1. トップページ
  2. いそしぎ

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

6

いそしぎ

13/10/15 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:14件 そらの珊瑚 閲覧数:1331

この作品を評価する

 あの夏、私は恋をしていた。
 
 それは最初から終わりを予感していた恋。
 今でもさざ波のように繰り返して見るのは、こんな夢。
 
 ◇

 泳ぐのにはまだ早い。私は履いていたエスパドリーユを脱いで右手からぶら下げ、左手であなたの手とつなぎ歩いている。
 
 夏の初めの砂浜はひんやりとして素足に心地よかった。
 
 どれくらい歩いただろうか。ふり返ると、点々と二人の足跡が続いている。
 恋という罪のもとに、共犯者になった二人の軌跡。

 出会いは突然の事故に似ていた。回避できない唐突な衝撃を受けるという意味において。  
 最初は並んで歩けることがただ嬉しかった。あなたの薬指のプラチナの指輪があるのを知っていたのに、気づいたら引き返すことができないくらい好きになっていた。
 
「今夜は帰らないで」
 と泣いた夜。寄り添っていた足跡はしばらく離れた。それでもまた逢いたくなって……。
 だって砂浜を歩くのは、一人ではとても厄介だもの。いそしぎみたいにとても自由には飛びまわれないわ。あなたの手がなかったら。
 
 浜辺で遊ぶあの鳥の名前をいそしぎだと教えてくれたのはあなただった。美しい色の羽を持たず、砂色の地味な鳥。それまで恋をしたことさえなかった私みたいだった。
 恋を知って、ようやくわたしは赤い口紅をさした。
 

 色の抜け落ちたような銀色の流木が、まるで椅子のオブジェのようにあった。
「座ってみない?」
 二人で座ると、ちょっとぐらぐらした。
 シーソー。重いほうに傾くゲーム。いつだってわたしの想いのほうが、あなたの想いより勝っていたね。
 ――恋愛なんて切ないだけで、つまんないゲーム。あなたは強がりだと見抜いていたかしら。
 
 あなたは決して先を急がない人だった。私はそれがもどかしく感じることもあったけれど、今なら分かる。あなたが先を急ぎたくなかった理由。その理由は砂浜に埋まっていた。
 手から零れ落ちるあまたの砂粒は、よく見ると全てがなんらかの形を成している。
 ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットに数字。 膨大な組み合わせができるパズルみたい。
 
 選んだ言葉の後ろにはその何倍もの選ばなかった言葉がある。

「好きだよ、君は白が一番似合う」
「日本一? 世界一? 宇宙一? 誰よりも?」
 それなら私、あなたと逢う時は、いつも白い服を着るわ。

 選ぶことが許されている人生はたったひとつ。
 選ばれなかった、選ぶことを諦めてしまった人生はその何倍あるのだろうか。 

 ずっと一緒にいようとは言わなかったね。あなたはあの抜けるように青い空のように、にくらしいくらいに正直な人だった。
 
 選ばれなかった言葉は
「きゅっきゅっ」
 ほら、歩くと鳴き砂みたいに、肩を寄せ合い慰めあっている。
 
 ふいに、私は波と遊びたくなって、波打ち際に駆け寄る。潮風がノースリーブの白いワンピースの裾をひるがえした。
 じっとしていると、足の裏を波がくすぐっていく。
 寄る波と返す波。
 徐々に私の足の裏の砂地を削っていく。危うい三角錐の上に立っている気分。ぐらぐらして、ついに、よろめく。
 それでも白い波頭は、繰り返すことを止めない。時間の営みは残酷ね。

 さ、
   よ、
     な、
       ら

 波頭は予期していた言葉を連れてやってきた。
 
 ここは恋を埋めた砂浜。今さら掘ってみたって、愛なんて言葉は見つからない。

 振り向いてあなたを探しても、そこにあるのは流木だけだった。
 座りたいなら座っていいよ、と流木は語りかけてくる。
 ――やめとく。流木に一人で座るのはさみしすぎるから。
 
