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リードマンさん

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将来の夢
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彼女と彼と彼の妻4

13/10/21 コンテスト(テーマ):第十九回【 自由投稿スペース 】 コメント:1件 リードマン 閲覧数:1107

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「・・・お前、今なんかバカな事考えてるだろ?」
 少年が去り、再び道場に二人きりだ。
「え? だって、さっきアイツ、アタシの事」
 確かに言ったよね? と迫る大地。
「怪物テュポーンは、ガイアとタルタロスの息子だからな。まぁでも安心しろ。少なくとも、お前は純潔だ」
「悪かったな! 純情で!」
「いや、言ってないし」
 頬を掻く光。
 そこで思い出したのか、心配そうに、俯く大地。
「・・・平気なの? 雷じいは?」
「日本神話でもギリシア神話でも、北欧神話でもだ、真っ向勝負じゃあ、勝った事はないんだよな・・・いいとこ相打ちだし」
「何言ってるんだかまるで分かんないんだけど、それってマズイんじゃ?」
「二人就けるって言ったろ? リリスとイヴがいれば、大丈夫だって」
 それが一番心配なんだが、あの騒がしい姉妹に、あの異質過ぎた少年を、打倒しうるのか?
「あの二人って、そんなに強いの?」
「強い強い。名高い怪物の大ポカだぜ? 目が眩んでたのか、余程自信があったのか。俺以外には負けないとでも思ったのかね?」   
 光は、安心してくれて良いという。
 雷蔵の事だけに、大地は随分と弱気にならざるをえない。
「・・・でも、なんかアイツ、大切な人が殺されたって。そういう相手って、凄く強いんじゃないの?」
「・・・は?」
 何言ってんの? と言わんばかりの光。
「いやだから、エキドナとかいう」
「死んでないけど?」
「・・・え?」
 今度は大地の番だ。
「だから、ピンピンしてるって。“神々の黄昏”はとっくの昔に終わってて、もう再生も済んでるんだからさ。毎日、イチャついてんじゃねぇの?」
「・・・」
 何それ? と言わんばかりの大地。
「バカげてるんだよ、ホント。だからさ、怪物夫婦の事は頼りになる連中に任せてさ。今は、こっちの事だ」
 そういって大地を見つめる彼の瞳は、やけに真剣だ。
「・・・何よ?」
 僅かに、後ずさる大地。
「いや、なんか流れちゃってるみたいだけどさ。もういいのか? 泣かなくて?」
「・・・」
 急に俯く大地、心なしか、震えているようにも見える。
「あ、そうそう。ホンモノは、さっきのなんか比べ物にならない程に強いんだから、手ぇ出しちゃダメだからな?」
「・・・」
 大地はゆっくりと顔を上げ、光を見つめた。
「ん?」
 きょとんとしている彼に、毒気を抜かれてしまう。
 なんとなく、溜め息一つ。
「・・・なんか、色々言いたかったんだけど、やっぱりいいや。帰ろう、光」
「・・・いつのまに呼び捨てに?」

 その気安さが嬉しかったのは、彼だけの秘密だ。
 照れ臭いから。   いつかの約束


「理想ってやつはさ、あんまりにも綺麗だから、一度夢見てしまうと、どうしたって忘れられないんだ。少なくとも、俺にはね」
「・・・そんなもんかね?」

 “非人”選抜の為の最終試験、史上最も過酷と言われたサバイバルを無傷で突破した二人は、とある山奥の中で、焚き火を囲んでいた。 
 後は、夜明けを待つばかりだ。
 二名一組、全50チームで行われたちょっとした戦争のような殺し合いは、上の予想を大きく裏切り、開始僅か一週間で、この二人の勝利で終わった。

