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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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ルナティック・ノクターン

13/11/05 コンテスト(テーマ):第四十四回 時空モノガタリ文学賞【 復讐 】 コメント:17件 光石七 閲覧数:1773

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 私は道路脇に車を止めた。左側のアパートに目をやる。明かりが点いている部屋は半数ほど。今まで何度も来たアパートだが、なんだか違う建物のようにも見える。でも、間違いなくここだ。
 私は車を降りた。後部座席から小さめの段ボール箱を下ろす。箱には封をして伝票を貼り付けてある。私は今日のためにネットオークションで手に入れたそれっぽいユニフォームに身を包んでいる。腰にはウエストポーチ。この格好なら宅配業者に見えるはずだ。今は女性スタッフも珍しくない。
 帽子を被り直し、呼吸を整える。箱を抱えてアパートに向かった。すれ違う人はいない。ゆっくりと階段を上った。上がってすぐの201号室。ドアの前に立ち、もう一度深呼吸した。ウエストポートからサバイバルナイフを取り出す。ナイフを持った手で呼び鈴を押し、「宅急便でーす!」と声を掛けた。奥から「はい」と短い返事が聞こえた。私はサバイバルナイフを箱の下に忍ばせた。
 ――月哉、もうすぐだよ。月哉の無念を晴らすからね……。
 近づいてくる足音に耳を澄ませ、私はその時を待った。

 月哉は優しかった。明るい大学生だった。月哉はお茶目だった。人が良くて、困っている人を見たら放っておけない性格だった。将来は弁護士になるんだと、夢に向かって頑張っていた。私はそんな月哉が大好きだった。月哉と出会って、私は毎日が楽しかった。嫌なことも月哉といると忘れられた。私はできる限り月哉との時間を作った。月哉は私がどんな態度を取っても嫌な顔一つせず、私に寄り添ってくれた。スーパーヒーローではないけれど、私には誰よりもカッコいい最高の男性。私の一番大切な人だった。ただ一緒にいるだけで幸せだった。本当に幸せで、ずっとこんな日々が続けばいいと思っていた。……思っていたのに。
 どうして月哉が死ななくてはならなかったの? 不運な事故? ……確かにあれは事故だった。月哉があそこを通ったのはたまたまだった。友達との待ち合わせに急いでて……巻き込まれた。じゃあ、その友達のせい? 仁と快李が悪いの?
 ――違う、そう仕向けた人間がいる。そうだ、全部あの女が仕組んだんだ。あの女が月哉の命を奪ったんだ。――柚城メイ!
 柚城メイが月屋を殺した。なのに、あの女は何の咎めも受けずのうのうと生きている。私はそれが許せない。月哉の人生を終わらせた責任を取らせなければならない。月哉の命を奪った罪を償わせなければならない。誰もあの女を裁かないのなら、私が裁く。志半ばで夢を絶たれた月哉のために。
 だから、私は今日まで準備をしてきた。柚城メイの情報を集め、彼女が一人暮らしをしているアパートを下見した。生活パターンも調べあげた。宅配業者に装う服とサバイバルナイフも入手した。
 月哉の仇さえ取れればいい。私の人生も命も月哉のものだ。後はどうなっても構わない。
 月哉、もうすぐあなたを殺した女に罰を下すよ。月哉、見てて……。

 足音が扉の向こうで止まり、ドアノブを回す気配がした。サバイバルナイフの存在を確かめ、笑顔を作る。ドアが小さく開いた。チェーンが付いたままだ。あの女が隙間から顔を覗かせる。
「キラキラ運送です。荷物をお届けに参りました」
私は愛想よく言った。
「あ、ありがとうございます」
女が答える。
「恐れ入りますが、こちらにサインを頂いてもよろしいでしょうか?」
箱を受け取るために女がチェーンを外した。女がドアを大きく開けた瞬間、私は中に入り込んで箱を放り投げた。右手にサバイバルナイフを握りしめる。女は悲鳴を上げた。私は女に突進した。
「い、痛い……」
――月哉の苦しみはこんなもんじゃないわよ。私は女の腹からナイフを抜き、もう一度刺した。逃げようとする女を床に押し倒した。
「やめて!」
叫ぶ女の体にまたがる。手が動いて邪魔なので、切りつけてやった。ひるんだ隙に女の腕を引っ張って自分の膝の下に押し込んだ。もう片方の腕も膝で押さえ込む。
「いや、誰か! 助けて……!」
私は女の頬にナイフを当てた。女が息を呑む。私はナイフを思いっきり振り上げ、女の首に突き立てた。

「――昨日午後8時半ごろ、Q市の飲食店店員、栗山沙穂さん、23歳が自宅アパートで刺されるという事件がありました。Q署は現場にいた25歳の女を傷害の疑いで現行犯逮捕しました。栗山さんは病院に運ばれましたが、まもなく死亡しました」
キャスターが神妙な面持ちでカメラに向かって話す。
「逮捕されたのは、P市の会社員、酒浦美弥子容疑者。調べによると、酒浦容疑者は栗山さんが『柚城メイ』のペンネームで連載していた少女漫画のファンで、お気に入りのキャラクターが連載途中で死んだことに恨みを抱いていたということです……」


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このストーリーに関するコメント

13/11/05 光石七

訂正です。
一か所「月哉」が「月屋」になっていました。
お恥ずかしい……
申し訳ありません m(_ _)m

13/11/05 W・アーム・スープレックス

むちゃくちゃ面白いオチですね。しかしこれ、あながち虚構とばかりいいきれないところに、現代社会の恐怖を覚えます。酒浦女子のような人間がひとりやふたり、近い将来に出現するような気がしてなりません。もしかしたらいまも、宅配業者をよそおって、目的の部屋に続く階段を上がっているかもしれませんね。ノックの音が………

