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木持理解さん

文章を書いたり読んだりする事が大好きです。 楽しい事、新しい事、変わった事が大好きです。 普段は宗教を学んだり、走ったり、空を飛んだりと忙しくしています。

性別 男性
将来の夢 世界を変える人をつくる人になること。
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21世紀の預言者

13/10/08 コンテスト(テーマ):第四十二回 時空モノガタリ文学賞【 都市伝説 】 コメント:6件 木持理解 閲覧数:1197

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 アダムに始まり、イエスを筆頭にムハンマドまでの25人の預言者達。彼らは神の言葉を預かり、人々に広める役割を担った。乱れた時代に現れ、各地で世界を正す為に活躍した彼らが、伝説上の人物になって久しい。理由と証拠を求め、目の前の真実を見ようとしなくなった現代において、彼らの偉業は夢物語の一つなのだ。しかし、乱れた時代に預言者は現れる。この21世紀にも。

 櫛原光夏16歳。地元の高校に通う2年生。家は神社だが、それを除けばごく普通の女子高生。器械体操部に所属し、成績も優秀な健康優良児だ。
「芳川さん、こんにちは。今日はいいお天気でしたね」
 そんな彼女は週に1度病院へ通う。風邪一つ引かない彼女が、カトリックの大病院に通う理由は、ボランティアである。ホスピスで死を待つ人達。様々な人生を送り、様々な病気を患った人達がいるが、誰しも抱く想いがある。

 寂しい。怖い。

 彼女は、医者でも無ければカウンセラーでも無い。ただの女子高生である。それでも、出会った人達に何かをしたかった。寄り添い、話を聞く。ただそれだけの、例え小さな力だとしても、無力ではない。ある日、そう教えられた事でこの場に通うようになった。
「光夏ちゃんが来てくれるのが、毎日楽しみで仕方ないわ。また聖書を読んでくれるかしら」
 芳川さん。HIVに感染した事から人生が狂った。肌は荒れ、髪も抜け落ちた中年の女性。光夏が出向くといつも聖書の朗読を頼まれる。当然、光夏はクリスチャンではないが、読み聞かせる内に知ったイエスの物語には、何度も心を打たれた。今日も、読み終えた頃には芳川さんは泣いていた。半身不随となり、動かなくなった左手を、無理やり右手で掴んで持ち上げる。そして胸の前で手を合わせ、泣きながらただ一心に祈りの言葉を捧げるのだ。
「光夏ちゃん…一つ、話していなかった事があったわね」
 祈りを終えると、真っ赤に腫れた目を向けながら、唐突に芳川さんは話し始めた。
「私は、女性しか愛せないの。男の人と関係を持ったけど、心が満たされるどころかこの様よ。ずっと、心の隙間が埋まらないの」
 突然のカミングアウトに、光夏は動揺した。いつも、感覚の残る右手を握って話を聞いていたが、今はその右手も震える。
「私は、もう長くは無いわ。お願い…一つだけお願いがあるの。私を、抱きしめて」
「え…?」
 状況を理解するのに、少し時間がかかった。今まで、学校帰りに聖書を読み聞かせていた芳川さんが同性愛者?そして、自分は今、女性しか愛せない同性愛者にハグを求められている?
「…ごめんなさい。突然変な事言っちゃって。もう日が暮れるわ」
 戸惑う光夏に、寂しそうに、申し訳なさそうに芳川さんが声をかける。
「すいません…また、来ます。おやすみなさい」
 光夏は、何もできなかった。その場から、逃げたいと思ってしまった。頭には、イエスが浮かんでいた。イエスは、社会から隔離され、虐げられていた人々…彼の言葉を借りるなら『小さくされた人々』に進んで触れた。全てを受け入れ、寄り添った。何度も、何度も読んだ物語。それでも、光夏は動けなかった。自己嫌悪を感じつつ、とぼとぼと帰り道を歩く。
「お嬢ちゃん、何を暗い顔しているんだい?」
 コンビニの前を通りかかった時、声をかけられた。ジーンズに白無地の長袖Tシャツ。ひょろりとした長身の外国人は、光夏に笑顔を向ける。
「…あなたは!」
 突然の再開に、光夏は驚く。1年前、光夏にホスピスの存在を教えた人だ。その時も、学校の帰り道に突然現れ、アドバイスをして去って行った。光夏は、抑えきれなくなり、今日の出来事を話した。
「そうか。それは辛い思いをしただろう。君は苦しんだが、それはそこに愛があるからだよ」
 外国人は、光夏の頭をぽんぽん。と叩いて慰めた。
「小さくされた人々は、社会から冷たい扱いを受けている。誰にも認められないと言うのは寂しい事だ。自己肯定もできず、ただ一人で漂うしかない。自分の全てを受け入れて欲しいという望みも叶わないまま。そんな時こそ、寄り添わなくてはいけない。生きていていいんだよ、そこにいていいんだよ、そんな簡単な言葉をかけるだけで、救われる人もいる。全てを受け入れ、黙って寄り添うだけでいいのさ。でも、それが難しくもあるんだけどね」
「私…行かなきゃ」
 もう、今の光夏に迷いは無かった。
「行ってらっしゃい」
 外国人は、満足気な笑顔で送り出す。

