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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
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真夏の悪魔の実

13/11/22 コンテスト(テーマ):第二十一回 【 自由投稿スペース 】 コメント:2件 ポテトチップス 閲覧数:1191

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俺が渡辺哲也と出会ったのは、入学した高校で同じクラスになったからだ。
俺の後ろの席だった哲也は、高校生なのに陰険な目をしていた。入学式当日にコイツを初めて見た時は、近寄りがたい奴に思えた。
翌週の月曜日、授業が始まると後ろから消しゴムのカスが何度も飛んできて、俺の肩と机をカスだらけにした。俺はマジでブチ切れそうになったけど、クラスの悪い奴らに変に因縁をつけられるのを恐れて、我慢した。
授業が終わって次の授業が始まると、また後ろの席から消しゴムのカスが何度も飛んできた。俺の怒りの限界はとっくに過ぎていて、俺は目に凄みをきかせて後ろを振り向いてやった。そしたら哲也は「よう! 名前なんて言うの?」って気さくに話してきたから、俺は拍子抜けしちまった。
この日から、俺と哲也の友情はスタートした。
哲也は陰険そうな目をしているけど、かなりいい奴だと付き合うごとに知っていった。
俺と哲也は学校が終わると夜遅くまで街をブラついて遊んだ。俺も哲也も家庭環境が最悪の家だというのがお互いの共通点だった。夜遅くまで街をブラついたり警察のお世話になっても、親に咎められることはなった。むしろ、少しくらいは咎められたいと言う気持ちはあったが、そんな親に恵まれていなかったから少し悲しくも思った。
入学式から4か月近くが経ち、蝉の鳴き声が日本中を騒がし始めた頃、ようやく学校は夏休みに入った。
俺と哲也は、親の財布から金を盗んでは夜な夜なゲーセンやカラオケで遊びまくった。
初めて女を抱いたのもこの夏休みの初めの頃だ。その日、俺と哲也は初めてのナンパに挑戦してみた。深夜の駅前で暇を持て余してそうな女を見つけては声をかけまくった。たぶん俺一人だったらナンパなんて出来なかったと思う。俺は自分でもよく分からないけど、哲也と一緒にいると、不可能なことが可能になるように思えた。美智子と友恵という名前の女と出会ったのは、深夜1時を過ぎた頃だった。2人とも髪を金髪に染めた女で、綺麗でも可愛くもなく、どちらかと言えばタイプではなかった。だけど哲也が声をかけたので仕方なく付き合った。結果はナンパ成功。
俺達4人は駅前から程近いラブホテルに直行した。
夏休みに入って早々に童貞を卒業できた俺と哲也は、まだまだ有り余る夏休みに有頂天になっていた。
 夏休み11日目の夜、俺と哲也は相変わらず親の財布から抜き取った金で遊びまくっていた。でもしだいに遊び飽きてきた俺たちは、公園で缶ビールを飲みながら夜空をボンヤリと眺めていた。
「哲也、カラオケでも行くか?」
「おう」
俺達は尻の砂を払って立ちあがった。
哲也がため息を吐いたから「どうした?」と俺は言った。
「なんか、つまんねえ」
「そうだな」
「川田、なんか刺激のある遊びしたくねえ?」
「してえ」
「なんか聞いた話なんだけど、駅前の路地裏に10分間殴らしてくれるホームレスがいるみたいなんだ。しかもたった300円で」
「哲也、そう言う面白い話は早く教えろよ」
俺達は駅前に向かって歩きだした。深夜の道路に人の姿はなく、歩いているのは俺達二人だけだった。哲也は道路の真ん中で寝転んだりしてふざけてみせた。
駅前の路地裏に着くと、300円で殴らしてくれるホームレスの姿はどこにも見当たらなかった。俺は無性に腹が立って道に唾を吐いた。
しばらく立ち竦んでいると、背後から女の声がした。
後ろを振り向くと、1週間近く前にナンパした美智子だった。
「よう、美智子。今日は相方は?」と俺は言った。
「相方って友恵のこと? 友恵とは今日、遊んでないよ」
「美智子、俺達ちょー暇なんだけど」と、哲也が言った。
「あんた確か名前、哲也君だったよね?」
「おう。覚えてくれてたんだな」
「覚えてるし。私、ちょー記憶力いいんだから」
「なんか面白い遊びしらねえ?」
美智子は一瞬、何かを考えるように暗い地面に顔を向けたあと、顔を上げて不敵な笑みを頬につくってみせた。
「私、いまスゴイ物持ってるんだ」
「なんだよ、スゴイ物って」
美智子は勿体ぶるように、提げていたバッグを胸の前で抱き体を左右に振ってみせた。
「おい、なんだよスゴイ物って。言えよ」
「じゃーん。これ見て」
美智子はバッグの中から白いボトルケースに取り出して、それを振ってみせた。
哲也と俺は同時に「なんだよそれ?」と言った。
「これは……、サリン」
「なんだよサリンって?」
「知らないの?殺傷力の強烈な化学兵器だよ。数十年前にオウム真理教っていう宗教団体が地下鉄で撒いて大きな事件になったんだよ」
「どこで買ったんだよ、それ?」
「買ったんじゃないの。合成して作ったの。と言っても、私が作ったんじゃないよ。私の知り合いに軍事マニアの高校生がいてね、その子が合成して作ったの。でもまだ実験してないから本当にサリンになっているか不明みたい」
哲也は「なんでそんな物、いま持ち歩いているんだよ?」と言った。
美智子は暗闇の中、月の光を反射した目で「私、電車が動きだしたら地下鉄で撒いてみよって思ってるの」と口角を上げて言った。
