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yoshikiさん

面白い作品を知り、自分でも書いて見たくなって何年も経ちました。よろしくお願いします。 2010年 小説現代S&Sコーナーに初めて送った作品が掲載されました。作品名『幽霊の見える眼鏡』 とにかく面白いものが書いていけるといいなと思っています。 イラストはエアブラシと面相筆で昔描いたものです。

性別 男性
将来の夢 楽隠居
座右の銘 不可思議はつねに美しい、どのような不可思議も美しい、それどころか不可思議のほかに美しいものはない。アンドレブルトン

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来たるべき世界

13/12/03 コンテスト(テーマ):第二十二回 【 自由投稿スペース 】 コメント:7件 yoshiki 閲覧数:1003

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「みなさん、地球と称する銀河系の外れの星ご存知です?」
 人間によく似たひょろりと背の高い宇宙人がそう言った。褐色の天体に巨大なドーム状の建造物があり、複数の宇宙人が大きな円卓を囲んでいる。今ここに宇宙評議会が召集されたのだ。大きいのやら小さいのやら、青いのやら赤いのやら、カラフルで個性豊かな宇宙人たちが真剣な面持ちで集まっている。
「地球? ですか、宇宙環境大臣…… ああ、あの随分と辺鄙な場所にある惑星の事ですか」
 どんぐりまなこの宇宙議員が答えた。
「ああ、その星の事で今日は皆さんに集まってもらいました」
「環境大臣、いや今日は議長でした…。ええ、たしかその星では人間とか言う哺乳類が異常に増殖しているのでしょう」
「はい、良くご存知で。そこに住む人間という種がこの頃数が急速に増えて七十億という数を超えました。このままで行くと深刻な食料危機を迎えることになる……。いや実はもう迎えている」
「増え過ぎなんですか?」
「まあ」
「で、それは死なんのですか」
「むろん死んではいます。老化や病気、事故や自殺で大量に死んでいます。しかし生まれる方が多いのです。地球の人間という生物の人口は、概算ですが彼らの時間の単位で1分間に約150人、1日で22万人、1年で8千万人増えています。つまり1年に6千万人が亡くなり、1億4千万人が産まれるということです。今後は加速度的に数を増やすでしょう」
「ほう、かなり深刻ですね」
「はい。かなりどころではありません」
「で、彼らは火を使うのですか?」
「はい。彼らには文明があります。物を加工し作りあげます」
「となると、益々深刻じゃないですか」
「彼らは物をつくるのに火を焚き、ガスを大量に空気中に排出します」
「随分とまあ原始的ですねえ。オゾン層がえらい事になりそうですね」
「現になっています。彼らは温暖化とかいっていますがそれで年々緑が減り彼らの言う環境破壊が進んでおります」
 どんぐりまなこが少しだけ憂いを含んだような眼差しで宇宙を見上げた。
「それで今後の見通しはどうなのですか?」
「絶望的と言えますね。貧富の差はどんどん広がる一方ですし、彼らは未だに戦争をしています」
「緊急時に戦争ですか?」
「そうです。世界中で小競り合いが絶えません」
「若い連中は?」
「自分中心で周りの事をあまり気にかけないようです。無関心とか、関係ないとかそんな態度です。社会情勢には無頓着ときている。真に将来を憂うものは極僅かです。まあ、すべてがそうではありませんがね」
「困ったな」
「このままだと滅亡も時間の問題かと……」
「うーん。どうします? 皆さんの意見を聞かせてください。実は我々の手を差し伸べようという声があったものですから、この評議会を招集したのです。みなさん、よく考えてください。彼らを救いますか? 救いの手を差し伸べますか?」
 議長がそう言うと宇宙人たちがかなり険しい顔色になり、沈痛な空気がその場を支配してしまっていた。その時まるでヨーダのような顔をした宇宙人が立ち上がり初めて発言した。
「彼らにはいっさい干渉してはなりませんぞ」
 皆が彼に一斉に注目した。
「これは生物アカデミーのムーク博士、なぜでしょう? ご意見を伺いたいですね」
「はい。では意見を述べさせていただきます。地球という星の環境破壊と言いますけれど、私に言わせればそれは破壊ではありません。単なる環境の変化でしかないのです。環境破壊という言葉は人間という種の自己中心的な考え方です。その基準はあまりに人間的で感傷的でさえあります。
 かなり昔の事ですが、元々地球に酸素などなかったのです。いや失礼、ありましたが極めて少なかった。海中の植物が陸に上がり爆発的に繁殖して光合成をし、酸素を大量に作った。だから酸素を吸って二酸化炭素を吐き出す生物が増えたのです。見ようによっては、植物がそれまでの世界の環境破壊をしたともいえる。
 それに思うのですが人間は人工物ではない。自然の摂理によって作り出されたもの。つまり人間も一つの自然と言うとらえ方もできるのではないでしょうか。だからそれが自然を破壊、いや変化させたとしても、自然にそうなったという事で、彼らの言う環境破壊はあくまで人間の目線での破壊でしかありません。したがってそれは変化であり、変動なのです」
「なるほど。それも理論ですね。では、博士はどうしろとおっしゃるのですか?」
「そのままにしておきましょう。なすがままに任せようではありませんか」
「……しかし、彼らは私達に似た、いわゆる高等生物ですよ。見殺しにするのですか? このままだとオゾン層は破壊され、海水の温度は上昇し、陸地も海に沈むでしょう」
「かもしれません。しかしそれは次のステップです」
「次のステップ……」
「彼らはその昔、進化しない単細胞生物から枝分かれしました。今まで細胞を際限なく再生して不死だったものが、個体の死を選ぶことで進化というパスポートを手にしたのです。個が死ぬことによって子孫に新しい可能性を求めたのです。これこそ種の不死性なのです。それは大いなる生命の決断だったに違いありますまい」
「ムーク博士、抽象的でなく、もう少し端的に言ってくださいませんか」
「……ああ、そうしましょう。しかしもう一つ、彼らは競争によって生きている。それが彼らの生命のシステムです。たがいに凌ぎあって生きる。過酷なようですがそれが彼らの選んだ道なのです。でないと彼らは怠け、退化してしまう」
 黄色い耳の宇宙人が溜息をついた。
「悲しい宿命ですか。でも彼らにも愛があるでしょう。他者を尊び、慈しむ心が。我々がもっとも大切にする協調と和平のこころが」
「たしかに、でもそれは確固としたものではない」
 ムーク博士は言う。
「みなさん。我々とて、何度も絶滅の危機に瀕したではありませんか……。そして生き延びた者のみが今こうしてここに居る」
「……」
 宇宙人達はもっと何か言いたげだったが、結局顔を見合わせたり、困った顔をするだけでほとんど発言する者はなかった。やがて閉会になったがなぜか議長は席を立たず、ぼんやりとドームの向こうを見上げて長い溜め息をついていた。

