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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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ハッピー💛スワンボート

13/11/03 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:14件 そらの珊瑚 閲覧数:1536

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『はじめまして』の後、長い長すぎる沈黙。
 そして――
「僕たち、ケ、ケ、結婚、し、します! ってことで」
 とてつもなくきまずい空気を打ち破って淳平の口から飛び出したその言葉に、あやうく私は吹き出しそうになった。『ってことで』は彼の口癖なんだ。けどここで言うか?
 ただでさえ強面の顔をさらにしかめて父は言った。
「それは報告ということでしょうか」
 眼光が鋭すぎだよ、お父さん。ここ取調室じゃないんだから。淳平は容疑者でもないのにビビって、かつ丼食べてもないのに泣き出しそうな顔してるじゃん。
「報告っていうか、お願いっていうか、ねえ」私は淳平の横腹を肘でつついた。
「おまえは黙っとれぃ。それを言うなら『お嬢さんを下さい』とか『結婚を許して下さい』とか大人の言い方ちゅうもんがあるのと違いますか? それに何ですか? その頭の色は。結婚の申し込みに行く時に金髪というのはいささか非常識ではないかな。到底堅気なお人には思えないのですが、ご職業をお聞きしてもよろしいですか?」
 まずい。言葉遣いがどんどん丁寧になっている。父が怒っている証拠だ。私たち家族はそれをサイレントキラーと呼んで怖れているのだ。刑事である父の最も最強な武器である。一筋縄でいかない極悪人には恫喝、どなり声なんかよりよく効くと本人自ら認めている。っていうか淳平は極悪人じゃないってば。
「へ、ヘアーディレクターをやってます」
 父は手渡された名刺をちらりと見て
「生憎当方、生粋の日本人でして日本語でお願いいたします」「ええっと、美容師です」
 ガチャ。
「さーさーお寿司がきましたよぅ。母さん、お腹ぺっこぺこ。お昼にしましょう」
 空気が読めない能天気な母がとびきりの笑顔でリビングのドアを開けた。夫婦って。夫婦って。不可解だ。なんでこのふたりがくっついたのか理解不能だー。
「私は失礼させていただく」
 おごそかにそう言って父が去ったあと、ふえあーという淳平の発した変な声が三人の笑いを誘った。
「ごめんね、淳平くん」
 父がいない時に何度か淳平に会っていた母と彼は仲良しだ。頼まれてもいないのに淳平の取り皿に母はうにを盛る、盛る。うには淳平の大好物ということを覚えていたのだろう。
「今度はさ、黒い髪にして再度チャレンジしてみなさいよ。思い切って角刈りにしちゃえば? 『やればできるじゃないか』なんつってあの人喜ぶはずよ。ファイト〜」
 父の声色を真似るという小わざをはさみながら母はどこか楽しそうだった。こういう結果になることをどこかで予想していたんだろう。結局父は母の手のひらの上ってことか。
「勘弁してくださいよォ。角刈りじゃ、仕事になりませんって」
 初めて見る淳平のスーツ姿は意外とイケてた。もしかしてこれが見納めかも。珍しく弱気な私が顔を出した。
  ◇
 その後私達は散歩がてら井之頭公園へ行った。日曜日の午後人々は青い空の下に集う、の図。ジョギングする人、桜は蕾だというのにお花見を始める気の早い浮かれた集団、犬連れ、ベビーカーの赤ちゃん連れ、その中でもやはりカップルが一番多いように思う。すれ違う男女の誰もが私達より幸せに見えるのはどうしてだろう。いかん、いかん。いつもの強気はどこへいった。
「ねえ、ボート乗ろうよ」何度もここでデートした私達だったが一度もそれに乗ったことがない。『井之頭公園でボートに乗ったカップルは別れる』というマコトしやかにささやかれている都市伝説を怖れていたからだ。
――都市伝説がなんぼのもんじゃい。そんなただの噂じゃん。負けるもんか。
 これは私の、いや私達の挑戦なんだ。都市伝説を踏み越え、父を踏み越え、彼が女にもてるっていう心配を乗り越え、一人娘だ、嫁に行ったら墓は誰が守るんだ、みたいな結婚へのハードルのエトセトラを乗り越えていく決意表明なんだ!
「手漕ぎボートは全部出はらっちゃってるんだってサ」
「すまんね。足漕ぎのスワンボートならあるけど」
 ボート係のおじさんをキッと睨んだ。
――スワンボートだってぇ? ふん、そんな子供だましみたいなボート。
「あれっこれ、この池に一つしかないボートですよ。お客さん運がいいねえ。ほら、スワンの眼の上に眉毛あるでしょ。これに乗ったカップルはゴールインできるっていわれてンですよ」
 私達は仕方なくそれに乗った。ほんとに仕方なくだよ。私は必死にペダルを漕いだ。
「うおりゃあぁぁぁ……」淳平も一心不乱に漕いでいる。額に汗までかいてる。私達のスワンボートはまるでモーターエンジンが付いているかのように速かった。なりふりかまわなかった。回りのボートをけ散らしどのボートより速く水面を進んだ。
 伝説だ! 伝説を証明してやる!
 
