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高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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届かなかった想い

13/10/21 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:5件 高橋螢参郎 閲覧数:1261

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――まるで夢を見ているようだ。あの日の光景がまた、寸分違わず再現されている。
駐車場になってしまった近所の空き地、学校帰りによく寄っていた駄菓子屋、そして、吹き抜ける春一番にすっかり桜を塗された校庭。過ぎ去っていった何もかもが、もう一度目の前に用意されていた。制服の感触なんて久しく忘れていた僕は窮屈な詰襟を開け、息を大きく吐いた。
もちろん時間を遡れる訳がない。現実の僕は大仰なヘッドギアを被らされ、検査衣のまま実験室のゆったりとした椅子で眠りこけている筈だ。つまるところ、これは夢だった。
しかしだからと言って意味のない白昼夢や過去の残像、ただの都合のいい妄想ではない。僕が試しているのは、謂わば並行世界を覗き見る為の装置だ。然るべき根拠を気の遠くなるほど積み重ねていく事で、起こり得た可能性を探る事ができるという。密かに募集されていた被験者に、僕は話を聞くなり迷わず立候補した。全くの新技術だ。決して安全とは言えなかったが、二度も与えられた機を逃すほど僕も愚かではない。
僕は卒業式の後、今度こそ彼女を校庭の裏に呼び出した。
しばらく待っていると、こそこそと周りの目を気にしながら彼女はこちらへと駆け寄ってきた。僕はいよいよ胸を高鳴らせた。大きな瞳。ぴょこぴょこ揺れるポニーテールの黒髪。はにかんだ時すぐ赤くなる頬。最後までやや大きめだったおさがりの制服。当然ながら、あの時と何もかも変わっていなかった。
「……話って、何かな?」
「ああ、うん……」
僕は言葉を詰まらせて、彼女の様子を窺った。彼女も明らかに期待していた。悪友のような間柄だった僕らは、お互いの気持ちを確かめ合う事もついになかった。だが僕は間違いなく彼女の事が好きだったし、彼女も満更ではなかった筈だ。周りからはしょっちゅう冷やかされ、それを愚かな僕は「中学生にはまだ早い」なんて、逆に大人ぶってみせたりしてしまった。
たまらなく魅力的な彼女を目前にして、改めて思う。僕よ、お前は何たる間抜けだ。
今となっては、消息も掴めない……いや、会ってどうなるというのだ。きっとどこかの僕ではない誰かと恋をし、結婚して、下手をすれば子どもまでいるのだろう。僕の生きてきた世界の事を考えると、胸がどうしようもなく締め付けられた。
もし、あの時。そんな後悔の念だけがいつまでも付いて回った。
「どしたの? 具合でも悪い?」
「……いや、何でもない」
この日の為に、わざわざ僕は戻る日付を6ヶ月前に設定した。そしてあの頃持ち得なかった大人の老獪さで、中学生のままである彼女の心を巧妙に引き寄せていった。いちいちそんな事をしなくても勝算は十分にあったが、途上、初心な彼女の反応が面白くてつい何度もからかってしまった。
何故、あの頃に気付けなかったのだろう。何でもない日々の愛しさに。
「どうしてもさ、ずっと言いたかった事があって」
「……」
遂に、本来あり得る筈もない二度目の人生にして、遂に言うのだ。この時ばかりは僕もすっかりあの頃に引き戻されて、地に立つ感覚を失っていた。
「……好きです。僕と、付き合ってください」
彼女は顔をいつも以上に赤らめ、ただこくりと頷いた。
わかっていたつもりだったけれど、やはりそんな事を思う余裕はなくて。僕はその瞬間完璧に中学生へと戻ると「やった!」と大声を上げてしまった。慌てて二人で周りの様子を窺った後、顔を見合わせて笑った。お互いの眦には涙が光っていた。
そうだ。決して自惚れや、一方的な思い込みではなかったのだ。
何故最初からこうしていなかったのかと。忍び寄る現実の影にどこまで行っても悔恨の情が尽きる事はなかったが、僕はすぐに考えを改めた。
――このままでいい。こちらを本当の世界にしてしまおう。
この装置の最大の危険性は、仮想世界に没入してしまうがあまり精神が現実世界へ戻って来れなくなる可能性がある点だと、事前の説明で聞かされていた。だが僕はその事に対して別に何も思わなかった。
それでもいいさ。現実ではもう、この恋に行き先はないのだから――



僕は目覚めると、無数のコードが繋がれたヘッドギアを外し、そのまま乱暴に投げ捨てた。慌てる学生を尻目に、僕は言い放った。
「嘘だろう?」
モニターで夢の一部始終を見ていたであろう、いかにもモテそうな茶髪の学生が頭を振った。
「や、中高生の恋愛なんてそんなもんっスよ」
くそ、他人事だからってわかったような口を利きやがって……。
危険だから目覚めさせられた訳ではなかった。僕はいざ付き合ってみた彼女のあまりのわがままさにうんざりして、自分から夢を見る事をやめたのだ。
「……この機械の信憑性は」
教授が眼鏡を光らせ、自信満々に言う。
「残念ながら、確かです」
「くそっ! 見なきゃ良かった!」
僕はこうして大切なものをひとつ、心の中から確かに失った。


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このストーリーに関するコメント

13/10/22 リードマン

危ない危ない、うっかり見落とす所でしたw

貴方の物語は本当に面白いですねぇw 腹の底から笑ってしまいますよ

13/10/23 リードマン

夢と現実の境界は、はたして一体ドコにあるのでしょうね? 明日月にでも訪ねてみます。w ・・・最近はなんだか、連れない態度をとられる事もあるのですが・・・

13/10/23 高橋螢参郎

コメントありがとうございます。
SFっつーか、こういうマトリックス的な設定が好きなんですけど、以前pixivで全く似たような構成(夢→現実)の小説をそう言えば書いたっけな、と思い出し
自分の引き出しの狭さを改めて痛感しております。ぐへぇ

....そっちはここまでヒドいオチでもなかったですが。
テーマが恋愛と聞いてどうしても茶化さずにはいられませんでした。
成就してしまった恋愛なんて、もうドライな契約関係でしかないと思うんです。

13/10/23 リードマン

(爆) 腐ってますねぇ貴方はw 大変失礼致しました。

13/10/27 リードマン

貴方にこそ、千春の名が相応しいかと考えます。・・・忘れて下さいw

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