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こしあん事件

13/11/14 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:1件 五助 閲覧数:1198

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 業務用の饅頭蒸し器の隙間に男が押し込められていた。饅頭の甘い匂いがする。共に蒸されていた男は死んでいる。
「まさかと思うが饅頭を盗み食いしようとして蒸し焼きになったって事はないよな」
 警部は言った。
「落語ですか。生きたまま閉じこめられたわけではなさそうです。後頭部に打撲痕があります」
 検視官が言った。
「饅頭と一緒に死体を蒸し上げたわけだな」
「別の場所で殺され、ここに運ばれたようですね」
「ひどい顔だな。蒸された影響か。身元の確認はできているのか」
「はい。山下敬一、ここの従業員です。さっき社長に確認しました」
 刑事が言った。社長は少し離れた場所で別の刑事に話を聞かれている。
「こしあんか」
「たぶんそうじゃないですか。警部はこしあん派ですか」
「ああ、つぶあんは殻が口に残るからな」
 歯にも詰まるし、警部は顔をしかめた。
「僕はどっちでも。蒸し器に入ってる饅頭、少なくないですか」
 蒸し器の棚の饅頭は、かなり広い等間隔に置かれていた。
「安西さん、饅頭の数が少ないように見えますが、何か理由があるんですか」
 警部は少し大きな声で社長の安西に話しかけた。
「試し蒸しです。休み明けは、チェックのために朝に試し蒸しをするんです」
「休みの日に異常がなかったかどうか、調べているわけですな。それはみんな知ってることですか」
「うちの従業員なら知ってます。朝の朝礼で試し蒸しをした饅頭を食べるんです」
「社員全員が朝早くから工場に来ているんですか」
「いえ、当番のものと、私と工場長、あと鍵の管理をしている事務のものと、全員ではありません」
「亡くなられた山下さんも来ていたんですか」
「ええ、事務のものですが、朝来たときに挨拶をしました。仕事があるとかで」
「なんの仕事ですか」
「それは聞いていません」
「試し蒸しをしている間、この部屋に誰かいました」
「蒸し器に入れた後は、蒸し上がるまでは自由行動で、私も上でコーヒーを飲んでました。わかりかねます」
「試し蒸しの時にいた従業員の名前を全員調べてくれませんか」
「タイムカード調べてきます」
 社長は事務所に走った。

「蒸している途中に死体を蒸し器に入れたって事ですか」
 刑事が言った。
「おそらくな、饅頭入れながら死体を入れるような企業体質でない限り、そう考えるのが妥当だろう」
「とすると、山下さんは、朝、社長と挨拶して、蒸している間に殺されたと言うことですね」
「そうなる」
「なぜそんなことしたんですかね。すぐ見つかるでしょ。蒸し終わったら、みんなが来るってわかっているのに」
「犯人には被害者を蒸さなきゃいけない理由があったんだろうな」
「ありますかね。そんなの」
 刑事は首をかしげた。
「わからん。それより、遺体の運搬方法はわかったのか」
「ええ、外に置いてある台車を使ったんでしょう。今鑑識が調べています」
「よし、いこう」

 工場の外に台車が数台置かれていた。鑑識が数人膝をつき辺りを調べていた。
「そいつか、被害者を運んだ台車は」
 警部は一台の台車を指さした。
「はい、血痕と何本か毛髪がありました。間違いないでしょう」
 鑑識が言った。
「たしかに、血の跡があるな」
 警部は身をかがめた。
「どこで殺したんですかね。その後、わざわざ蒸し器に運び入れるなんて、怨恨ですかね。死体を蒸し焼きにするほど恨んでいたという事ですかね」
 刑事が言った。
「そうとも限らんぞ」
 警部は立ち上がった。
「どこにいくんですか」
「事務所だ。社長に聞きたいことがある」

「女性ですか、朝、一人いました。笹木です。鍵を預けてましたから、当番制で、鍵の管理は事務の仕事でしたから」
「呼んでいただけますか」
「はい」

「笹木さんですね」
「はい」
 警部は女に近づき鼻をひくつかせた。
「あの、なんですか」
 女はおびえた表情をした。
「山下さんの件で、何かご存じじゃないですか。例えば台車を使って、山下さんを蒸し器に入れたりしてませんか」
 女は膝をつき泣き崩れた。

「あの女、仕入の担当で横領をしていたらしいです。それを山下さんに指摘され、もみ合いになって突き飛ばしたら死んでしまったそうです」
 刑事が言った。
「そうか、くだらんな」
 警部は鼻で笑った。
「警部、なぜあの女だってわかったんです。種を明かしてくださいよ」
「浅はかな話だよ。被害者を乗せた台車から香水の匂いがした。あの女と同じ香水だ。何かの拍子に香水が被害者に付いたんだろう。あの女は被害者に付いた香水の匂いを饅頭と一緒に蒸すことによってごまかそうとしたんだ」
「なるほど、確かに、饅頭の匂いは強烈でした。警部、さすがですね」 
「そうか、こしのないあんいな事件だったぞ」
 にやりと笑った。
「その辺はたいしたこと無いですね」


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このストーリーに関するコメント

14/03/10 リードマン

拝読しました!
高い完成度に感動しました!

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