 闇影を名乗る、経歴一切不明の謎の男、光。 

 無名の出ながら、神がかった強さと強靭な精神力で、既に頭角を現し始めていた後の英雄、篝火 刃(かがりび やいば)。

 しかも、ぐうたらな光のおかげで、二人が行動を起こしたのは四日目からだ。
 実質三日で、他のチームを壊滅させた事になる。

「別に正義を語る訳じゃない。俺は修羅になろうとしてる。沢山の罪の無い人達を殺そうとしてる」

 ただ一人で、62名もの“非人”候補生を打ち倒した、行き過ぎたその強さ、その裏にはいつだって、

「それでも、いつか俺達みたいなのがいらなくなる世界がやってくる。そう信じたい」
「・・・」

 血生臭い出来事の後だからなのか、それとも、これも夜闇を照らす炎の力か、どうにも、感傷的になってしまう。

「俺は理想を捨てられない。だから、おそらく長くない。・・・光、その時は」
「・・・はぁ」

 五年もの歳月を、ともにしてきた。
 初めて出逢った時、取っ組み合いの喧嘩になった。
 その時から、目の前の少年は変わらない。   
 変わらなかった、結局。

「・・・我慢が無くて、不器用で、これじゃ、先は視えてるな。まぁ、でも解った。その時は・・・」
「・・・」
「俺がちゃんと、裁いてやるよ」
「・・・頼んだ」
 
 報せを聞いたのは、この三年後。
 長かったのか、短かったのか。
 どちらにせよ、やるべき事は、ただ一つ。 
    
   決戦前夜


「オロチの奴め! ワシのミョルニルが喰らいたりんようじゃな!」
「・・・雷じい、明日は手出し厳禁だ。殺されるぞ?」
 夕飯時、猛る雷蔵を、光が嗜める。
 全員揃った所で、明日の事を切り出した、途端にこれだ。
 頭が痛い。
「何を言うか! ワシ、をっ!!」
 大地の鉄拳が直撃、雷蔵を黙らせる。
「ダメったらダメ! もし言い付けを破ったりしたら・・・」
「むむむ」
 自らの身を心配すればこその、大地の言葉に、流石の雷蔵も言葉を詰らせる。
 光は、付き人二人に振り返る。
「リリス、イヴ、いけるか?」
「当然」
「はい、ですが・・・」
 即答するリリス、
 が、イヴには、何か思う所があるらしい。
「あの怪物には、私の剣も通じません。使い魔達を一掃するのが限界でしょう。となると」
 一度、言葉を切って、姉を見る。
「姉さん次第と言う事になります。それがもう心配で心配で」
「・・・何が言いたい訳?」
 大変珍しく、リリスが問い正している。普段ならば、先に手が出る所だ。
「ハッキリ言ってしまえば、激甘な姉さんが手心を加えるんじゃないかという事です」
 今度こそ手が飛んだ。
 ヒラリと避わすイヴ。
「・・・ふんっ! 大丈夫よ。一撃で決めてやるわ」
「姉さんの大丈夫に、命なんて預けられるものですか」
 激しい闘いが始まった。
 一応は食事時な訳だが、二人とも、ちゃっかりと食事を終えている。
 朝の反省点を踏まえているらしい。
 いや単に、食器を片付けるのが面倒なだけかもしれないが。
「・・・アンタはどうするの?」
 せっせと食器を片付けながら、光に尋ねる大地。
「予定よりもずっと早いんだけど、“狂人”を直接倒しに行く。居場所は解ってたんだ、最初から」
 驚いたのは、雷蔵と大地だけだ。
 姉妹は気にせずじゃれあっている。
「・・・決めたのか?」
 問いかける雷蔵は、薄々は勘付いていたのだろう。
「立て込んできちゃったしな。引き延ばすのももう限界だ。“守人”のウルサイ奴が出てくる前に、カタを付ける」
「・・・そうか」
 重々しく頷く雷蔵。
「・・・アタシは?」
 皆、明日は戦いに赴くという。
 自分に出来る事は、なんなのか。
「明日は学校サボって、俺と山登りだ。少し危険だけどな。一人でいるよりは、ずっと安全だから」
「・・・え?」
 てっきり、自分だけ置いてけぼりなのかと思った大地は、意表を突かれる。
「・・・良いの?」
 何を聞くまでも無い事をとでも、言わんばかりのバカ。
「良いも何も、俺の傍ほど、安全な場所なんて他に無いぜ? 護ってやるから、ついて来いよ、大地」
 本当にこの男は、一体何様のつもりなのか。
「・・・光」
 突如、発生する不穏な空気。
「・・・ふぅん、仲、いいのね? アダム?」
「本当に。もう、名で呼び合う仲ですか?」
 凍りつく光。
「アンタっていっつもそうよね?」
「相変わらず、手が早いですね?」    
 先程まで犬と猿だった二人は、共通の的を捉えたらしい。
「話も決まったようじゃし、ワシは先に寝るぞ?」
 さっさと退室していく雷蔵。年の功。
「らっ! 雷じい!?」
 光の制止も届かない。
「大地、光、ですって?」
「お仕置きが必要です」
 大地は、指一本動かせない。
 なるほど、確かにこの二人、とてつもなく強いらしい。
 今は、その矛先が自らに向いていない事だけが、唯一の救い。
 二人の鬼神は、不義無罪だ!を正さんと、目の前の男のみを狙っていた。
「・・・スマン、誓いは守れそうもない。強く生きろ、大地」
 なんとも情けない光の言葉。
 裁決は、下った。   
 

