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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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マイ エドワード

13/10/12 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:16件 そらの珊瑚 閲覧数:5739

時空モノガタリからの選評

希望は人類最後の病気だなんて誰が言った。

そらの珊瑚さんの作品。巧みな小説技法にかけては定評のある作者。
心の闇を描いた作品を、こうした世界特有の粘着質な暗さなく表現。
夭折したハリウッド俳優リバー・フェニックスのような美貌のエドが、江戸という苗字で、富士見台駅近くに住み、一夜の過ちなどと今どきの大学生らしくもないことを言い、最後には富士山に例えられるミスマッチが楽しい。
このミスマッチはそのまま小さな振幅となり、この作品の軽快さをつかさどっている。
「イチヤのアヤマチ」で得た「君の唇」の感触は、スペアミントのガムの味と溶け合ってハーモニーを生む。これは希望そのもので、希望は絶望の母なのだけれど、そんな暗さが読後にのこらないのは、軽快な筆致もさることながら、僕が「心を澄ませて得た」この恋の姿は、「ただ好きという(富士山のように)単純な形を成す」からだと思う。
今夜、選者は「人類が最後にかかる、一番重い病気は“希望”という病気である。」という寺山修司の言葉を箱につめてプロメテウスに送りつけたいと思います。クロネコヤマトで。
この作品の弱点といえば、この作者の技巧そのものか。
不自由。作者がはりめぐらせた技巧の網に囚われたような不自由。
そらの珊瑚さんが実力者と知っているから感じる不足なのだろうけれど。

時空モノガタリS

「禁断」のイメージが未だ実社会ではつきまとうであろうボーイズラブをさわやかに描いていて、心地のいい作品。
「エドワード」「メロン」「白ワイン」「スペアミントガム」という小道具が、さわやかさを醸し出している様に感じた。
「エドワード」に対する「正雄」というネーミングもコミカルな感じをだしていて効果的だったと思う。
 最後、エドワードの描写とは対象的に日本的な「富士山」が、エドワードに重ねられるのに何故かそれが違和感なく感じられた。これによって「僕」にとっての彼の存在が読者に映像、空気感として伝えられ、さわやかな読後感をもたらしているように思った。
そして最後の、「何度迷ったとしても」のくだりが、「僕」の彼への想いの純粋さが人生の指針となるほどのものだという印象を与えていると思われる。

