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遥原永司さん

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ダンス稲荷

13/10/08 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:14件 遥原永司 閲覧数:1374

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 某所には一風変わった稲荷神社がある。
 そこに訪れる参拝客はお年寄りよりも若者が圧倒的に多い。ラフな格好をした彼らがお供えとして置いていくのは、なぜか皆決まって「ツナ缶」である。
 その不思議にはこんな話があった。

 ある時から、静かだった境内に突然ダンスミュージックが流れるようになった。神社には到底不釣り合いなリズムに激しく乗るのは三人の女子高生達である。
 彼女らは近く開かれる県のダンス大会に向けてここを練習場として選んだのだ。しかし、励めども一向に上達の手応えがなく、日々焦りばかりが募っていた。
「まったくなっちゃいないよ! それでもダンスかね!」
 突然の声に振り向くと、賽銭箱の前に見知らぬ老婆が立っている。薄汚れた肌に不潔なザンバラ長白髪、服はツギハギのモザイクカラーという格好からして、どうやら神社の裏手にあるダンボール小屋の住人らしかった。
 老婆はやたらとエネルギッシュな眼をぎらりとさせ、彼女らに近づくなり手にした杖で一人のふくらはぎをバシッと叩く。
「……つッ! なにすんだババァ!」
「膝だぁ膝! あんなバラバラな動きでバックフロートたぁ笑わせるんじゃないよっ、もっと――こうッ!」
 三人は老婆の動きにハッと息を飲んだ。まるで何かに運ばれるように、小柄な体が敷石の上を後ろ向きで滑っていく。それは実に見事なムーンウォークだったのだ。

 翌日も、学校が終わると三人は神社へ向かった。
「またあのバアさんいたらどうする?」などと話し合いながらも、つい先日まで練習場としていた公園が近く取り壊されるため立入禁止となり、もう近場ではあの稲荷神社しかなかったのだ。
 行くと案の定、境内には老婆が待ち構えるようにいた。それどころか彼女は今日から三人のコーチになると言う。
「あたしのことはユウと呼ぶんだ。それと、次からは授業料代わりにツナ缶を一人一缶持ってくること、いいね」
 無論最初は無視を決めこもうとした三人だったが、しかし事あるごとに勝手に飛んでくるアドバイスは実に的確であり、たしかに言われた通りにすると動きが格段に良くなる。
 やがてその日の練習が終わりに近づく頃には、もうすっかり三人はユウの生徒になっていた。
「いいかい、ダンスってのはただ動きゃあいいってもんじゃない、まず旋律をつかんでハーモニーを体現するんだ。そうすりゃリズムの方からこっちに乗っかってきてくれるのさ」
 それからは連日、ツナ缶を携えてはユウの指示の下特訓を行うようになった。
 やがて大会前日が来て、不安のぬぐえない三人はユウに最後のアドバイスを乞うた。
 しかしユウは、
「楽しんできな!」とだけ言ってにやりと笑う。
 それは初めて目にする彼女の笑顔だった。
 翌日、見事優勝を果した三人は、真っ先に稲荷神社へと駆けつける。
 しかしユウがいない。住まいであるダンボール小屋もきれいさっぱり消えてしまっている。
 以来、彼女が三人の前に姿を現すことは二度となかった。
 おそらく近所の公園が潰されたとき、同じく神社の小屋も撤去され、公園にいた他のホームレス達と共に行ってしまったのだろう……と少女達は考えた。
 しかし月日が経ち、成長した三人がプロのダンサーとして有名になると、この話が噂となってユウ、老婆は実は神社の神さまだったのだ、いやそれに仕える狐だったのだという勝手な説が様々に飛び交うようになった。
 そうしてこの稲荷神社には、いつしかダンスの上達を願う若者達が、彼女の好物であったツナ缶を持って訪れるようになったということである。


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このストーリーに関するコメント

13/10/08 嘗五朗

ちゃんと話に終着地点についています。これは都市伝説です。
内容もいい話だと思います。噂話には尾ひれがつきますよね。僕は個人的にはこんなラフなお狐様は大好きです。

私は欠点が見受けられませんでした。

13/10/08 遥原永司

嘗五朗様、感想ありがとうございます。

そんなふうに評価して頂いてどうお返事していいか分かりません。
ひたすら嬉しいです。
欠点は、多分もう少し時間が経ったら、「なんでもっとこういうふうに書かなかったんだろう・・・?」って徐々に気付いてしまいそうで自分でも怖いです。

13/10/08 嘗五朗

恐らくですが、もう少し最後に何かを添えるとオチとして通るのかなと思います。

13/10/08 遥原永司

嘗五朗様、再訪ありがとうございます。

オチですか!・・・ダメですかこれ、オチてませんか。
個人的にこの作品のラストは、

>ばあさまの好物であったツナ缶を持って訪れるようになったということじゃ・・・・・・・・

という感じで、市原悦子がナレーションで神社がフェードアウトしていっておわり、というのをイメージしていたんです。
なんか昔話ってこんな終わり方だよね、っていう。
しかしこれが通じないとなりますと、まずいですね、今の私にはすぐ代案が浮かびそうにありません。
貴重な意見として受け取らせて頂きます。本当にありがとうございます。

13/10/08 嘗五朗

んーなんでしょう。個人的にもう一声欲しいなーと。
でも物語としては完結していますから問題ありませんよ。オチてます。もう一声欲しいなと思っただけです。なんでしょうね。
ユウは奉納物が増えることを願い出てきたのか、それとも気まぐれかをユウが最後に参拝客が増えたことに関して言及するとか……かな

