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かめかめさん

http://ameblo.jp/kamekame1976/ ブログデシセイカツバクロチウ

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座右の銘 ハワイに行きたいと思ったら、一歩踏み出さないといけない。 ハワイは向こうから近づいてこない。

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おお、麗しのサバラン

13/10/24 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:4件 かめかめ 閲覧数:1127

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「すみません、サバランはありませんか?」
洋菓子店の扉を開けると佐和子は真っ先にそう尋ねる。返ってくる答えは十中八九
「やってないですねえ」。

サバラン。
フランスの美食家の名前を冠するこのケーキの歴史は古い。
伝統的なフランス菓子であるがゆえ、日本にも早くに紹介された。
やや古臭い印象なせいか今ではなかなかお目にかかれない。

佐和子がこの菓子と出会ったのは10年前。
月に一度上京して、高校の同級生だった彼とデートしていた時だった。
恋人は佐和子を東京中のケーキ屋に連れて行ってくれた。
甘いケーキに溺れ幸せだった。夢中だった。周囲が見えなくなり、恋人の心変わりも見抜けなかった。
初恋は、サバランだった。
どこまでも甘ったるいのに、洋酒のほろ苦さが残る大人の味だった。

郷里でサバランを捜し求める。
佐和子は日常に疲れ果てていた。パンプスの踵をすり減らす毎日に泣きそうだった。
サバランさえあれば、変われる気がした。

「すみません、サバランはありませんか?」
その店は見るからに古かった。看板は「洋菓子フクシマ」。
こういう店なら置いているのではないだろうかと期待して扉をくぐった。
「サバラン?やってねえ。そんな古臭い菓子よく知ってんな」
面と向かって、古臭いと称されたのは初めてだ。面食らって思わず口走る。
「思い出のケーキなんです。恋人と食べた」
ああ、なんてバカなことを喋ったんだろう、きっとあきれられた。佐和子はすぐに回れ右して店から出ようとした。
「明後日、また来てくれ。準備しとく」
振り返ると店主は少年のような瞳でまっすぐ佐和子を見ていた。
店を出てから、どんなケーキが並んでいたか見もしなかったなと気付いた。

約束の日、フクシマを訪れると店は無人だった。
ショーウィンドーにサバランは見当たらない。
「すみません……」
声をかけると、奥の方から、はーいと女性の声がして、しばらく待つと高齢の婦人が出てきた。
「いらっしゃいませ。なにをさしあげましょう」
「あのすみません……サバランは……」
「ああ、サバランのお客さん!息子から聞いてますよ、どうぞ奥に。上がってください」
婦人はヒョイと暖簾を持ち上げ手招く。佐和子はおずおずついて行った。

暖簾の奥は畳敷きの部屋でテレビと卓袱台が置かれている。さらに奥は台所。
「どうぞ、すわって」
婦人が冷蔵庫から取り出したものを卓に並べる。
ああ。サバランだ。
目頭が熱くなる。
丸いケーキの真ん中にぽっこりと丸いくぼみ。そこにたっぷりの生クリーム、上に真っ赤なサクランボが乗っている。
生地はシロップでツヤツヤと光っている。
「どうぞ召し上がれ」
佐和子はフォークを手に取る。
ケーキの真ん中から右端へ切り込みを作る。フォークを抜いて今度は真ん中から下へ。ちょうど四分の一だけ、フォークで掬い上げる。
ずっしり重いのは、甘い甘いシロップをたっぷり吸い込んでいるから。
大きく開けた口にケーキを、そっと押し込んで噛みしめる。
甘い。甘い。甘い。ほのかなオレンジの香りと苦味。
そうだ、この味。まちがいない。

婦人が黙ってティッシュを渡してくれた。佐和子は鼻をかむ。
「……すみません。あんまり懐かしくって」
「あなたは謝ってばかりねえ」
ふいに婦人にそう言われ、佐和子は顔を上げる。婦人はニコニコと佐和子を見つめている。
「お口に合わなかったかしら?」
「いいえ!とても美味しいです!とても!」
「そう。だったら『すみません』じゃなくて『ごちそうさま』が聞きたいわ」
佐和子はパチクリすると、急いでケーキに戻る。
サクランボをつまみ、口の中で種と枝を取り除ける。
残りのケーキは六分の一ずつに切って大事に食べた。
婦人が麦茶を出してくれた。甘ったるいサバランに、妙に合う。
最後の一切れをゆっくり噛みしめ飲み込んでから、佐和子は頭を下げた。
「ご馳走様でした。とっても美味しかったです」
「はい、ありがとう」

そのとき、店の扉が開く音がして、イガグリ店主が顔を出した。
「お。いらっしゃい。サバラン、それでいいか?」
「あ、はい!すごく美味しかったです!」
店主はニッコリ笑う。途端に少年のような印象にかわる男だ。
「そうか。良かった。初めて作ったからさ、試作品だけど、満足してもらえたら良かったよ」
「試作品ってことは、これから商品になるんでしょうか?」
「うん、新商品で出そうと思ってる」
佐和子は思わず立ち上がると店主の手を取り、ぶんぶん振り回した。
「ありがとう!ありがとう!すごい、やった!絶対また買いに来ます!!毎日くるかも!」
イガグリ頭がみるみる真っ赤になっていく。佐和子はそんなことにも気がつかないくらい、夢中で手を振った。
ぶんぶん手を振りながら、何か新しい扉を開いたような、そんな気がしていた。


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このストーリーに関するコメント

13/10/27 リードマン

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、尚子さん?w

13/10/27 リードマン

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんさい!!! ホントすいませんでした!!! 申し訳在りませんでした!!! 調子に乗って思い上がって降りました!!! 殺される憎まれるのも怒られるのも、むしろ願ったりですが、どうか!!! 涙だけは見せないで下さい!!!

13/10/29 W・アーム・スープレックス

サバランの写真をみると、なるほど「ラム酒をしみこませた大人の味」と説明があり、まるいくぼみにたっぷりの生クリームがのっかっていますね。サバランを知らなかった者に、調べてみたいなと思わせる力をこの作品はもっていました。

13/11/09 かめかめ

>リードマンさん
コメントありがとうございます。
尚子さんのことは存じ上げませんが、笑顔でいてくださるとよいですね。

>W・アーム・スープレックス
コメントありがとうございます。
わざわざ調べていただけて、うれしいかぎりです。^^

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