1. トップページ
  2. アップル・パラダイス

ヨルツキさん

宇宙が大好きな物書きです☆ 書いていないと具合が悪くなります。文庫本を片手に空を見上げていたら、それはワタクシです☆ ※画像はレフカダさんの作品です(無断転用禁止)

性別 女性
将来の夢 ガツガツしないで穏やかに生きる人間になるコト
座右の銘 人事を尽くして天命を待つ

投稿済みの作品

1

アップル・パラダイス

13/11/16 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:2件 ヨルツキ 閲覧数:1248

この作品を評価する

 まどかが大学のサークル棟でブログの更新をしていたときだ。物音がした。振り向くと窓辺に何かが置いてあった。白い箱だ。そのひと抱えはある箱を覗いて、まどかは首を傾げた。
「ケーキ? リンゴのタルトかしら?」
「え、ケーキ?」とほかの菓子同好会のメンバーがまどかに群がった。「わあ、美味しそう」。「食べよう食べよう」。
「あの……誰が持って来たのかわからないケーキだし。危なくはないかしら」
「大丈夫よ。まどかは心配症ねえ」とメンバーがまどかにケーキの乗った皿を差し出す。ケーキは甘い香りを放ち、まどかも「そうよね。心配しすぎね」とケーキを頬張った。
 ケーキは翌日もそのまた翌日も届いた。どれもリンゴのケーキだ。リンゴのタルトのときもあればムースのときもある。さすがのメンバーたちもケーキを頬張りながら首をかしげた。
「一体誰がなんの目的でケーキを届けるんだろうね」。「美味しいからつい食べちゃうけど不思議よね」。「わたし、箱を持った人を見かけたわ」。「えっ、誰?」。「若い男の人。社会人っぽい。結構かっこよかったよ? まどかが中にいるのを確認して箱を置いたみたい」
 何それ、と室内が活気づく。「それってまどかに気があるってこと?」。「まどかに貢物のケーキだったのね」。戸惑うまどかを見てメンバーはさらに活気づいた。
 ところが、届くケーキの箱が複数になりだした。どうやら今までの青年以外にも誰かがケーキをまどかに持って来たらしい。しかも、それもまた青年だという目撃証言があった。「うっわー。まどか、モテモテ」とメンバーはまどかを囃し立てた。
 さらにところが、届くケーキの数が増えだした。今度はシニアの教員風の男性が目撃された。さすがにメンバーたちも口調を改める。
「いくらなんでも連日こんなの変だよね」。「……まどかのストーカーとか?」。「やだ、気味が悪い」。「そう言いつつケーキを食べているのは誰よ」。「だって美味しいもの」とまどかをはじめメンバーたちは全員で、届くケーキを片っ端から食べていった。
 でも、とまどかはフォークを口に当てる。確かに気味が悪いわね。毎日届く数個のホールケーキが、すべて私宛だなんておかしいわ。一体私に何をしてほしいのかしら。とりあえず、とまどかはケーキが届くたびに写真を撮った。証拠になるかと思ったのだ。ついでにそれをブログに上げた。感想もきっちり書いた。まどかのブログはかなりの人気で更新するたびに五千人を超えるアクセスがある。リアクションも多い。それによると……まどかが口にしているリンゴはどうやら市販のリンゴではないらしい。
「新種のリンゴ? それって、食べて大丈夫だったのかしら。とっても美味しかったけれど」とまどかが眉をしかめていたときだ。メンバーの声がした。
「捕まえたわ。この人たちよ。毎日ケーキを届けていたのは。ほら、どういうことか説明しなさいよ」

 ケーキの届け主は農学部でリンゴの品種改良をしているという男子学生とその指導教員だった。
「まどかさんのブログがあまりに人気なので、そこで僕たちのリンゴの宣伝をしてもらおうとケーキにして届けていたんです」
「だったらそう言えばいいじゃない」とメンバーが学生に詰め寄った。だって、と学生がひるむ。「そういうのは、まどかさん、嫌いだってブログに書いてあったので」。「なんだアンタもブログ愛読者だったの」。「だからケーキにしてこっそり届ければ、食べてもらえるかなと。それで記事にしてもらえたら嬉しいなと」と言って学生はまどかに頭を下げた。「記事からウチのリンゴじゃないかと問い合わせが来るようになりました。すごく助かります」。教員もまどかに頭を下げる。「味には自信があったんだが、どうにも営業が下手で。これで足がかりができます」。
 まどかは慌てる。「頭を上げてください。いただいたリンゴのケーキは本当に美味しかった。ごちそうさまでした」。ただ、とまどかは言いよどんだ。「ただ?」とメンバーがまどかに顔を向けた。
「あ……うん。食べたケーキの中で、違うリンゴも混じっていたの。あれは王林だったわ。王林の食感が私は苦手で。だから食べられてびっくりしたのよ」
 そのときだ。まどかの携帯にメールが入った。文面には『試食をしていただきありがとう。おかげで新商品の売れ行きは好調です』とあった。まどかは、あっ、と声をあげる。そうだ。忘れていた。馴染みの洋菓子店から試食依頼を受けていた。口に手を当て、まどかはメンバーを見た。メンバーたちは口々に「なら誰がそれを?」とか「あの最初の青年よ」と言い合っている。さて、いつ告白したものか。まどかはパソコンの前に座る。ブログを開いて入力をした。タイトルは『アップル・パラダイス』。ここにこの事件を記載しておこう。そのうち誰かが気づくだろう。……ちょっとずるいかしら?


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

14/03/11 リードマン

拝読しました!
すらっと読める、眼に優しい文章でした

17/02/12 ヨルツキ

す、すみません。3年もたってから、コメントに気づきました。
ありがとうございます。

ログイン