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ゆえさん

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性別 女性
将来の夢
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あの桜の木の下で

13/11/30 コンテスト(テーマ):第四十四回 時空モノガタリ文学賞【 復讐 】 コメント:2件 ゆえ 閲覧数:1096

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「もう、桜が咲く季節になったのね・・・。」
白いカーテンの向こうには桜が咲いていた。

白く、皺だった細い手を窓にかけてカラカラとあけると暖かい風が舞いこんできた。
ほのかに春の香りがする。この病室に来てから何回目の春だろう。と静代は思いに浸った。

目を閉じると、桜の木の下で待ち合わせた記憶が鮮明に思い出せた。
今の世代が使う、すまーとふぉんと言った機械とかは無かったので、恋する相手が来るまで、待ち合わせた場所から動かずにひたすら待っていた。
桜が舞い散る季節は散りゆく花びらを数えながら。夏にはそらに浮かぶ入道雲、秋には舞い散る落ち葉を踏みしめ、冬には舞い降りてくる雪を見て。

そうして、相手の事を思う時間が長ければ長いほど、相手に対する思いは深まった気がする。今の現代の子達はすぐにめーるとやらで遠く離れた相手とも連絡を取るようで、愛しい相手の事を考え、想いを募らせる前に告白をしているのをなんだかひどく軽薄のように感じたが、孫が嬉しそうに「おばーちゃんもメールしよう!」との提案には勝てず、老眼鏡をかけて、覚えようと努力していた。
そうやっていじっているうちに少しずつ、いんたーねっととやらが分かるようにはなった。流石に使いこなすまではできないが。


「・・・んん、おう、来ていたのか。」とベッドで寝ていた隆昭が声をかけた。
「あら、あなた起きたのね。起しちゃったかしら?」と笑いながら返すと
「まったくだ。お前も来たなら余計な事はせずに大人しくしていればいいものを・・」とブツブツ文句を言いながら、枕元にある老眼鏡に手を伸ばしている。
長年連れ添った仲だから、そんな事を言いながらも喜んでいるのはわかるが、隆昭の口調は随時愛想がない。

静代は結婚した当初から隆昭のそういう所は鼻についた。
だが、もうその思いも数十年連れ添うとどうでもよくなる。そういう物なのだ。

「お茶、飲みますか?」
「ん・・・。」と隆昭は新聞に目を通す。

このやり取りが何百回。隆昭からは一回もお礼の言葉などを聞いた事はない。
ポットから熱いお湯を湯呑に注ぎ、それを急須に戻す。心臓の関係であまりにも熱いお茶は控えるように医者から止められている。少し蒸らして、また緑色に色ずいた液体を湯呑に注ぐ。

「はい、どうぞ・・・」と隆昭に渡すと決まって言う言葉がある。

「もっと、熱いのはないのか?」
「だめですよ。お医者様に止められているでしょう?」
「まったく。熱いお茶は飲めない、好きな物も食えない。こんな場所はウンザリだ。」といつもなら隆昭は不機嫌になるはずが、今日は少し違った。

「・・・お前は、おれと一緒で幸せだったか?」と急に隆昭が静かに言った。
「なんですか?急に?」
「・・・昔の夢を見てな・・。正直、わしももう長くない。自分の事はわかっているつもりだ・・・。・・・最後にお前がいてくれて良かったと思う・・・。」
と静かに話をして、静代の手を握った。

「・・・隆昭さん、そんな風に思っていらしたんですか・・。」と静代は静かに返した。
「皮肉なもんだな。わしがこんな状態になるまで、お前の事をそんな風に感じた事はなかった・・。治ったら、どこか旅行にでも行こう。お前の好きな所へ連れて行ってや・・」と言葉が終らないうちに、持っていた湯呑を落として、胸を押さえた。

呼吸が苦しいのか、薄くなりかけている頭まで真っ赤だった。
そんな隆昭を静かに見下ろす静代。
ナースコールのボタンを掴むと押さずに少し隆昭から遠ざけた。
涙目の隆昭が静代を見上げる。

その顔は穏やかに微笑んでいた。

「・・・隆昭さん、わたしは、あなたと添い遂げて幸せだったと思います?権力と家柄だけが取り柄のあなた・・。あなたの親友と一生添い遂げよう。と約束していたわたしからあの人を奪ったのはあなたですよ・・。そんなあなたと一緒になって幸せだったと御思いですか・・?」

「・・・。」整わない呼吸をしながら懸命に隆昭の口が動いた。
「なんですか?」と静代。

「・・す・・ま・・な・・・」と声は途切れた。口からは泡が出ている。

「もう・・・、行かれるんですね。最後に一つ。」
静代がもう、息もつきようとしている隆昭の耳元に寄った。

「あなたが息子だと思っている昭浩はあなたの子ではないですよ。あの人との子です・・」

隆昭の目が大きく見開いたと同時にさっきまでうるさかった心電図がやんだ。
もう一定の音しか鳴らない。
看護師や医者が駆けつける中、静代は静かな安息の溜息をついた。

隆昭との望まない結婚をしてから、この瞬間だけを生甲斐にしてきた。
家族に連絡をします・・・と病室を出ると慣れない手つきで携帯電話を取り出す。

「お待たせしました。あの桜の木の下でお待ちしてます」と打つと静かに送信ボタンを押した。


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このストーリーに関するコメント

14/03/12 リードマン

拝読しました!
復讐というテーマだと、どうしても殺人ネタになってしまいますよね(汗)

14/03/21 ゆえ

リードマンさん

コメントありがとうございます。
そうなんですよね。
もっと自分の幅を広げたいと思いつつも、殺人ネタになる。
自分の風呂敷を広げたいです・・(汗)

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