 そこに退席したはずのムーク博士が近づいてきて声をかけた。
「これはびっくりです。あなたの感傷的な顔を私は始めて見ました」
 ちょっと驚いて議長が振り返った。
「これはどうもムーク博士、お恥ずかしいところをお目にかけまして」
「地球が気になるのですか、あの小さな岩石惑星が…」
「はい。実は今から地球時間で百五十年ぐらい前、私は一年以上も研究の為にあの惑星で暮らしていたんですよ」
「これは、これは、それは知りませんでした。驚きました……」
「彼らは野蛮ですが、心根は決して悪くありません。根は善良で素直なのです」
「彼らに手を貸したかったのですか」
「え、ええ、まあ」
「心配いりませんよ」
「しかし、彼らはもう」
「正直、もうすぐ天変地異が彼らを襲うかも知れません。大いなる変動に彼らは殆ど死に絶えるのかも知れません。しかし、全てではない……。彼らを見くびってはなりません」
 ムーク博士はそう言うと黙って議長の肩に手を掛け目を閉じた。
「実は私は心から彼らを信じているのですよ。ええ、そうですとも、頑なまでに彼らを信じているのですよ。だからこそ、なにもしない」
 はっと思い当ったような表情を議長が浮かべた。
「……」
「彼らの中の誰かがそう遠くない将来にこの評議会に出席すると私は思っている。彼らは次のステップを新しい世界に向けて踏み出すのです。そこで誰かの力を借りたとしたら、それは彼らの誇りに傷をつけることになる」
「ムーク博士……」

 ムーク博士が得も言われぬ笑みを浮かべた。つられて議長も穏やかな微笑を浮かべた。

 ――二人の視線の彼方に銀河があり、眩いばかりの艶やかな光輝をドームいっぱいに映し出していた……。


                      end

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 毎日自分に言い聞かせなさい。今日が人生最後の日だと。
 あるとは期待していなかった時間が驚きとして訪れるでしょう。
         
              ホラティウス 古代ローマの詩人


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このストーリーに関するコメント

13/12/04 草愛やし美

yoshikiさん、最後の教訓をしっかり受け止めて生きたいなと思いました。

考えさせられました。そうなんですよね、人間なんてほんの僅かです。宇宙から比べれば、そんな狭い世界でああだこうだと我儘を言ってあれやこれややっているのです。
それでも何かしら残るなら善と考えましょう。なかった明日が、明けた時、素晴らしく幸せな私がそこにいるはずですから。ありがとうございました。

13/12/04 泡沫恋歌

yoshikiさん、拝読しました。

遠い遥か彼方の星で、こんな風に地球のことを心配してくれている
宇宙人たちが本当に居そうな気がしました。

地球人のことは地球人に任せるという選択肢なんですね。
どうなるか分からないけれど、これも進化の過程と受け止めて人類は進むしかない。

13/12/05 yoshiki

草藍さん。コメントありがとうございました。

ちょっと教訓めいてて自分としてはちょっと異質な物語なのですが、
とても素直に読んでいただきありがたく思います。

広大な宇宙には様々な生命の種がまかれているのだと思います。地球の生命も一つの種、まだ迷い盛り、伸び盛りです。いったいどんな花をつけるのでしょうか、楽しみでもあります(*^_^*)

13/12/05 yoshiki

泡沫恋歌さん。コメントありがとうございました。

結局、人類の進む道は、人類で決めるしかないのだとおもいます。

もう我々は引き返せないのです。行けるところまで行こうじゃありませんか。振り返らずにね(*^_^*)

13/12/06 yoshiki

猫春雨さん。コメントありがとうございました。

よく西洋文明は、自然を人に合うように改造しようとし、東洋の思想は自然と調和しようとするみたいなことを言いますが、今や世界は完全に西洋文明の利便性や合理性に毒されてしまった感がありますね。しかしその善悪を問うても不毛だと思いますし、この先どうなるのでしょうか(~_~;)

14/03/12 リードマン

拝読しました!
ホラティウスの言葉、素晴らしいです。

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