 翌週私の家を訪ねてきた淳平はそれはもう黒々とした立派な角刈りで、私はその勇士に惚れ直した。
 


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このストーリーに関するコメント

13/11/03 そらの珊瑚

画像は「写真素材・足成」さまよりお借りしました。

13/11/04 朔良

そらの珊瑚さん、こんばんは^^
拝読させていただきました。

まず、花嫁の父との対面の臨場感あふれる楽しいやりとりに引き込まれました。
それからどう都市伝説に結びつくのかなと思ったら…。こう来たかーって感じでした。
伝説への挑戦から、即、伝説の証明にシフトしちゃう主人公がとってもかわいいです。
彼氏もとっても男前で…。この二人がくっつくところ、また読みたくなっちゃいました。
読んでてとっても楽しかったです、ありがとうございました^^

13/11/04 草愛やし美

そらの珊瑚さん、素敵なカップルですね。ほのぼのしちゃいました。

父と娘、夫婦としての父母、そして、娘の彼氏の初めての父親相手の挨拶、こんな短い2千文字に、このお家の家族関係がちゃんと詰め込まれていて、表情まで想像できる。凄い文章力だと感心しました。
しかも、テーマは「都市伝説」、伝説を乗り越えていくという素晴らしい決意は、猛スピードを上げて走るスワンボートの景色で頷けます。角刈りの美容師さん、素敵かもね。楽しいお話、構成力の素晴らしさ、とても良かったですありがとうございました。

13/11/04 鮎風 遊

うおりゃあぁ、その心意気が気に入りました。
きっとこの二人、父母の逆バージョンでうまくやって行けますよ。

亮平君、私も気に入りました。

13/11/05 そらの珊瑚

朔良さん ありがとうございます。

たぶんこの父の性格を少なからず主人公は受け継いじゃったのかもしれません。
井の頭公園の手漕ぎボートの噂は知ってたのですが、ネットで調べているうちにスワンボートのことを知って使ってみました。
意外と角刈りってのも新鮮でいいかもしれませんね〜
この二人の出会いとか、この先の展開もちらりと考えてひとりにやりとしてます。
楽しんでいただけて嬉しかったです。

13/11/05 そらの珊瑚

草藍さん ありがとうございます。

似たもの夫婦の対局にいるような両親ですが、それはそれでうまくいくのかもしれませんね。
たぶん愛されて育った子はこんなふうに天真爛漫という一直線に未来を信じることができるんじゃないかなと思います。
ほのぼのしていただいてよかったです♪

13/11/05 そらの珊瑚

鮎風さん ありがとうございます。

気に入っていただけて良かったです。
きっとお父さんも気に入ってくださいましたよね!

13/11/05 そらの珊瑚

OHIMEさん ありがとうございます。

清々しい女の子ってもうそれだけで素敵なんで、まるで自分がそういう女の子になってしまって書く体験は楽しいですし
(そういう意味では一人称で書いて正解だったかなと思いってます)
読んでくださった方に登場人物を愛してもらえるなんて、この上ない喜びでございます! 

13/11/06 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

こりゃあ、面白いわ♪
角刈りになってもお嫁に欲しい淳平君の熱意が
伝わってきましたよ。

このふたりは間違いなくハッピーエンドでしょう!

13/11/07 そらの珊瑚

凪沙薫さん ありがとうございます。

そうですね、父親のなんとか難癖つけて認めたくないって気持ち
わかるような気がします。(この父親の場合はそのハードルが高そうですが)

凪沙さんの余談は本題に勝るとも劣らす、いつも興味深く読ませていただいてます♪
私の中学も男子は全員坊主を義務付けられてたので、その逸話は私もほんとだと思います。
なんででしょうね、ボート。弁天様が祀られていて、嫉妬するとか。
追跡調査をしたわけでもないから、信ぴょう性は薄そうですが。

13/11/07 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

今、結構坊主がトレンドみたいで。
淳平くんの株も上がるかも?
お父さんもこれで文句なし!でしょう。

13/11/15 リードマン

拝読しました!
というか、このご両親、うちの親達にそっくりなんですが!!w
うふふ、笑顔の仮面で丁寧な言葉ですか〜、うふふふふふふふ・・・。。。

13/11/18 ドーナツ

拝読しました。

ヘアーディレクターって仕事がユニーク。都市伝説というと、どこかしらおどろおどろした雰囲気がありますが、このお話は、面白い。

思わず、応援しちゃましたよ。「うぉりゃあああ」の掛け声、最高!

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