「オマエ、それが本当にサリンに出来上がっていたら犯罪になるぞ」
「うん。別にいいし。どうせ私の人生なんてつまらない人生だしさ」
俺は哲也が美智子になんて言葉をかけるのか待った。
「おい、美智子。面白そうじゃねーかよ」
「一緒にやる?」
「俺にもやらせろよ」
「おい、哲也!」俺は、哲也のTシャツの袖を掴んで言った。
「だって川田、面白そうじゃねーかよ」
「だけどもし人が死んだらどうすんだよ?」
「大丈夫だよ。俺達が撒いたってバレなきゃいい話だろ」
「哲也君、2人でやろうよ。川田君は臆病みたいだからさ」
「ちょっと待てよ。俺もやるよ。俺もまぜてくれよ」
俺達3人は近くの公園に向かった。途中、自販機で缶コーラを3本買った。
公園のジャングルジムの頂上で、俺達はサリンの実行作戦の打ち合わせをした。
打ち合わせと言っても、いつの時間帯の地下鉄に撒くかが話の中心だった。
俺はなるべく、人にあまり合わない始発列車がいいのではないかと言ったけど、哲也と美智子はそれじゃつまらないと言って、人の混雑する通勤ラッシュの時間にしようと言った。結局、話し合いの結果、通勤ラッシュの時間帯に撒くことに決まった。さらに作戦の精細を詳しく説明すると、先頭車両に袋に小分けしたサリンを持った哲也が乗り込み、2車両目に俺が同じく袋に小分けしたサリンを持って乗り込む。そして3車両目にボトルを持った美智子が乗り込むことに決まった。撒く時間は8時30分ジャスト。携帯電話で列車時刻表を確認したら、8時30分ジャストに列車が発車することが分かったからだ。
俺達はサリンを車両に撒いたら、ドアが閉まる前に降りる算段だ。
作戦は決まったが、朝の8時30分までは後5時間以上も時間があった。
俺達は作戦成功の前祝を兼ねて、カラオケボックスで祝賀会をやることにした。
カラオケボックスに着くと、店員にライムサワーを3杯注文した。美智子は西野カナの『Best Friend』を歌い始めた。
俺達のテンションは最高に盛り上がった。俺はなんだか自分で自分をコントロールできなくなっていた。それは哲也も同じにみえた。こんなにテンションの高い哲也を俺は初めて見たようにも思った。
俺達は朝まで歌いまくった。声がかれて、喉から血の味がしても大声で歌いまくった。
午前7時50分に俺達はカラオケボックスを出た。
道路を挟んだ向かいにあるコンビニで、サリンを小分けする袋とマスクを大量に買った。
俺達はマスクを何重にも重ねて口と鼻を防護した後、美智子のバッグから白いボトルを取り出し、これまた何重にも重ねた透明のビニール袋に、サリンを分けた。
俺と哲也はビニールの口をきつく縛り、それをジーンズの前ポケットにしまって立ち上がった。
哲也が手を伸ばしたので俺はその上に手を重ね、さらに美智子も伸ばした手を重ねた。
3人ともマスクをしているので表情は分からないが、俺達は目を合わせて大きく頷いた。
地下鉄のホームにバラバラになって向かった。目指すは上り3番ホーム。
ホームに降り立った俺は、前から2車両目の停車位置に準備した。先にホームに降り立った哲也は先頭車両の停車位置で準備している。反対に顔を向けると、美智子も3車両目の停車位置に準備した。
俺は携帯電話を取り出し時刻を確認した。後7分で標的の車両が到着して発車する。
俺の心臓は激しい鼓動を繰り返した。息をするのが苦しく思えた。
駅のアナウンスが流れ、間もなく8時30分発、上り快速列車が3番ホームに入って来るのを伝えた。
哲也の方を見ると、ポケットに両手を突っ込んで平然と立っていた。
美智子の方を伺うと、バッグを胸の前で大事そうに抱えていた。
快速列車がホームに入ってきて停車した。車両にはスーツを着た男性や女性で満員状態だった。
もう一度、哲也の方に顔を向けると、哲也は俺の顔を見て大きく頷いた。美智子の方に顔を向けると、美智子も俺を見て大きく頷いた。
俺は高鳴る鼓動に体が震えていたが、車両に乗り込んだ。
携帯電話で最後に時間を確認すると、8時29分を表示していた。
俺はジーンズの前ポケットからサリンの入った袋を取り出し、ヘソの辺りで破る準備をした。
出発のベルが鳴った。先頭車両から急に乗客の悲鳴が上がった。それを追うように3車両目からも悲鳴があがった。俺は力を込めて袋を破り車両にばら撒いて車両を急いで降りた。
俺は全力で朝降りて来た階段を昇った。すぐに美智子まで俺は追いつき「急いで昇れ」と言って即した。
俺達の作戦では、深夜のジャングルジムのある公園に合流することに決めていた。
美智子と俺が公園に到着すると、哲也はジャングルジムの頂上に座っていた。
俺と美智子も頂上に登ると、哲也は冷えた缶コーラを俺と美智子に手渡して満面の笑みを作った。
美智子も俺もそれに応えるように満面の笑みを顔に作った。
俺達3人は、黙って缶コーラを飲んだ。
遠くから救急車のサイレン音とパトカーのサイレン音が何台も聞こえてきた。
哲也が手を伸ばした。俺はその上に手を重ね、俺の手の上に美智子の汗で濡れている手が重なった。
最高にテンションがマックスだった。
俺は缶コーラを一気に喉に流し込んだ。

終わり


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このストーリーに関するコメント

13/11/23 かめかめ

サリンの精製は失敗だったみたいですね。
三人が目も保護せず、素手で触っても生きているところをみると。

14/03/12 リードマン

拝読しました!
なんというか、もう少しだけ補足をして欲しかったです(涙)

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