月に入ると炬燵を準備する。木戸の家でも先週から炬燵を使い始めた。木戸は炬燵に足と手を入れ、冷たくなった手足を温めた。
「あなた、沢庵買ってきてくれなかったのですか?」
「売り切れだった」
美津子は残念そうな表情をしながら炬燵に足を入れ、横に置いてある電気ポットから急須にお湯を入れて、木戸の湯呑茶碗にそれを注いだ。
「どうぞ、飲んでください」と美津子が言った。
木戸は息を吹きかけながら、熱いお茶を啜って飲んだ。
「スーパー植松で横下に会った」
「奥さんと一緒でしたか?」
「いや、一人だった」
「最近、横下さんの奥さんは、よく隣町に行ってるそうですよ」
「何しに?」
「洋服を買いに行ってるそうです。こないだ横下さんの奥さんに会ったら、高そうな服を着てましたよ」
「横下の奴、車買ったみたいだ」
「どんな車を買われたのですか?」
「高級車だ。トヨタのクラウンっていう車らしい」
「そうですか。雪が積もってもその高級車は走れるんですか?」
「まあ車だから、走れるだろう。でもこんな山間の村には不釣り合いな車だと思った」
「最近、横下さんの家は羽振りが本当に良いですね」
翌日の昼前、木戸は畑仕事を終えて自宅に帰り、美津子の作ったジャガイモの煮っころがしをおかずに、ご飯を食べた。
食後、お茶を啜って飲んでいると、玄関の引き戸が開いた。
「どうも、こんにちは」と言って、横下忠三が現れた。
「おう、お茶を飲みに来たのか?」と、木戸が言った。
「そうです」
「どうぞ上がって炬燵に入ってください」と美津子が言った。
横下は炬燵に足を入れると「どうぞ、後で召し上がってください」と言って、手土産を美津子に渡した。
「どうもご馳走さまです。これって命長堂のカステラじゃないですか?」と、美津子は袋に印字されているマークを見て言った。
「そうです。ここのカステラは本当に美味しいですから、後で旦那さんと食べてください」
それから1時間近くが過ぎ、横下は「そろそろ帰ります」と言った。
靴を履いている横下に、調理用のタッパーを持った美津子が言った。
「ジャガイモの煮っころがし、家に持って帰って食べてください」
横下はこれから妻の秀美と、隣町に寿司を食べに行くのでと言って、それを断った。
美津子は残念そうな顔をした。
夜になり、晩御飯を食べた後に頂き物のカステラを木戸と美津子は食べた。
「美味しいですね」と美津子が言った。
「有名なカステラなのか?」
「ええ。命長堂のカステラは有名ですよ。高級カステラです」
「なんだって、羽振りが良過ぎるな……」
それから10日が過ぎた。山の紅葉は最盛期を迎えていた。木戸はこの日、スーパー植松に美津子に頼まれた食材の買い出しに来ていた。
買い物を済ませ、軽自動車に乗ろうとした時、誰かに声を掛けられた。振り向くと、酒井伸実だった。酒井は木戸と同い年の81歳で、小学校からの旧友だった。
「おう、元気か?」
「元気だ」と酒井が言った後、急に小声で「ちょっとさ……」と言った。
「どうした?」
「木戸君には話さない方がいいと思ったんだけど、やっぱり話しておいたほうがいいなと思うことがあるんだ」
「何をだ?」
「横下君のこと」
「横下がどうした?」
「最近、横下君が羽振りが良いことは村中の噂だけど、その訳を知ったんだよ」
「訳?」
「実は昨晩、隣町の『スナック茜』に飲みに行ったら、横下君が先に来ていて飲んでいたんだ。俺の顔を見るなり、横下君の方から一緒に飲もうと誘ってきた。横下君は随分と酒に酔っていたよ。それで俺は一緒に飲むことにしたんだけど、俺も酒に酔ってきた頃、横下君から聞いちまったんだ」
「何を?」と木戸は聞いた。
酒井は気まずそうな表情を浮かべながらも、善意に押されてと言った風な感じで続きを話し始めた。
「去年の秋から急に横下君の羽振りが良くなったのは、松茸が生える松林を見つけたからなんだ」
「横下がそう言ったのか?」
「そう。酔っ払って顔を真っ赤にしながら意気揚々と話していた。俺が一番許せないと思ったのは、その松茸が生える松林は木戸君の所有する山なんだよ」
「なんだって! あの野郎こないだ家にお茶を飲みに来た時、なんもそんな話をしてなかったぞ」
酒井はトラブルは起こさないようにと忠告した後、農作業で使う軽トラックを運転して、スーパー植松の駐車場から去って行った。
木戸は軽自動車を運転しながら、血が沸き立つような抑えられない怒りを覚えていた。こんな激しい怒りは、久方ぶりだった。
木戸は自宅前を通り過ぎ、そのまま横下の家へ向かった。横下の家の前で車を止め、無断で玄関の引き戸を開けた。
「おい、横下はいるか!」
驚いたように横下が奥の部屋から玄関に出て来た。
「誰かと思えば、木戸さんじゃないですか」
「ちょっと話がある」と言って、木戸は玄関で靴を脱いで上がった。
部屋に入ると「まあ炬燵に入ってください」と言われ、木戸は炬燵に足を入れた。
「秀美が出かけてますので、お茶も出せませんが……」
「いらない!」
「木戸さん、何をそんなに怖い顔をしてるんですか?」
「オマエ、俺の所有する山で松茸を勝手に取って売ってるそうだな」
横下は目を泳がせながら「誰がそんなこと言ったんですか?」と言った。
「誰だっていいだろ。で、どうなんだ?」
「そんな訳ないじゃないですか」
「本当か? 嘘ついてたらただじゃすまんぞ」
横下は木戸と目を合わさず「そんな嘘話、信じないでくださいよ」と言った。
木戸は横下から顔をそらし、何気なく仏壇に目を向けると、仏壇に松茸が数本供えられていた。
「おい、なんだこれは!」と言って、仏壇に供えられている松茸を指で指した。
「これは、貰い物です」と横下が言うと同時に、木戸は横下の襟を両方の手で掴んでいた。2人はもつれ合いながら部屋を転がった。
この日の2人の出来事は、あっと言う間に村中に知れ渡った。横下夫婦はこの村に住み続けることができなくなり、10日程前に家財を積んだトラックで村を出て行った。
12月に入りこの村に初雪が降り始めた。夜に降り出した雪は、翌朝には50センチ程降り積もっていた。毎年のことではあるが、80歳を過ぎた老体に連日の雪かきは酷だった。
雪は多い時には、一夜にして1メートル50センチ程積もる時もあった。この地に生きる人間にとって、雪は歓迎されない天からの贈り物であった。
正月も過ぎ、もっとも寒くて雪の降る2月に入ったとある月曜日、玄関がノックされて引き戸が開いた。
現れたのは横下夫婦だった。2人は恐縮した面立ちで深く一礼した。
「何しに来た!」と木戸が怒鳴ると、妻の美津子がまあまあとそれをなだめた。
「寒いでしょうから、早く炬燵に入ってください」と美津子が横下夫婦に言った。
横下夫婦は靴を脱ぎ部屋に上がると、突然、土下座をした。
「申し訳ないです。もう一度、俺達夫婦をこの村に住まわせてください」
「よくもまあこの地に帰ってこれたもんだ」
「申し訳ないです」と、何度も畳に頭を擦りつけながら言った。
美津子が横下夫婦の前に正座して「顔をあげてください。寒いでしょうから炬燵にあたってください」と言った。
横下の妻である秀美は泣いていた。
「自分からこの村を出て行ったんだろ!」と木戸が言った。
「もうこの村には帰るつもりはありませんでしたが、他の地に住んで気づきました。この生まれ育ったこの村でしか、自分達夫婦は暮らしていけないと言うことをです。もしお許しを頂けるのなら、この地で死なせてください」
横下夫婦は鼻水を流しながら泣いていた。
4月に入り、まだまだ雪深いこの村にも、春の日差しが届くようになった。横下夫婦は以前のように、小さな畑に種を撒いてできた野菜を、隣町の市場に納めて細々と生計を立てているようだった。
農作業には向いていないという理由から、この村では高級車に見られてしまっていたトヨタのクラウンを売り払い、軽トラックに買い替えていた。
先週、村の集会所で開かれた住民集会には木戸も横下も参加した。そこで話し合って決まったことは、今年の秋に木戸の所有する松林で収穫できた松茸は、村民全員で分け合おうということであった。その発起人は木戸だった。
木戸は集会所に集まった住民に言った。「この何も無い不便な地に住む我々は、一人が欲を出せば一方で誰かが損をする。この村で生きる者は、村相応の生き方がちょうどいいのだ」と。
翌日、昼前に畑仕事を終え帰ってきた木戸は、沢庵をおかずに美津子と昼ご飯を食べた。
食事が終わりお茶を啜っていると、玄関の引き戸が開き横下夫婦がやって来た。
手にはスーパー植松で買った白菜の漬物を手土産に持って。