「・・・ねぇ?」
「ん? どした?」
 それぞれの部屋へとむかう途中、何やら思い詰めた様子で、大地が光を呼び止めた。
 暴れてスッキリしたのか、リリスとイヴは、先に熟睡している。
「・・・全部終わったら、やっぱり、いなくなっちゃうんだよね?」
 大地が一番、自分に驚いている。
 何を言っているのか、自分は!
「まぁ、これでも結構忙しいからなぁ・・・」
 目の前のバカは、予想外だったのか、どうやら動揺しているらしい。
 予想外は、こちらの方だ!
「・・・そっか」
「ああ、えっと、なんだ、その・・・だな」
 言葉が見付からないらしい。
 二人して、固まる。
 元々、人付き合いになんて慣れてない。
 十七年も生きてきて、祖父以外の優しさなんて、感じた事もなかった。
 全く唐突に現れて、自分の日常をメチャクチャにしてくれたコイツ。
 そんなコイツが壊した物の中には、きっと、自分を苛んでいた、言い知れぬ孤独も、あったのかもしれない。
 祖父を軽んじている訳じゃない。
 けど、目の前のコイツがいなくなってしまうのは、なんというか、凄くイヤだ。
 明日、コイツは多分、自分を守り抜いてくれるだろう。
 そうして、やってきた時と同じように、また唐突にいなくなるのだ。
 それならそれで、大いに結構じゃないか。
 元々、連中は厄介者。
 それも、国一番の凶悪犯達だ。
 むこうからいなくなってくれるというのなら、むしろ好都合の筈だ。
 それでまた、平穏な日々がやってくる。
 だっていうのに、このキモチは、一体なんなのだろう?

 自分で自分が解らない。

 昨日会ったばかりのこの男に、なんで自分は、こんなにも執着してしまっている?
 
 イヤだ。
 
 自分は、こんなにも弱かっただろうか?  
 
 イヤだ。
 
 そんな事は無い筈だ。
 
 イヤだ。
 
 他人に避けられ続けようとも、強く生きて来られた筈、だったのに!

「・・・イヤだ!」
 言ってしまった。
 なんて、不様。
 大体コイツには、あの二人がいるじゃないか。
 こんなキモチは、元から間違っていたんだ。
「・・・明日も早いからな。早く寝ろよ?」
 彼女のワガママには答えずに、彼は部屋へと入っていった。
 
 廊下には、嗚咽を漏らす、大地だけが残された。  
     
   天使登場


 列車を乗り継ぐ事幾度か、S県の西、とある山の麓へと辿り着いた。
 無人の広場を歩く。
「・・・」
「・・・」
 いつもの格好の光と、白シャツ青ジーンズの大地。
 二人、ともに無言。
 今朝からずっと続いている、なんとも重苦しい空気。
 ヒリヒリと痛む、大地の背中。先だって家を出る時、あの騒がしい二人組みに、なぜだか思いきり背を叩かれたのだ。意味は、不明。未だにその背中が痛むのも、不明。
 ホント、何を考えているのやら。
「・・・ここなの?」
 自然、窺うような態度になってしまう大地。
「ん? ああ、この山奥にいる」
 答える光。
 そしてまた、沈黙。
 昨夜もそうだったが、静かな光なんてものはとてつもなく貴重だ。いつだって、無闇に騒がしいバカが、ここにきて無言。そう、まるで、仮面を脱いだ道化のように。こんな時になって気がついた。押し黙った彼は、凄く、寂しそうな表情をしているという事に。続かない言葉のせいか? 違う。多分彼は、元々、そんなに明るい方じゃないのだろう。自分と同じだ。暖かな周囲があるからこそ、そしてその周囲の大切さを知っているからこそ、子供のようにはしゃいでいた。嬉しくて、楽しくて、とにかく幸せで仕方がないって、笑っていたのだ。
 どうして自分が彼に惹かれるのか、今なら解る気がする。きっと自分は、彼となら、ずっと本当の意味で笑っていられると思ったから、だから! この沈黙は、辛い。それも全ては、自分のせいか。思い出されるのは、やはり昨日の事。暖かった屋上と、廊下の冷たさ。
 背中が、痛む。
 その真意を、図らずも自分は悟ってしまっている。
 あの二人は、そして、自分は、
 