どちらにしろ失言です。お気になさらず

13/10/08 遥原永司

嘗五朗様、本当ありがたいです。
人様の作品でも、自分の作品でも、とにかく創作について語り合えることが一番楽しいです。
リアルではそういう仲間がまったくいませんもので・・・。

オチていたというのは安心しました。
しかし終わり方については、もう一声ですか。難しい・・・。
実はユウについてですが、私の解釈では彼女はただの人だったりします。過去にダンス経験有りな単なるホームレスのお婆さんなんだろうなって。
でも、生意気かも知れませんが、彼女の解釈は人それぞれでいいと考えてます。実際文章中には何もはっきりしたこと書いてませんし、結局正確なところはわからないというのが都市伝説というものだと思いますので。

でも彼女が神様であると考えた場合は、オチが弱く感じられるということなのでしょうか。いや難しいもんですね。
これは今すぐ答えの出せる問題でもない気がしますので、今後の課題とします。これからも度々こういった問題にはぶつかったりするんでしょうね。

13/10/08 嘗五朗

>>くくるさん 

いいえ。創作物は個人的解釈があってこそだと思うので。多分僕の感性が変なんですよ。

ユウは人でしたか、都市伝説の真相らしくていいですね。
人であれば人で、噂が広まって終わりでは、少々あっさりし過ぎかなと思います。

ついでに僕も友達いませんよ。(笑)

13/10/09 W・アーム・スープレックス

2ooo字内でよくまとまっている話だと思いました。文章もお上手です。
お稲荷さんだったら油揚げときまっていましたが、ツナ缶としたところに、現代感覚が感じられ、ムーンウォークをきめるお婆さんの存在が浮彫になるのでしょうね。面白いです。

13/10/10 遥原永司

嘗五朗様、感想ありがとうございます。

正体が人であってもあっさりですか。やはり難しいですね・・・。
おそらく私自身があっさりしたオチが好きだからこうなっているんでしょうね。なんというかこれは、一種の流浪人ものなんですよね。あるとき出会って、別れて、それっきりっていう。それだから、あの人は今どうしてるんだろう?どうなったんだろう?って考える、そういうのが個人的に好きなのでこの形を選んだのだと思います。

全ての人の好みに対応した終わり方があるとは思わないのですが、でもあんまり他の人からもオチに対して不満が出るようでしたら、別のパターンも模索してみます。それはそれでまた勉強ですね。

13/10/10 遥原永司

W・アーム・スープレックス様、感想ありがとうございます。

字数に関して言って頂けると本当報われます。
試行錯誤しました。削るのはもう当然で、入れ替えたり、表現を変えたりと色々・・・皆さん苦労は同じだと思うのですが。面白いもので、一箇所変えると他の箇所も変えなくてはいけなくなったりするんですよね。なんか全体のバランス的におかしくなったぞ?とか。奥が深いです。

若者の特権、新時代の象徴、みたいな場でお爺ちゃんお婆ちゃんが活躍してる光景が好みです。飄々としててふとしたときに先輩として手助けしてくれるっていう、そんな人物に憧れて老婆をイメージしてみました。

13/10/19 murakami

ダンスと神社の取り合わせがミソですね。
おばあさんと女の子たちのキャラのギャップがいいですね。

13/10/20 遥原永司

村上様、感想ありがとうございます。

若者のパワーとお年寄りのパワーとが一緒になった光景って良いと思うんですよね。
ダンスと神社にしてもそうしたコラボレーションをテーマと考えると自然だったのかなーと。
まあ、後付けなんですけども・・・。

13/11/02 芝原駒

拝読しました。
淡々と話が進んでとても読みやすかったです。境内でダンスの練習をする女子高生と、コーチ役の老婆という設定は魅力的ですね。
それだけに、あまりに淡々として気付いたら話が終わっていたという感想があるのも事実です。ショートショートではありますが、目を見張る山場があったら全体がぐっと締まったのではないかと思います。またツナ缶の必然性も謎で、老婆の正体が何であったとしてもそのあたりの根拠付けが欲しかったです。併せて、締め括りは説明で終わらせるのは惜しい気がします。成功した3人の話から都市伝説が始まったと強調するためにも、掲載された雑誌や、インタビューの様子等で表現されるのはいかがでしょうか。

とはいえ、場面設定と登場人物のミックス具合には惹きつけられました。さらに成長の余地のある作品だと思います。
次回作を楽しみにしています。
拙いコメントではありますが御容赦ください。

13/11/03 遥原永司

芝原駒様、感想ありがとうございます。

この作品は現代劇でありながら、作風のベースは昔話のようにしたいと思って書きました。そこまで期待されるような内容でもないので、そんなに盛り上げるような文章もいらないかなと考えまして。
でもご指摘を受けて見直してみますと、やはり自分の中にこの作品に対するある種の逃げがあったのかも知れないなとも感じました。

もしもっと分かりやすく盛り上がりのある作品にするのであれば、登場する女の子を一人にして、名前と人格を設定することをまず考えます(2000字以内で3人の人格を扱うのはキツそうなので・・・)。そうすると、ご提案下さった雑誌やインタビューを使った説明なんかが私の中でもイメージ出来てくる感じです。

ツナ缶に関してましては、単に老婆の好物というだけです。油揚げではイメージが限定され過ぎるようで、ちょっと何かなと思いまして。もう少しドラマ性を強めた作風になれば、それをおいしそうに食べる、または缶詰とダンスの共通点をでっち上げたりして、面白く扱えそうな気もしますね。
ご意見、非常に参考になりました。また機会がありましたらよろしくお願いします。

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