おわり


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このストーリーに関するコメント

14/11/19 www.glovebuster.com

  ヴァレンティノ偽物「ガーデンパーティーシリーズ」が展示、販売

  ヴァレンティノの「ガーデンパーティーシリーズ」が展示、販売される。今週もたくさんアップしましたので、是非チェックして下さい。

  Text by OPENERSアレクサ?チャン、ジェシカ?アルバも愛用!

  マリア?グラツィア?キウリとピエール?パァ?ビッチョリーニによるヴァレンティノ偽物2014スプリングコレクションにふくまれるスペシャルプロジェクト。それが「ガーデンパーティーシリーズ」である。ヴァレンティノウーマンの精神、そしてロマンティックな一面と誘惑的で謎めいた一面をあわせもった遊び心溢れるコレクション。蝶が光と影の中を漂う夢のような、魔法にかかったような幻想的な庭園で、花々や木々の美しさにうっとりとしながらそぞろ歩くイメージだという。それらを体現した魅惑的なアイテムが揃った。

  強烈な鮮やかさとドラマティックな深みを特徴とする、調和のとれた4種類のフラワープリントが織りなす幻想的なファッションの世界。ダークカラーからブライトカラーに徐々に移っていく色合いは、ロマンティックかつミステリアスな雰囲気を添えている。また、丁寧な手縫いによってあしらわれた繊細なレース刺繍が、フラワーモチーフを立体的に生まれ変わらせている。

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