「待っていたぞ、“独裁者”」
 広場と山との境界、山道の入り口に、その男は立っていた。
「・・・え?」
 大地は、一瞬自らの目を疑った。
 白銀の徽章で飾られた純白の軍服。
 その腰に、抜身の黄金の剣を懸けた青年は、肌の色こそ白いが、
「俺は遭いたくなかったね。“守人”リーダー、天司 悠輝あまつかさ ゆうき、いや、大天使ミカエル殿なんかには」 
 対峙する両者は、瓜二つだった。
 二人の正体を鑑みれば、それも当然。
 
 大天使ミカエル。
 無数の天使達、その頂点に立つ者。
 恒に光の軍勢の先頭に立ち、魔を打ち滅ぼし続ける、最強の神の御使い。
 どんな聖典においても、彼以上の天使など存在しない。
 強大な力を持つ魔王すらも、彼を前にすれば、古傷が疼き、恐怖に囚われるという。
 
「何、一度討つと言った手前、手ぶらで帰る訳にもいかんのでな。今日は、見届けに来た」
「・・・戦うつもりはないって?」
「当然だ」
 “非人”と“守人”、相反する立場とは裏腹に、どうもこの二人、仲が良いらしい。
 話が分からず、ポカンとしている大地を、悠輝が見つめる。
「ところで、もしやとは思うが、彼女が?」 
 肩を竦めながら、肯定する光。
「とは言っても、今じゃすっかり恋する乙女だけどな。困ってるんだ、俺も」
 どの口がそんなフザケた事をほざいたのか!
「なっ! 何言ってんのよっ! アタシはね! ・・・兄妹、そう! 折角出来た兄妹みたいな連中がいなくなっちゃうと、ちょっとだけ寂しいかなぁって、そう言ってるだけなのよっ!」
 嘘だ。
 背中がズキズキ痛む。
 あのやかましい二人はともかく、このバカを兄のようだと思った事など一度もない。だって、
「・・・元気、出てきたな」
 こうして、優しく笑い掛けてくるようなバカだからだ。
「・・・」
 言葉を失ってしまう。なんだか、ムカつく。
「・・・ひょっとして、俺は邪魔か?」
 どうも、笑いを堪えているらしい悠輝。
 これだから! 天使とかいう連中は! 全く、余計な気遣いをしてくれる!
「・・・ふんっ! いいわよ! アンタ達なんて、もう知るもんか!」
 言って、ドカドカと進もうとする大地。
「ハイ、ストップ」
 その動きが、止められる。確認しなくたって解る、彼だ。
「・・・どういうつもり? まさか、ここまで来て!?」
 悠輝は、黙って様子を見守っている。
「大正解。悠輝が来た以上、俺が護衛する必要はない」
「っ!?」
 そんな、コイツ!
 動けぬ彼女の横を平然と通り過ぎ、振り返った彼の顔は、穏やかだ。
「すげぇ頼りになるからさ、ソイツ。お前はここまでだ、大地」
「・・・」
 出せる筈の言葉が出ない。変わりに零れたモノは、何だろう。
 黙って頬を濡らす大地。
 背を向ける光。
 それは、簡単すぎる意思表示。
「安心しろ、俺は絶対に死なないよ。誓いも守るさ。・・・大地を、頼んだ、悠輝」
「了解」

「・・・」

 彼が消えていった山道を、見つめる二人。
 彼女の心は、決まった。
 もう、背中も痛まない。
 あの時、二人は、  

『遠慮するな!』

 と、そう言ったのだ。
 お言葉に、甘えさせて戴こうじゃないか。
 アイツは多分、このまま姿を消すつもりだ。
 家に帰れば、また二人だけの生活が戻ってくるのだろう。 