 遠い異国に渡りそびれたのであろうか? それともおまえの翼はもう飛べないのだろうか? 
 ひとりぼっちのいそしぎが、短いくちばしで無邪気に砂を掘り返していた。そう、飽きるまで、そうやって、何度でも。

 思い出をいくらたどってみても、現実の時計は巻き戻らないし、哀しいだけなのに。ばかだね。

  ◇
 
 あの夏、私は恋をしていた。
 
 




コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

13/10/15 そらの珊瑚

画像はpro.fotoサイト様よりお借りしました。

13/10/15 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

切ない恋が、とても詩的に美しく描けています。
砂浜に残る足跡が夏の恋の思い出だと、流木が語るのだろうか。

ビジュアル的に素敵なラブストーリーでした。

13/10/15 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

許されない恋愛ほど、辛いものはないでしょう。思い通りに歩けないもどかしさ、手に取ったはずなのに、するりと抜け落ちていく砂粒のような……。

何年経っても、こういう恋愛ほど、忘れられないものでしょうね。「いそしぎ」のタイトル、とても素敵ですね。

13/10/17 猫兵器

そらの珊瑚様

拝読致しました。
許されざる恋への追憶が染み入るようでした。
ひとつひとつの表現がとても詩的で、美しいですね。
今は振り返りながらも、いつか前を向く女性の強さを予感させる作品でした。

13/10/17 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございます。

詩的表現に頭ひねって書いてみたので、とっても嬉しいお言葉でした。
感傷にどっぷりと浸かってみました♪

13/10/17 そらの珊瑚

草藍さん、ありがとうございます。

後ろめたい恋愛ほど、のめり込みそうですよね〜
同名の米映画「いそしぎ」があります。エリザベステイラーが出てました。古い映画ですが。

13/10/17 そらの珊瑚

猫兵器さん、ありがとうございます。

美しさを感じていただけて嬉しいです。
彼女の内面の強さまで読み取っていただき、作者としてはそこまで意図してはいなかったのですが、改めて読みかしてみれば、そんな感じもしますね。

13/10/17 そらの珊瑚

葵更さん ありがとうございます。

嬉しいお言葉をいただきまして、
また評価してくださって、感謝です!

13/10/20 鮎風 遊

選ばれなかった、選ぶことを諦めてしまった人生はその何倍あるのだろうか。

ここが一番良かったです。

結局はそこへ落ちて行くものだと感じました。
そして、最後に、ばかだね。

詩のようで良かったです。

13/10/20 そらの珊瑚

鮎風さん、ありがとうございます。

ちょっと散文詩的味わいの物語です。
気に入っていただけてもらえたフレーズがあって良かったです。

13/10/20 ドーナツ

いそしぎという 映画思い出しました。

とても、詩的な作品で、静かな音楽も聞こえてくるような気がします。

このお話も、ラストの言葉がすごく印象的です。

恋は成就するのが幸せですが、こういう恋こそ、もしかした最高の思い出になう最高の恋なのかもしれないなぁと、そんなことも思いました。切ない思い出は人を詩人にしますね。曲を付けたくなるお話です。

13/10/22 そらの珊瑚

ドーナツさん ありがとうございます。

映画「いそしぎ」も不倫の男女のお話だったような。
もう細部はほとんど覚えていなのですが、美しい映画だったように思います。
成就したらしたで、色あせてゆくことも多いけど、終わってしまった恋はそのまま真空パックされているように思います。

13/10/26 そらの珊瑚

凪沙薫さん ありがとうございます。

時空でもトップクラスのロマンチストだと勝手にふんでた薫さんにベストと言ってもらえて嬉しいです!
人によっては、かゆくなる文章かもしれず、と危惧してました((笑))
この舞台の砂浜はモデルがあって若い時はそれなりの想いでもありましたが
お話は全くのフィクションです、残念ながら。

映画「いそしぎ」エリザベステイラーがお好きだったらお勧めです。大人のメロドラマだったと記憶してます。

ログイン