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復讐劇の役者達

13/11/10 コンテスト(テーマ):第四十四回 時空モノガタリ文学賞【 復讐 】 コメント:4件 四島トイ 閲覧数:1068

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「復讐を手伝ってください」
 おかっぱ頭の高校一年、横沢杏里は頭を下げて話を締め括った。机越しに腰掛けた同級生の諏訪水見が真剣な眼差しで何度も首肯する。その隣で二年の漆山与一は眉間に集中する頭痛を揉み解していた。
 午後の陽の光がたゆたう放課後。三人きりの生物室にかすかな沈黙が訪れる。
「任せて。わたし達も手伝うから」
 身を乗り出す水見を与一が手で制した。「俺はやりたくない」
「何言ってるんですか」
「お前こそ何言ってるんだ。失恋相手への意趣返しだぞ。世の中じゃ逆恨みっていうんだ」
「そんな単純な話じゃないですよっ。横沢ちゃんの話聞いてましたかっ。彼女フられたんですよ」
 水見が耐薬実験机を小さめの掌で派手に叩いて訴える。
「落ち着け。本人の前で力説することじゃない」
「同学級。映画鑑賞が共通趣味。雰囲気良好。なら次はお付き合いですよ。男女として。なのにですよ。『好きな人いるからごめん』って。その『好きな人』も同学級ですけど、付き合いなし。モーションなし。雰囲気不明。そんな曖昧な片想いを盾にフるなんてっ……くっ」
「……泣くな。横沢さんが戸惑ってる」
 鼻をかむと水見は顔を上げた。
「だから復讐ですよ。思い知らせましょう」
 目を爛々と輝かせる水見。咳払いをして与一は、復讐っていうのはな、と努めて冷静な声で前置いた。
「例えば、無実の罪で投獄されて全てを失ったとする。普通なら諦める。でもな、諦めないんだ。待つ、しかして希望する。そうやって巨万の富と爵位、研鑽した知識と技術を後ろ盾に、復讐を成し遂げる」
「『岩窟王』じゃないですか」
「そういう覚悟が必要ってことだ」
 覚悟ならあります、と割って入った杏里の声に二人は顔を向けた。真っ直ぐに切られた前髪の向こうに強い視線があった。
「それでも思い知らせたいんです。苦しさを」
 開け放した窓から風が吹き込み、暗幕と杏里の髪を揺らす。堪えきれないように水見が立ち上がった。
「漆山部長これが女子の覚悟ですよっ。大丈夫だよ横沢ちゃん。私達、湯ノ島高校恋あ……」
 与一の咳払いが、水見にそれ以上続けさせなかった。引き寄せて耳打ちする。
「……生徒会長は知ってるのか」
「はい。『恋愛代執行部の役目は他でもなく全校生徒の恋の成就。その本分を果たして欲しい。失恋もまた恋である。特に失恋は文武共に疎かになるから、巧くやってネ』だそうです」
「……どういう理屈だ」
「正式依頼ってことです」
 与一の中の天秤が悩ましく揺れ動いた。しばしの後、深くため息をついて彼は顔を上げた。
「……復讐の段取りしましょうか。横沢さん」


「来ましたよっ。漆山部長」
 数日後。映画館入口を双眼鏡で見張っていた水見が興奮した声を出した。
「今日限定の映画のタダ券を渡したんだ。映画好きなら来るだろ」
 杏里の依頼は、元想い人を映画館に行かせてくれというものだった。再上映になった恋愛映画。チケットの手配までしていた。チケットを手渡された日、どろりとした展開を予想していた与一は毒気の抜かれた思いで、おかっぱ頭の女子に問うた。
「その映画に彼を行かせればいいんですか」
「いいんです。お願いします」
 それだけだった。
 いくら思い返しても腑に落ちない与一の横で水見が低く笑う。
「しかも本日はカップルデーですよ。お一人様じゃ割引も、おまけもない。周囲の視線はざくざく刺さる。ふっふふ……最高の復讐じゃないですか」
「……でも何か、女子と話してるぞ」
 何ですって、と水見が声を上げる。確かに元想い人は同じく入口に立つ女子と話しをしていた。どこかぎこちない二人の様子に、出会いが偶然であることが窺えた。そして、どこか赤くみえる横顔に、話し相手が誰なのかも予想がついた。
 しばしの後、二人は並んで映画館に吸い込まれていった。
「どういうことですかっ」
「二人で観に行くことにしたんだろ」
「そんな……そんなのって。この憤懣やる方ない気持ちをどうしろとっ」
 混乱でよろめく水見に、頭冷やして来い、とだけ言うと、許すまじ曖昧系男子っ、と一声叫んで駆け出していった。手近な縁石に腰掛けて、頭の中を整理する。短く息をついて顔を上げると、杏里が立っていた。
「……目論見どおりだったかな」
 はい、と小さく返事がある。
「何でまた二人を引き合わせようと。俺達を巻き込んでまで」
「じれったいんですよ。あの二人。でも私だけだと変に勘繰るかな、て」
「フられたっていうのも作り話か」
「それは本当です」
 杏里が視線を遠くする。
「先輩知ってますか。好きな人がいるって本当に苦しいんです。声も仕草も姿も焼きついて離れない。付き合う前でも、フられた後でも、ずっと。きっと彼も今その苦しみを味わってる。苦しめばいいんです」
 私みたいに、と小さな言葉が涙と一緒に零れた。


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このストーリーに関するコメント

13/11/10 光石七

拝読しました。
湯ノ島高校恋愛代執行部、シリーズ化ですか!
うれしいです。
恋心は複雑ですね。杏里の気持ちと行動が胸にきゅっと来ます。

13/11/12 四島トイ

>光石七様
 読んでくださってありがとうございます。
 ……覚えていただけているのは本当に嬉しいです。涙がぽろぽろする思いです。
 シリーズ化といえるほど大それたものではありませんが、今回のテーマを明るく乗り切れるキャラクターを考えた結果がこうなりました。光石七様の御活躍も参考にして今後ともがんばっていきます。
 ありがとうございました。

13/11/14 クナリ

またこの二人に会えてうれしいです。
生徒会長は、登場しないのにいいキャラクタですね。

このなんともいえない読後感が、四島さんの魅力ですね。
最後の「それは本当です」がとても切ない! でもいい!

どこかあっさりと、爽やかにも描かれた人間模様に見えますが、登場人物たちの胸中にこめられた感情が、字数以上のボリュームを感じさせてくれています。

13/11/14 四島トイ

>クナリ様
 コメントありがとうございます。続けてお読みいただける光栄に胸が詰まる思いです。魅力といえるほど輝かしいものはありませんがそう言っていただけたことが嬉しいです。
 今作は一人称なのか三人称なのかもブレブレで、正直なところ自分だけが満足する話運びになってしまって恥ずかしい限りです。
 もっと2千字で力を発揮できる作品作りができるよう、今後もがんばります。ありがとうございました。

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