・・・ふざけるな

 そんな勝手は赦さない。
 あのバカの首を締め上げて、ずっと云いたかった事を大声でぶつけてやる。
 悠輝に任せた事で気を抜いたのか、彼の戒めも、今はない。
 歩き始める大地。
 立ち塞がる、悠輝。
「・・・どきなさいよ」
「どけないな」
 ならば、戦うか。
 変貌する大地。
 瞳は金色に、
 肌は褐色に、
 髪は紅色に、
 そして、心は、ただ真っ直ぐに。
 完全にガイア化した大地を前にしても、悠輝は全く怯まない。
「見届けに来たって、言ってたじゃない? こんな所にいていいの?」
「それは確かにそうなんだが、立場上、アイツの言葉には逆らえない」
 お互いに、一歩も譲らない。
「“守人”が、“非人”の言いなりになる訳?」
「理由はもっと深い所にある。それに元々、“守人”は“非人”の暴走を防ぐ為に組織したものだ。完全討伐など、一部の輩の、勝手な言い分に過ぎん」
 僅かに身を屈め、構えを取る悠輝。
 大地もそれに倣う。
「この先は危険だ。俺としても、君に死なれては困る。・・・言った所で、聞きそうも無さそうだがな?」    
 不敵に笑う悠輝。先程まで、漏れ出していた力だけでも、足を竦ませるには十分だった。それが今、ゆっくりと、解き放たれようとしている。
 底知れぬ力を肌で感じながら、それでも、大地は、
「当然」
 ゼロ距離、懐に飛び込んだ。
 この男に、手加減は不要だ。
 自分に武器は無い。
 相手がその剣を抜く前に、一撃で!
「っ!!」
「ぐっ!」
 上半身を吹き飛ばすつもりで放った一撃は、しかし、相手を殴り飛ばすだけに終わる。
 とてつもない加護がかかっている。
 衝撃は伝わったようだが、外傷の一つも見当たらない。
 すぐさま体勢を立て直す悠輝。
 マズイ!
 間合いが空いてしまった。
 拳をぶつけるには遠く、剣を振るには絶好の間合いだ! が、
「大したバカ力だ。だが!」
 彼は剣を抜かず、格闘戦を挑んできた。
 侮っている?
 しかし、それならばチャンスが、
「・・・あっ、ぐっ・・・」
 一瞬で、彼女は地面に突っ伏していた。
 全身に鈍痛。
 その癖、まだ自分は無傷だ。
 ようするに、完全に、制圧された。
 侮っていたのは、
「まだまだ、未熟」
 何が起きたのかは解る。
 ボコボコにされただけだ。
 全て、彼女には視えていた。
 だというのに、このザマだ。
「経験が足りなさ過ぎる。だから、簡単な技に騙されるんだ」
「・・・くっ!」
 確かに、底知れぬ強さは感じていた。
 だが、なぜだろう、勝てる気がしたのだ。
 そう、あの剣さえ封じられれば勝てるという確信が、今でもある。
 だというのに、
「ああああああああ!!」
 再び、飛び掛る大地。
 悠輝は、
「・・・仕方がない」
 その剣を、振り下ろした。
「!?」
 おかしい。
 その黄金の剣は、確かに先程まで、その腰に懸かっていた筈。
 それが、いつのまにか抜かれ、振り下ろされている? 
 
 知識不足も、致命的な弱点だ。
 大天使ミカエルを知るものならば、こんな迂闊はすまい。
 彼の腰に懸かっていたのは、彼のシンボルでもある“鞘から抜かれた剣”。
 そう、その剣は、既に抜かれていた!
 
 咄嗟に腕を交差させ、身を庇う大地。
 全身の力を一瞬で腕へと集中。
 金剛にも迫る程の強度を持たせた。が、
 
 これも迂闊だ。
 ミカエルの黄金の剣は、あらゆるものを一刀両断にする、防ぐこと適わぬ神の剣。
 
 図らずも、かつてのサタンと同じ過ちを犯した彼女は、両腕を切断され、その身にも、深い裂傷を負った。
「・・・あ」
 斬り伏せられた彼女は、今度こそ動けない。
 余りの激痛に、声も出ない。
 たったの一太刀で、勝敗は決したのだ。
「・・・」
 見下ろす悠輝は、辛そうな表情をしている。
 彼とて、本意では無かったのだろう。
 けれど、大地は止まらなかった。
 叩きのめし、実力の差を見せ付けたにも拘らずだ。
 
 そして、そんな彼女だから、止まらない。
・・・まだ、まだ生きてる
 両腕を失い、胴体には殆ど致命傷と言ってもいい、大裂傷を負ってはいる。
 けれど、まだ自分は生きている。
 激痛で、思考が纏らない。
 纏らないから、最初の感情だけで、動いた。
 