時空モノガタリK

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「おはよう、エドワード」僕は心の中でささやいた。ベッドで寝息を立てているエドワードを起こさないように。エドワードは本名ではない。外国人でもない。かつ僕専用の秘密の呼び名。そう呼ばれている本人でさえこの呼び名の存在を知らない。大学の友達や君の恋人も君を「エド」と呼ぶ。苗字が江戸だから。頭の中で自然とカタカナ表記になってしまうのは君のルックスによるところが大きいだろう。おじいさんがスウェーデン人らしい。憂いが蒸発して軽さだけが残ったような薄茶色の瞳。その下にランダムにばらまかれたソバカス。それは君の端正な目鼻立ちの、ともすれば冷たさを醸し出す雰囲気に、ひとさじの愛嬌を添える。柔らかそうな黒髪はまさにジ・オリエンタルの趣き。美しさには磁力がある。そう気づいたのは「スタンドバイミー」のリバー・フェニックスを見た時だった。だから僕にとってエドワードはふたつ目の磁石だ。
  ◇
 昨晩僕は田舎から送ってきた夕張メロンを手に君のアパートを訪れた。(エドワードはメロンに目がない。※調査済み。そしてエドワードほどメロンの似合う男を僕は知らない)富士見台の駅から徒歩で約十分。いつだったか「時々駅の連絡路から富士山が見えるんだ」と君が言ったので、何度か僕は一人途中下車してこの駅に降り立ったが、まだ富士山にお目にかかったことはない。
 夕張メロンを肴に僕らは飲んだ。メロンと白ワインは案外イケる。その後缶チューハイ数本で大分酔いが回ってきた。僕はザルだけどエドワードはそうでもない。
「あいつがさあ、真っ当じゃないバイト辞めないなら別れるって言うんだ。モデルのどこが悪いんだよ。来年は四年だしモデル事務所なんて辞めてちゃんとしたとこに就職してくれって。まあ、俺だってあそこに就職しようなんざ考えちゃいないけど、さ」「女が言いそうな事だね」僕は心の中でほくそえむ。
 あいつ、とはエドワードの恋人すみれのこと。すみれっていまいましい名前だ。僕は【正雄】数あまたある名前の中で一番僕に似つかわしくない名前じゃないか。【正しいオス】なんて。つまり正しいオスとはメスに欲情する、という意味において。僕がメスに欲情しないタチだとはっきり悟ったのは高校二年の春。バレンタインにコクられて成り行きで初めて付き合った同級生の女の子とファーストキスをした時。彼女の唇がパンドラの箱を開ける鍵になった。
 大人になるっていうのは心に様々な箱を抱えて生きていく事かもしれない。家族箱。友達箱。学校箱。世間箱。そして恋愛箱は僕にとってパンドラの箱だった。その存在に薄々気づきながらもその存在を認めたくない自分がいて、けれどパンドラの箱は放たれた。最後に希望が残るのかどうかなんて今の僕にはわかんない。
 こたつで酔い潰れたエドワードをベッドに引きずり上げた時、なだれ込むようにして君の両手で抱きすくめられた。「ちょ、ちょっと、なんだよ」その先の言葉を君の唇が消した。ガッ。歯と歯が軽くぶつかる音が頭蓋骨に反響し、めまいを起こしそうになった。嗚呼、僕の秘密の小箱に今、君がいるなんて。気が動転しそうだった。そして君は僕から唇を離し背中に回した指に力を込めこう言った。「すみれ……」僕は現実に戻された。まったく! なんていまいましい名前だ。その夜僕はクッションを枕に一人こたつでふて寝した。    
     ◇
「あれ、正雄? おはよう」君は寝ぼけた声を出した後、大きなあくびをした。
「そっか、昨日飲んだんだっけ」記憶の糸をたどるように視線を泳がせている。寝癖でハネた髪に胸をしめつけられる。
「ありゃ? なんかリアルな夢みちゃったけど、まさかね」「なんだよ、おまえがおそってきたくせに」「えっえっ、おまえとしちゃったの、おれ」エドワードがうろたえている。
「冗談だよ、冗談」「なんだよ、マジであせったじゃんか。おまえとイチヤのアヤマチしたかと思った」イチヤのアヤマチ……演歌の世界か。へこむなあ。
「じゃあ、僕、バイトあるから。帰る」
「お、おう、またな」ドアを閉めて所々さびついた階段を下りると、空からエドワードの声が降ってきた。
「これ、やるよ」君の手から生まれた放物線はゆるやかに僕の掌におさまった。スペアミントのガム。やっぱりエドワードには演歌は似合わない。一枚取り出し、口に含み、軽く歯で噛みしだくと、昨晩の君の唇の感触と溶け合ってハーモニーを生んだ。それから富士見台の駅の連絡路で初めて僕は富士山を見た。空気が澄んでいるんだろう。日本一高いランドマークが掌に乗りそうなほどだ。単純なそのフォルムを僕はしみじみ美しいと思った。僕のこのめんどくさい形の恋も、心を澄ませば、ただ好きという単純な形を成す。
 何度迷ったとしても、きっと僕はまた君を見つける。だって君は僕のランドマーク。
 そうだろう、マイ・エドワード。


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このストーリーに関するコメント

13/10/13 草愛やし美

そらの珊瑚さん、拝読しました。

正雄くんのパンドラの箱、今後はどんな生き方をするのかしらと、TV画面で見る、不正雄(? かな〜笑)さん方の面々が頭をよぎります。ひと昔前と違って、かなり居場所を持てるようになったとはいえ、当人の立場にたてば、大変な箱をあけることになるはずです。人と違っていることを個性というには、あまりにも大きな違いでしょう。
エドワード君もたぶん気づいていそうな、そんなこと文の片隅から何となく感じています。正雄くんはきっと強く生きていくことと思います。
恋愛をテーマにと考えた時、難しいことですが、このパターンの恋愛も書かれるべきかなと思っていました。珊瑚さんの文の表現は、とても素敵なので、この世界がとても美しく描けていてよかったなと思いました。

