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宴さん

性別 女性
将来の夢 本と演劇に囲まれて生きたい。
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さよならを忘れないで

13/12/19 コンテスト(テーマ):第一回OC 【 猫とアオゾラ 】  コメント:2件  閲覧数:1043

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 遠くで踏み切りがカンカンカンと鳴っている。
 いつもの場所で、男はギターを弾いている。駅前のロータリー。
 時折男を横目にして通り過ぎる人間がいるが、立ち止まる者はいない。
 彼女は男の隣に寝そべって、独り言のような男の歌声を聴いている。
 抜けるような秋の青空が、男の歌声を吸い込んでいく。
 ふと、音がやんで、ふわりと撫でられた。大きくてあたたかい手。


「東京に行くことになったんだ」

------そう。

「俺の曲を認めてくれる人がいて」
「CDを出してくれるって」

------嬉しいのね?

「すげー嬉しいよ」
「でも」
「CDが売れるかどうかもまだ分からないし」

------大丈夫よ。
------あなたならきっと大丈夫。
------私はあなたの歌が好きだもの。

「ありがとな」
「でも」
「ごめん」
「お前は連れて行ってやれない」

------謝らないで。
------しょうがないわ。

「ごめん」
「でも」
「向こうで成功したら、俺の音楽が認めてもらえたら」
「きっと迎えに来るから」
「だから」

------ええ。
------待ってるわ。
------ずっと。


 あの日と同じ晴天に、駅前の店のスピーカーからあの人の歌声が聞こえる。
 彼女は店の前に座り込んでその歌を聞いている。曲が終わると立ち上がって、撫でようとしてきた人間をするりとかわし、彼女は歩きはじめた。

 顎の下をくすぐるあの人の手を思い出しながら、彼女は今日もその場所にいる。


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このストーリーに関するコメント

13/12/23 猫兵器

宴様

はじめまして。拝読致しました。
猫とミュージシャンの囁かな交流が、短い中でまとまっていたと思います。
「あの人」でない人間に触れられることをよしとしない誇り高い猫が素敵でした。
その約束が果たされることを望みます。

14/03/22 リードマン

拝読しました!
こんな素敵な猫、放っておく事なんて出来ませんよ!

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