 途端、世界は、色を失った。

「・・・なっ!?」
 背後に殺気。
 足元にいた筈の少女がいない。
まだ、間に合う!
 振り向きながら、振るった剣は、空を斬る。 
 右肩が、削られた。
 今まで傷一つ負わなかった自分が、避ける事も出来なかった。
速いっ! 
 続けざま、両腕を、まんべんなく削られた。
 堪らず、剣を取り落してしまう。
「・・・ぐっ!」
・・・なんて、奴だ
 胸に、足跡が残りそうな程の強烈な蹴り。
「・・・がっ!」
 吹き飛ばされ、両腕を潰された彼は、受身も取れずに転がった。
 朦朧とする視界の中、彼は捉えた。
 その金色の瞳で真っ直ぐに自分を捉え、悠然と佇む女神を。
 自分が斬り落としてやった筈の両腕は当然のように健在。
 その身にあった筈の裂傷も何処へやらだ。
 
 瞬間再生に近い、恐るべき回復能力。
 大天使の加護すら打ち抜く、強大な力。
 そして何より、圧倒的な、その速さ。
 これが、大地母神ガイア。    
 この世の原始のカタチにして、全てのカタチ有るモノの王。
 こと身体能力において、彼女を上回るモノなど在り得ない。
 
 ここに今度こそ、勝敗は決した。


「・・・なんで付いて来る訳?」
「何、ただの恩返しだ。そう警戒するな」
 大地に付き従うナイトは、悠輝だ。大地の手荒い看護のおかげで、傷も完全に癒えている。
 いや、さすがは大地母神。その治癒能力も、凄まじいものだった。
 どうにも解らないと言った様子でグングンと進む荒っぽい女神と、
 笑みを浮かべながらその横にならぶ、大天使。
 出会って間もない二人だというのに、もう立ち位置は決まっているらしい。
「・・・なんか、その顔で笑われるとムカつくんだけど?」
 光と悠輝は本当にソックリだ。
 だから、彼が笑っていると、その、胸がザワつく。
「この顔は生まれつきだ。それより」
「?」
 足を止めずに、振り向く大地。相変わらず真っ直ぐな、その金色の瞳に見つめられ、言葉を失いそうになる。無論、敗れたとはいえ大天使ミカエル、動揺を面に出すような彼ではない。
「きっ、君程の女性が、なぜあのような男を追いかける? 君ならば、他にいくらだって相手がいそうなものだが」
 訂正、かなり動揺していた。ここまで強く、鮮やかな女性、そうはいないだろうにと、悠輝は思う。どうも、大地に貫かれたのは、その身だけではないらしい。   
 その辺り、当然の如く鈍感な彼女は、どうやら気付いてはいないようだが。
「お生憎様、この十七年、アタシがモテたのはヴァレンタインだけよ」
 彼女の、瞳の強さ。それは、寧ろ欠かす事の出来ない美点だとすら思っている悠輝には、永遠に分かるまい。大地が辿ってきた、その苦難の歴史など。
「そうか。皆、見る目がないのだな?」
「なっ!? 何をっ!?」
 迂闊だった。
 言った言葉もそうだが、それだけではない。
 慣れない自身の称賛に、顔を真っ赤にする大地の、その背後。
 ソレはいた。
 醜い形相の中に混じっているのは、歓喜か? 
 敵地において油断するなど、初めての経験だったのだが、それ程に、彼女は魅力的なのだと思う。だから、
間に合え!
 肉を貫く、鈍い音。
「・・・え?」
 ソレを倒すだけならば、構わず剣を振るえば良かった。
 けれど、それでは同時に、彼女を殺してしまっていただろう。
 だから、彼女を突き飛ばした。
 迷いなんて無かった。
 窮地を逃れた大地が見たのは、
崩れ落ちる悠輝と、
その返り血を浴びて歓喜する、ただただ不快なケダモノ、
そして、

「ミカエル!!」

 後から駆けつけてきた光の、何かを悔やむような顔だった。

 自らの血溜りに沈んだ天使は、もう動かぬ表情で、満足そうに笑っていた。 

    


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このストーリーに関するコメント

13/10/27 リードマン

端的に説明してしまえばですが、この物語は、世界中のあらゆる空想を一つに纏めた物です。・・・もちろん、私なりの解釈ではありますがねw

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