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isocoさん

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消灯させない

12/05/18 コンテスト(テーマ):第五回 時空モノガタリ文学賞【 京都 】 コメント:0件 isoco 閲覧数:2425

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 お賽銭箱の前で、幽霊に声をかけられた。
 初対面の幽霊である。それなのに、久しぶり、会いたかったよ、などという。メガネをかけた薄い顔立ちをした男性だ。身の危険を感じ、即座に逃げようとするも肩をつかまれた、はずなのに彼の手は私の体を通過した。彼は透けているのである。

 一万円札をお賽銭箱にいれ、再生させたい者の名前を唱えながらお参りすると、その死者を蘇らせることができる。ここはそう噂されている神社だ。なので彼は幽霊であり、透けていてもおかしくない。しかし、私は一万円など入れていない。それなのに、目をあけると、彼が隣に現れたのだ。急に、流れ星のように。

「デートしよう」彼は死者のくせして、随分と悠長なことを言う。
「清水寺に十六時集合なので」私はそう言って立ち去ろうとした。
「場所、おぼえていないでしょう」
 おかしなことを言う。名も名乗らない、死因も話さない、さらに体は透けているのにこの厚かましさ。私はムッとしていくつもの赤い鳥居をくぐり始めた。が、おかしなことに、清水寺の場所は思いだせないのだった。

 けれども、歩いている間にいろいろと思いだしてくる。清水寺の場所も、修学旅行中であったことも、彼の名前も思いだしてきた。いざ清水寺に着くと、私とは違う制服を着た子たちが集合写真を撮っている。期待していた友人たちは、やっぱり、どこにもいない。

 大門の前で途方に暮れていると、彼が話しかけてくる。
「もう、みんな行っちゃったよ」
 彼が手を握ってきた。その感触は懐かしくて、体の中が飛びあがった。

 並んで夕陽を見て、遠くにある京都タワーを見て、私は自分が死んだ瞬間を思いだした。自由時間にグループを抜けて二人きりになろうと、さっきの神社で彼と待ち合わせしていたことも、思いだした。
 もう何年前になるのだろう。私は制服を着たままなのに、彼はスーツを着ている。
「透けてたの、私の方だったんだ」
「うん」彼は当時かけていなかったメガネの位置をなおした。

 清水寺の近くにある大きな駐車場で桜をみた。手をつないでいる。つないだ手が、あたたかい。透けていたのが嘘みたいである。夜の桜はいつもよりおおきく見えて、そのせいで優しくなれてしまいそうだ。

「事故のこと覚えてる?」
「覚えてない」嘘だった。
「僕のことは?」
「忘れたい」これも。
 夜空を向いてしばらく話した。一回も見つめ合わなかった。

 月の光によって、砂利石がゆらゆらと輝いている。石を蹴りあげてみると、空振りした。また体が透けはじめているのである。さらに体は少しだけ浮いていた。私の太ももを通過した桜の花びらが、彼のズボンに張りついた。彼はそれを悲しそうに見ている。

 それでも、京都の街を、歩いた。石畳の隙間から生えている雑草を踏まぬように、なるべく上を向いて歩いた。
 歩道の真ん中にいると、私の体の上を人力車が通っていく。もう、私のことは彼しか見えないらしい。
「つじりの抹茶パフェが食べたい」
「うん」
「千手観音みにいきたい」
「うん」
「家に帰りたいなぁ」
「・・・・・・うん」
「みんな元気?とくに、お母さんとかさ」
「・・・・・・・・・」
 もう手はつなげないほど、私の体は透けている。それでも何度もたがいの手を探り合った。すれ違いが起こるたびに、彼の手を感じる。それはとてもさみしいけれど、ないとやっていけない。
 
 祇園四条駅へつづく一本道に、ライトを点けた車がたくさん吸いこまれていく。それらの光は外灯と混ざりあって爆発的に明るい。どの光も、人の意思が込められていて、私が死んだことを明るくしてくれる。

 体が浮いていく。夜に向かっているのである。光からほど遠い場所へ、透けていくのである。手をつかみあって、その場に留まろうとしたが、私たちの手は空中で交差した。その時、彼の手が光った。指輪みたいな光だ。
 手の平を私にむけて、彼は焦るように言った。
「次は抹茶パフェ、ごちそうする」

 何度、私は彼に呼ばれたのだろう。彼の気がむいたとき、私の命日のたびに、それとも毎日か、わからない。次呼ばれても、私は全てを忘れている。そしてまた、思いだす。その作業を思うと憂鬱で、浮遊しながら、体が重たくなった。

 彼の名前を呼んだ。背中がどんどん星へ近づいていくのにも構わず、彼の名前を呼んだ。忘れないように、呼んだ。私の名前はそのとき、忘れていた。
 彼が私の名前を呼んだ。
 ありがとう。もう忘れているものは無い。浮遊していく体が一瞬だけ止まる。一万円札でまた呼んでください。今度は早く思いだすためにも制服を着てきてくれると嬉しい。透けはじめる前にパフェも食べましょう。言い終わると、また体は浮いていく。

 そして、私は夜になった。いつまでも消えないので、どこにいても光る。


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