1. トップページ
  2. 12月の初雪Tokyo

ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが最近になって、やっぱり小説家の夢を追い求めたい自分がいることに気づきました。久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説を書いてます。http://www.potetoykk.com

性別 男性
将来の夢 太宰治賞もしくは北日本文学賞で最終選考に残ることです。
座右の銘

投稿済みの作品

1

12月の初雪Tokyo

13/11/19 コンテスト(テーマ):第四十五回 時空モノガタリ文学賞【 雪 】 コメント:1件 ポテトチップス 閲覧数:1098

この作品を評価する

「もしもし、明日の有明でのピッキングのお仕事はまだ受け付けてますか?」
『もう定員がいっぱいになりました』
「そうですか。分かりました」
望月友則は公衆電話の受話器を元に戻し、また携帯電話の画面をしばらく見た後、10円玉を緑の公衆電話に入れダイヤルを押した。
『はい、イーストタートルサービスです』
「もしもし、明日の新木場での倉庫内作業の仕事はまだ受け付けてますか?」
『まだ受け付けてますよ。登録しますか?』
「はい。是非お願いします」
『まずはいくつか質問させて頂きますが、ご住所はどちらになりますか?』
「あのう……、2日前にアパートを追い出されまして……」
『そうですか。では、住む場所が決まったらもう一度お電話をください』
望月は公衆電話ボックスを出て、近くの小さな公園のベンチに腰をおろした。12月の寒風が粗末なコートの隙間から体の熱を奪っていった。
正面のベンチに座る白髪の老人が、小型犬を抱っこしながら菓子パンを食べていた。望月のお腹が何度も鳴った。
無駄に時間だけが過ぎていき、空にはオリオン座が綺麗に輝きはじめていた。正面のベンチにはもう老人の姿はない。きっと今頃、家族と一緒に暖かい夕食を食べているのだろうと思った。
それからさらに時間が過ぎ、じっとベンチに座り続けている望月の体は小刻みに震えていた。向かいにそびえる高層マンションから、一つまた一つと明かりが窓から消えていった。きっと、フカフカの暖かいベッドで幸せな夢を見るのだろうと思った。

ウトウトしていると消防車のサイレン音が聞こえてきて目が覚めた。暖かいスープを飲む夢を見ていたらしく、口の端から涎が垂れコートの襟を濡らしていた。
ベンチから立ち上がった望月は、深夜の駅前に向け歩き始めた。こんなに寒い夜にも関わらず、まだ酔っ払いが千鳥足でシャッターの閉まった駅前を、酒と女を求めて歩いていた。
さらに歩みを進めると、シャッターの閉まったコーヒー店の前に、だらしなく倒れて寝ているスーツを着た中年男がいた。
その男を見つめる望月の目は、金を欲しがる猛獣のような目になっていた。
左右に顔を向け、人が誰もいないことを確認すると、男の上着の内ポケットから財布を奪い取って駅前から走って逃げた。
駅から離れた場所にある公衆電話ボックスに入って、奪い取った財布の中を開いた。
財布の中には3000円しか入っていなかった。望月はがっかりした。もう一度駅前に行って財布を奪ってこようと悪知恵が浮かんだ。
先ほどとは反対側の改札口に向かった。こちら側はオフィスばかりが立ち並んでいるが、すぐに酔っ払って路上で寝ている若い男を見つけた。
先ほどと同じく、左右に顔を向けて誰もいないことを確認した後、素早く財布を奪って逃げた。
財布には2万円が入っていた。
ファミレスに入った望月はハンバーグを注文し、2日ぶりの食事に安堵した。
ホットコーヒーを飲みつつ、2階の窓からもうすぐ早朝を迎える街並みを見渡した。先ほどから赤色灯を点滅させているパトカーが、何度もファミレスの前の道路を過ぎ去っていた。

カラスの鳴き声がうるさく聞こえてきた。
あまりにうるさいので目を開けると、辺りは雪が薄っすらと積もり、近くのゴミ捨て場でカラスが数羽、ゴミをあさっていた。
すぐにここが公園だと分かった。財布を盗み、ファミレスでハンバーグとホットコーヒーを飲んだのも夢だと分かった。
自分の体には薄っすらと雪が積もっていた。でも寒さは感じなかった。もう寒さを感じる神経が麻痺しているようだった。
真っ赤に赤らんだ手に暖かい息を吹きかけながら、空を見上げた。
夜は明けきり、もうすぐ人々の活動が始まるだろう。まだ降っている雪と降り積もった雪を見て、カーテンを開けた人々は驚くだろう。
雪を見て喜びを感じる人と面倒に思う人。自分はもちろん喜びなど感じない方だと思いながら、携帯電話を覗いた。
日雇い派遣専門の就職サイトが更新されていた。年末も近づき、日雇いの仕事の案件は極端に半減していたが、もう食べるお金さえない望月は、一つ一つの案件を注意深く読んだ。
午前10時になったら、片っ端から日雇いの仕事を求めて企業に電話を掛けようと思った。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/03/12 リードマン

拝読しました!
これはまたなんとも、厳しい(苦笑)

ログイン