13/11/06 光石七

>OHIMEさん
コメントありがとうございます。
ふざけたつもりはなかったのですが……普通の名前にすべきだったでしょうか(苦笑)
美弥子の中では月哉は確かに存在していた、というつもりで書きました。
多分誰にも聞かれないでしょうが、タイトルに「ノクターン」を使ったのは、私の中ではこのお話のBGMがショパンのノクターン(一番有名なもの)だったからです。ノクターンの和訳が「夜想曲」というのも意味深な感じではないかな、と。
美しい音楽なのにこんな話に使って、ショパンさん、ゴメンナサイ。

>W・アーム・スープレックスさん
そうなんです。
現実でも起こりそうな事件じゃないですか?
決してコメディのつもりで書いたわけではございません(苦笑)
よかった、怖さを感じてくださる方がいらっしゃって。
コメントありがとうございます。

13/11/06 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

ええ!! このオチですか。いやしかし、今の世、何があっても不思議はないかもですよ。
ありがたいんですがねえ、ファンっていうのは。でも、こういうことがあることを忘れてはいけない。
──って、誰が予測できるでしょう。読後、ひしひしと怖さが伝わってきますわあ。

13/11/06 平塚ライジングバード

光石様、拝読しました。

大変面白かったです。
物語の導入が得意な光石さんが、最初から一気に情景を積み上げていくなぁ…
と思っておりましたら、少しずつ「復讐」というテーマに則した描写が
挿入され、気づいたら夢中になって読んでいました。
こういう物語の見せ方もあるんだと感動しました。
全体的にバランスのとれた技巧的な素晴らしいエンターテインメント作品でした。

余談ですが、オチのシーンに入った時、「さては主人公、部屋を間違えたな(笑)」
と一瞬でも考えた浅はかな自分が、とても恥ずかしいです。。

13/11/06 泡沫恋歌

光石七さん、拝読しました。

確かにこれは怖い!
腐女子を怒らせると・・・こんなことにもなりかねませんよね?

ある意味、メッチャリアルだと思いました。

13/11/07 光石七

>草藍さん
はい、このオチでした(笑)
あり得なくもないと思うのですが。
怖さを感じていただけて、ホッとしました(……?)
ありがとうございます。

>平塚ライジングバードさん
もったいないお褒めの言葉、ありがとうございます。
要約すれば「あっ、そうですか」で終わる話に臨場感と緊迫感を出せないかと、短めの文で情景や状況を重ねてみました。
部屋違い、人違いというオチも考えたのですが、異常な動機なのに冷静に計画を練って実行する美弥子ならそういうミスはしないかと、この形になりました。
ニュースの冒頭で本名を伝えたのは、そこのミスリードも狙ってました。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
メッチャリアル、ですか。うれしい言葉です。
昔、人気漫画の作者に剃刀を送りつけたファンがいたと言う話を聞いたことがあります。
ファンのクセに作者を憎む、異常な心理だと思うのですが。
作者に何かあったら、続きが読めなくなるのに。
美弥子もまさに逆恨みですよね。

13/11/07 クナリ

凶行に及ぶまでに随分字数を裂いておられたので、このまま
刺し殺して、犯人の独白とかで終わりかなあなどと浅はかにも
思っていたわたくしめをお許しください…。
柚城メイという、変わった名前すら伏線だったとは。
すばらしい一作でした!

13/11/07 光石七

>クナリさん
身に余るお言葉、恐縮です。
細部まで計算して書くという芸当はできないので、結果的にうまく転がった部分が大きいのでしょうか。
「すごく恨んで殺意を抱いてるのに、動機が二次元キャラだったら……」という思いつきから書いたものです。
コメントありがとうございました。

13/11/12 かめかめ

お友達の名前が読めないなー、なんだこの名前は?
と思っていたら、そういうオチでしたか。なるほど

13/11/12 光石七

>かめかめさん
コメントありがとうございます。
月哉の友人の名前の読み方は「ジン」と「カイリ」です。
少女漫画っぽい名前を考えたのですが、わかりにくかったですね。すみません。

13/11/18 芝原駒

拝読しました。
なるほど、と納得してしまうラストでした。「復讐」のテーマでこの題材を選んだ作者様の柔軟さに敬服します。ショートショートとしての完成度の高さを感じました。
いっそのこと、前段の場面説明を半分にしてでも、主人公の強烈な愛着をさらに深く書き込んでいただきたいとすら思いました。

拙いコメントではありますが御容赦ください。

13/11/19 光石七

>芝原駒さん
丁寧なコメント、ありがとうございます。
オチがばれないことに気を付け過ぎて、月哉と柚城メイへの思いは少し淡白な語りになってしまったかもしれません。
心情の描写はいつも下手なんですけど(苦笑)
ここには上手な方がたくさんおられるので、勉強させていただきます。

13/12/05 光石七

>凪沙薫さん
コメントありがとうございます。
これでいいのだろうかと悩みながら書きましたが、結果的に上手く転がったでしょうか。
柚城メイをプロの漫画家にしなかったのは、アシスタントがいては主人公の計画が成り立たないのと、実際に漫画一本で食べていける人は少ないらしいからです。
今の時代なら、電子書籍の漫画家というのもありかもしれませんね。

13/12/14 リードマン

拝読しました。
ええと、読者が気に入っているキャラクターは例え作者とはいえうかつには殺せないと? げげぇ!w

13/12/14 光石七

>リードマンさん
コメントありがとうございます。
そういうことになるでしょうか…… よほど熱狂的で偏執的なファンに限られますが。

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