13/10/13 泡沫恋歌

珊瑚さん、拝読しました。

パンドラの箱かも知れないけれど、こういう恋愛形態は段々世間でも認知されてきていますよ。

何しろ、正雄君にとって「ランドマーク」ですから、この恋はいつか成熟されて、本物の完熟メロンのように甘く、口の中で蕩けていくことでしょう。

マイ・エドワードお洒落で素敵な物語でした。

13/10/13 murakami

拝見しました。

ひとつひとつの言葉に想いがこもっていますね。すごくきれいな作品だと思います。
切ないけれど、これはこれで一つの愛の形ですよね。いろいろな愛があっていいと思います。

13/10/13 かめかめ

素晴らしかったです

13/10/13 猫兵器

そらの珊瑚様

拝読致しました。
冒頭から、心地よい響きの言葉に溢れていて、引き込まれました。
「憂いが蒸発して軽さだけが残ったような薄茶色の瞳」「ともすれば冷たさを醸し出す雰囲気に、ひとさじの愛嬌を添える」「美しさには磁力がある」「エドワードはふたつ目の磁石だ」
どれもこれも、とても巧い言い回しだと思いました。
私は男性で、そういう趣味はないので、なかなか受け入れがたい世界ではありましたが、それでもとても面白く読めました。
不思議な魅力がありました。

13/10/14 そらの珊瑚

草藍さん ありがとうございました。

そうですね、昔に比べてテレビの影響か、だいぶ市民権を得たように思いますが、やはり現実問題として考えるとマイノリティの苦しみというものがあるのではないかと思います。
子供の頃、萩尾望都さんの漫画を愛読していたせいか、ボーイズラブの美しい世界も好きなので、このような次第となりました♪

13/10/14 そらの珊瑚

恋歌さん、ありがとうございました。

パンドラの箱はきっといつかは開けなくてはならない宿命だったのだと思います。
今はまだ片思い、青い実ですが、いつか成熟できるといいですね。

13/10/14 そらの珊瑚

村上さん ありがとうございました。

おっしゃる通り、いろいろな愛があっていいと私も思います。
嬉しいお言葉、感謝いたします。

13/10/14 そらの珊瑚

かめかめさん、ありがとうございました。

ずしんと嬉しい一言でした♪

13/10/14 そらの珊瑚

猫兵器さん ありがとうございました。

美しい描写に苦心した点を認めてくださって嬉しいかぎりです。
不思議な魅力ありましたでしょうか? ひたむきな思いが伝わり、もしや魅力になっていたとしたら、またまた嬉しいです♪

13/10/20 鮎風 遊

情景描写が上手くて、流れるようなストーリーでした。
そんな中で、恋愛とは?
ランドマークも一つの恋心なんでしょうね。

13/10/20 ドーナツ

ボーイズラブも珊瑚さんが描く世界は とても美しいです。

男なので ギリシャ神話のニンフというのは変ですが、そのような美しさを感じます。

このお話、萩尾望都か竹宮恵子に描いてもらいたいな。

13/10/22 そらの珊瑚

鮎風さん ありがとうございます。

ランドマークがいつまでも光輝くように、なんて思います。

13/10/22 そらの珊瑚

ドーナツさん ありがとうございます。

小学生のとき、「風と木の歌」に衝撃を受けてから美しい少年愛はひとつの愛の形だと思いました。
この想いが今でもどこかにあってこの作品を描かせてくれたのかもしれません。

13/10/26 そらの珊瑚

凪沙薫さん ありがとうございます。

リバーフェニックスいいですよね。「スタンドバイミー」で心奪われて今に至ります。でも人生の頂点があの年ってもしかしたら不幸なことかもしれませんね。
この作品はリバーへの一種追悼みたいな気持ちも入ってます。
私にとっての幻のランドマークでもあるのです。

余談ですが、彼の死を知ったのはとある週刊誌。私はのんきに天丼食べてました。

13/11/18 そらの珊瑚

時空モノガタリSさん ありがとうございました。

大変勉強になりました。
技巧に囚われすぎるな、それは枝葉であると肝に命じまして、これからの指針とさせていただきます。

時空モノガタリKさん ありがとうございました。
私は女ですし、ボーイズラブの本質はきっとわからないままだと思いますが、主人公の純粋さを読み取っていただいたことは大変嬉しく思います。

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