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詩架さん

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僕らを繋ぐモノ

13/12/02 コンテスト(テーマ):第四十四回 時空モノガタリ文学賞【 復讐 】 コメント:3件 詩架 閲覧数:1002

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 書斎の書き物机の引き出しを開けようとする直前で手を止め、引っ込めた。そしてしゃがみ込み、引き出しの裏側を覗く。引き出しの出っ張りの裏側には鋭利な針が何本も取り付けられていた。毒針であろうそれらは触れた者を容赦なくあの世へ送るだろう。
 誰の仕業かはわかっている。相手は毎日、ありとあらゆる手段で僕を殺しにかかってくるのだから。
 僕は革手袋をはめ、慎重に針を取り除き処分した。そして書類仕事をした後に一息吐いていると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
「ご飯、できたわよ。お仕事の方はもう大丈夫?」
 僕が許可するとすぐに扉を開き入ってきた彼女は言った。彼女が僕よりも先に、その背後の引き出しの方へ視線を向けたのを僕は見逃さなかった。
「家でやる分がちょうど終わったところさ。今行くよ」
 僕は妻であり、毒針を仕掛けた犯人でもある彼女にそう告げた。


 妻である彼女は僕のことを憎み、殺そうとしている。なぜならば、僕は彼女の両親を自殺に追い込んだ張本人なのだから。彼女は僕に復讐しようとしているのだ。
 僕を殺すために僕に近づき、僕の妻とまでなった彼女は常にその機会を窺うために僕のことを見ている。彼女が僕の命を狙っていることは最初からわかっていた。それでもあえて娶ったのはそんな彼女が面白く、また興味深かったからだった。
「今日はビーフストロガノフかい? そしてサラダにコンソメスープ。今日もおいしそうだね」
「一流のシェフとかに比べたら全然よ」
「僕は仕事じゃなくて心を込めて作られた君の料理が好きなんだ。一流さは求めてないし、食べ飽きたしね」
「……そう」
 微笑み掛けるが、彼女は素っ気ない返事とともにそっぽを向いた。僕はテーブルに並べられているスプーンを手に取るが違和感を覚え、彼女に言う。
「これは銀のスプーンじゃないね。柄のデザインに出っ張りがないし、光沢も違う。僕が銀以外認めないのは知っているだろう?」
「……ごめんなさい。取り替えてくるわ」
 悔しそうな目で僕を見つめ唇を噛み締めた後、彼女はスプーンを取り替えにキッチンへ消えていった。僕が普段指定している銀のスプーンはオーダーメイドで、特殊な細工を施させてあるのだ。
「はい、これでいい?」
 彼女はそう言って僕に取り替えてきたスプーンを渡した。わずかな出っ張りのあるそれは、紛れもなく本物の銀のスプーンだった。僕はそのスプーンを使い、スープを掬う。するとスプーンが黒く変色し始めた。
「おっと、このスープには毒が含まれているようだ。これでは食べられない。非常に残念だ」
 僕が大仰に嘆いてみせると彼女は鋭い眼差しで睨みつけてきた。今日もまた実に悔しそうに、僕のことを見つめる。
 彼女はよく毒も盛ってくるから、僕は銀食器でしか食事はしないのだ。本来だったら食事を作らせるべきではないのだが、あの手この手と僕を殺そうとして失敗し悔しそうな顔をする彼女の姿が僕は好きだった。
 彼女は僕を憎んでいるから、殺意を持っているからこそ僕の傍にいるし、僕のことだけを見ている。僕が彼女の両親の仇でなければ、彼女は僕に近づきも結婚もしなかったに違いない。彼女が妻であるということを利用して、その身体を弄んだり奉仕させたりできたが、そこに愛はなかった。いつか僕を殺すことを諦めてしまったら、彼女は僕に何の興味も関心も示さなくなるに違いない。優しくしつつ煽り続けてはいるものの、その不安は常に僕につきまとっていた。
 彼女にずっと僕だけを見ていてもらうには、常にその心に刻み込ませるにはどうすればいいか?
 僕はそれをいつの日からかずっと考えていた。そして思った。
「コーヒー、淹れてきたわ」
 ある時書斎にて仕事に追われていると、彼女がお盆を手にやってきて、コーヒーを僕の横に置いた。
 コーヒーはブラックを僕は好むのだが、砂糖とスプーンがソーサーの上には乗っていた。
 今日はあえて砂糖の袋を開けコーヒーの中へ入れる。そしてスプーンを持ち、混ぜる。案の定、スプーンの柄に出っ張りはなかった。しかし僕はそれを指摘しなかった。
 彼女は誰かを殺したことなんてないだろうし、優しい。だからきっと僕が彼女が殺めた人間第一号になれば生涯、罪悪感に苛まれてくれるだろう。僕のことを常に考えずにはいられない。それなら死んでも本望だ。
 僕はカップを持ち上げ口元へ近づけた。
「駄目!」
 口を付ける直前でそんな叫び声と一緒に思い切りカップをはたかれた。予想外のことに僕は自分の服にコーヒーをぶちまけてしまった。
 コーヒーの熱さよりも先に僕は彼女を凝視した。彼女も自身の行動に驚いたかのように目を見開いていた。しかし唇をギュッと引き結ぶと背を向け、書斎から逃げ出した。
 僕は呆然とした。けれどすぐに彼女の後を追いかけた。
 その真意を知るために。


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このストーリーに関するコメント

13/12/16 詩架

>>凪沙薫様
コメントして下さり、ありがとうございますm(_ _)m

なんだかんだで手料理を作ってくれる嫁がいるのは私も羨ましいです。

最後はわりと想像がつきやすいかもしれません。
伝わったようで良かったです。
愛憎は表裏一体なのかもしれませんね。

前作に引き続きコメントして下さり、本当にありがとうございました(*´∀`*)
すごく嬉しかったです。
本当に、本当にありがとうございましたm(_ _)m

14/03/12 リードマン

拝読しました!
ものスンゴイレベルで捻じ曲がってますけど、これも愛情なんでしょうね(笑)

14/03/21 詩架

>>リードマン様
返信が遅くなってしまいすみません。
コメントして下さりありがとうございますm(_ _)m

主人公は確かにものすごく捻じ曲がってますね(笑)
ですが彼なりに彼女のことを愛しているのだと思います。

コメントして下さり、本当にありがとうございましたm(_ _)m

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