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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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いつもの客

13/10/23 コンテスト(テーマ):第四十三回 時空モノガタリ文学賞【 スイーツ 】 コメント:7件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1789

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 蜜子が厨房に入っているとき、彼女に代わってウェイターをしている安野がオーダーを通してきた。
「フルーツパフェがワン」
「はい」
 蜜子はさっそくパフェグラスを用意して、バニラアイスやフルーツ類、ホイップなどを手際よくそこに盛りはじめた。いつもはウェイトレスを務めている彼女だったが、ときにこうして厨房係の安野と交代して注文をこなすことがあった。コーヒーをドリップでいれたり、軽食を作ったり、パフェを盛ったりするのは気分転換にはもってこいだった。
「おねがいします」
 完成したパフェを出すと安野がすぐそれをトレーにのせてもっていくのをカウンターから蜜子はみおくった。彼女にはそのオーダーがだれのところに運ばれるのかがわかっていた。
 入り口から二つ目の席にすわる、40前後のもっさりした服装の男性―――平日の午後三時にパフェを食べにくる客は、彼のほかにはなかった。六か月前に蜜子がこのカフェにバイトで入ったときにはすでに、彼は週に三日の割合で来店しては、パフェのみを食べていた。
 最初のころは中年男がテーブルに突っ伏すようにしながらパフェを頬張っている光景は、とても目に奇異に映ったものだが、いまではさすがにそれもみなれたものになっていた。蜜子も最近では、彼のパフェに限って特に見栄えよく作るようになっていて、チョコシロップを多めにかけたり、ワッフルやチェリーの角度にも注意をこらすようになっていた。「きみのパフェ、アートだね」いつだったか安野が嫌味でなくほめてくれた。
 もどってきたパフェグラスが、まるでなめたようにきれいになっているのをみたとき、蜜子はちょっぴり満足感をおぼえた。子供のころにでも、よほどパフェに感激したのが大人になったいまも忘れられないのだろうか。まあべつに、中年男性がフルーツパフェを好物だといって、だれに非難されるわけでもないのだから、いくらでもどうぞ………。あの客をみるときまって蜜子は、そんな気持ちにとらわれるのだった。
 二日後、めずらしく日曜に彼が来店したとき、蜜子はウェイトレスとして彼の席に注文をとりにいった。日曜だからもしかしたら、ほかのものをオーダーするのかと、ひそかに期待した彼女の耳に、はたしてきこえたのは、
「フルーツパフェね」
 蜜子が一礼してもどりかけると、ふいに彼はつけくわえた。
「あとで一人くるから」
 かつて彼に連れがあったことは皆無なだけに、蜜子はこのとき軽い驚きにうたれた。五分後に、その連れが入ってくるのをみた彼女は、それが若い女性だとわかって二度驚いた。
「いらっしゃいませ」
 蜜子が水をもっていくと、その女性は、「コーヒー」。
 彼の前にはすでにパフェが置かれていた。蜜子はなにか不吉なものを感じながら、安野のまつ厨房にもどっていった。
 女はコーヒーをブラックでのんだ。彼のほうは、盛られたパフェをどこかたのしげにスプーンですくっている。たいして会話もはずまないまま一時間が過ぎた。
「デートの初日って感じだな」
 二人が帰ってから、厨房から安野がいった。蜜子は、なにもいわずにうなずいた。
 三日後、ひとりで来店した彼は、もくもくとパフェを食べて帰っていった。
 彼が再び、今度は別の女性とやってきたのは、やはり日曜日の午後のことだった。
「フルーツパフェね」
 彼がいうと、女が露骨に眉をひそめるのを蜜子はみた。女はコーヒーを頼み、これをみよとばかり砂糖もミルクもいれなかった。
 それからも彼は、三度ばかり、ことなる女性と店にやってきた。そのたびに彼はパフェを注文し、女たちはまるでもうしあわせたようにブラックコーヒーを頼んだ。そのうちの一人の女性も二度と彼といっしょに店に訪れることはなかった。
 
 
 * * * *
 今月も本日で終りというとき、バイトの契約が終了した蜜子は、きょうは私服で厨房の安野のところに挨拶にやってきた。
「元気でね」
 ちょうどそのとき彼は、パフェを作っていた。蜜子もすでに、あの客がいるのに気がついていた。新しいウエイトレスが他の客のテーブルにいっていたので、蜜子はできあがったパフェを自分でトレーにのせると、ふと彼に、
「私にも、パフェお願い」
 安野はだまって、あらたなパフェの準備をはじめた。
「おまたせしました」
 客にパフェを出した蜜子は、
「ごいっしょさせてもらっていいでしょうか」
 ほかに席は空いていた。しかし彼はパフェから視線をはずすことなく、
「どうぞ」
 彼が長いスプーンでパフェをすくうのをながめていた蜜子に、まもなくパフェが運ばれてきた。
「いただきます」
 彼女はパフェを食べはじめた。唇にまっしろなホイップがくっつくのにも気がつかない様子で、いつもの彼のようにもくもくとそれからも食べつづけた。


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このストーリーに関するコメント

13/10/23 リードマン

うーん、私には解読出来ません・・・w どのような意味があるのでししょうか? 私は甘い物も大好物ですし、ブラックコーヒーも大好きです

13/10/23 W・アーム・スープレックス

リードマンさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

私の作品はだいたい、うーん、わかりませんといわれるのが多いと思います。解説はどうかご勘弁のほどを。あえて一人の読者としていうなら、彼の前でパフェをたべる女はこの世にひとりぐらいるのよ、と蜜子はいいたかったのかもしれません。

13/10/23 リードマン

おお! そういう事だったのですね、ありがとうございます。私は連れと食事に行く際、メニューを二つまでしか絞り込みません、なぜか? 二人で分け合って二つとも食べてしまうからですよ!w

13/10/24 かめかめ

初デートで、二人並んでパフェを食べた男性に振られたことを思い出しましたToT

13/10/24 W・アーム・スープレックス

あまい思い出ではなかったわけですね。そのとき辛党のかめかめさんもパフェを食べたのですか? 

13/10/24 W・アーム・スープレックス

OHIMEさん、コメントありがとうございます。

蜜子と男がパフェを食べるシーンが好きですといっていただけて、この作品を書いたかいがありました。これ以上なにか書いてポロが出てはまずいので、ただぶっきらぼうに退場します。
OHIMEさんのセンスにも、拍手!

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