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取り立て屋

13/11/03 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:1件 murakumo 閲覧数:1066

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とある灰の世界に黒い召し物を羽織った男がいた。その男は取り立て屋をやっていたのだが、最近はとある事情で仕事が多忙であり、とてもウンザリしていた。休む暇などなく、取り立てを行う。有に三日は休憩と就寝を取ることなく仕事に励んでいるのだ。しかし、彼は泣き言を吐くようなみっともない真似をすることはない。取り立てという仕事は彼にとって生き甲斐でもあり、仕事こそが彼の人生における唯一の興でもあったからだ。

「こいつで二千三百七十七とんで二千三百七十八個目。まったく、骨が折れるねぇ」

 彼は取り立てを行うと腰を上げ、次の仕事を探しに何処かへ赴こうとする。既にここら一帯は”取り立て尽くして”しまったからである。当てもなく白い世界を数百メートルほどさまようと次の標的が見つかった。まだ年端もいかぬ可愛いらしい娘だ。迷子なのであろうか?彼女も虚ろな表情で砂上をひたすら行ったり来たりしている。黒い男は意を決して彼女に話しかけようと試みた。

「やあ、お嬢ちゃん。こんな所で何をしているんだい?迷子にでもなったのかな」

 彼女もこちらに気がついたのか、男の問いかけに反応して振り向き、言葉を返す。

「うん、パパとママからはぐれちゃったの。さっきまでずっと一緒に居たはずなんだけど、突然目の前が明るくなったと思ったら、急に私一人だけになってたんだ。ねぇ、おじさんはみんなを知らない?」

 男は彼女のパパとママの名前を聞き出すと、最近取り立てた者達の名前を想起しては取捨し始めた。彼は今まで取り立てた者の名前は全て記憶している。彼の中に刻みつけられたものは忘れたくても忘却できないのだ。

 「んー・・・・・・、あ、見つけた。お嬢ちゃん、運が良かったな。俺が昨日取り立てた中にあんたのパパとママの名前があったぞ。連れてってやるからほら、手ぇだしな」

「ほんと?よかった・・・。おじさんは優しい人なんだね」

 彼女は微塵の躊躇いもなく、漆黒の男に手を差し出す。

「優しいなんてこたぁないさ、仕事は只の仕事さ、それ以上もそれ以下もないからね。・・・・・・おや、随分と寂しかったのか駆け足でいっちまった」

 二千三百七十八とんで二千三百七十九個目。この地区で一週間で取り立てた数にしては破格の量だ。この辺ではもう人はいないのかもしれない、彼は管轄外の地区に行けば仕事もさらに任されるだろうと思った。自分はこの地区担当ではあるが、このような異例であるし、人手が多ければ多いほど仕事の効率も上がる。獲物を盗られた同業者に怒鳴られるようなこともないだろう。

 「おや、あんたは八百三十七地区の・・・・・・、此処まで出張ってきたってことは、あっちでは既に”取り尽くした”ってことかい」

 しばらく歩いていると同業者とバッタリ鉢合わせた。この男も漆黒の外套を羽織っているが、黒の衣装は取り立て屋の作業着みたいなものなのか、二人は特に気にかけはしない。彼らは砂上に座り込み、情報交換を始めた。

「あぁ、よりどりみどりだよ。街は綺麗さっぱり消えちまうわ、景色も灰色一色で殺風景になるわ、砂だらけで靴の中がざらざらになってうんざりするわ、奴らはほんとどうしようもないね。ま、その御陰でうちらが商売繁盛してるんだがな」

「おお、まったくだ。しかし、ま、自業自得ではあってもさ、幾分かは同情しちまうね。ここの処の取り立ててきた連中なんか殆どが何が起こったか理解せずにさまよってやがった。何奴も此奴も最後に視た光景が眩い閃光なんだ。あれを落とした奴は地獄行きだね、あの世があるのか存じないが」

 世界全体がこの有様なのだから、事件を起こした張本人らも既に生きながらえてはいないだろう、奴らも灰の一部に還元されてしまったに違いない。男達は灰色の砂の上に腰を下ろすと他愛ない世間話を始めた。彼らは普段、取り立てた人間の最後の瞬間だったり、どのような凄惨な人生を送ったのかを肴にして盛り上がる。ところが、それをもれら二度と拝むことはないと確信しているのか、彼らは内心退屈そうに談笑している。

雪は情け容赦なく、男達に降り注ぐ。雪は何時になれば止むのだろうか。あるいは、永久に降り続けるのかもしれない。地球は人類の遺した罪科を贖罪するのに協力してくれるのだろうか?


もはや生き物など、この星で存在し得るものなど、無いのだから。


「なぁ・・・・・・、人間の魂を刈り尽くしちまったら、俺らはこれから何を取り立てたらいいんだろうな?」

「奴らはゴキブリ以上にしぶといからな、何処かに一人ぐらいは生き延びてるかもしれないぜ?」

「へっ、確かにな。死が在っての死神、俺ら在っての死だ」

 そろそろ日が沈み、世界は闇に包まれ始める。死神達は歩くのだ。哀れな亡者たちの魂を刈りとるために。これからも、いつまでも。


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このストーリーに関するコメント

13/11/15 リードマン

拝読しました。
お仕事お疲れ様です。仕事はまだまだありますよ〜、次の惑星が待っていますw

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