「芳川さん!」
 光夏は、病室に走って戻った。そして、ベッドの上の芳川さんに抱きつく。
「どうして…こんなに急いで」
「さっきはごめんなさい。でも、一つだけ言わせて下さい。私は、ここに。あなたも、ここにいます」
 それからしばらくして芳川さんは亡くなった。安らかな顔をして聖書を持ち「救いの預言者は現れる」と言い残して。


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このストーリーに関するコメント

13/10/08 遥原永司

読ませて頂きました。

いい話としては文句の付けようのない作品ですね。
文章も最後まで過不足なく、きちんとまとまっているなと思えました。
しかし読み終えてから、これは”都市伝説”だったのだろうか? と考え、ああ途中の謎のアドバイザーがそういった存在なのかな・・・と気付いたわけですが(これは私自身が鈍いんです)、ちょっとそこらへんの要素が弱いようにも感じました。聖書の内容を把握していればより理解できた存在なんでしょうか。もしそうでしたら、すいませんこの意見は無視して下さい。

13/10/08 木持理解

>くくるさん
コメントありがとうございます。

そうですね、自分自身、都市伝説らしい都市伝説では無いと思っています。都市伝説とらしい、現代的な要素をもっと入れられれば良かったのですが、今回は古代から続く伝承的な伝説になってしまいました…。ネタが足りませんね。

一応、アドバイザーはイエスを意識しています。光夏が21世紀に現れた預言者。という設定です。

13/10/09 さんしろう

現代にもイエスや預言者が居るのかもしれない、というような気持ちになりました。もしいたら、それこそ都市伝説ですかね。

個人的に、エイズや同性愛という微妙なところを、きれいに揚言されていて、とても好感をもちました。
芳川さん、ハグの前に亡くならなくてよかった、安心感に包まれる最後に納得。

ところで、聖書では同性愛はタブーだったように思いますが…どうでしたっけ、、、勉強不足ですね
もしそうだったら、聖書を愛する芳川さんは、どう思ってたんだろうなんて余計なことを考えてしまいました笑

13/10/09 木持理解

>さんしろうさn
コメントありがとうございます。

自分はハッピーエンド信奉者なので、最後はこのような形にさせて頂きました。不気味なイメージのする都市伝説というテーマの中では、少し毛色が違うかもしれませんが気に入って頂けて嬉しいです。

聖書ではソドムとゴモラの話にもあるように、同性愛はタブーとされてきました。しかし少し専門的な話になってしまうのですが、旧約聖書は元々『宗教書』ではなく『歴史書』として書かれた物なんです。ですから、現代から見れば納得のいかない事も多くあり、現代における課題でもあります。先日即位された法王フランシスコ1世のように同性愛者の権利を認め、擁護する動きも見られる事からも、宗教は流動的であり、芳川さんも『受け入れられる存在』だと自分は信じています!

長文失礼しました。

13/10/19 murakami

最初に抱き締めてほしいといわれたときに、とまどってしまうところがリアリティがありますね。
だれしもそんなことを突然いわれたら、困ってしまうのが普通です。

宗教的なテーマで深みを感じる作品でした。

13/10/19 木持理解

>村上さん
コメントありがとうございます。

そうなんです。聖書でイエスは、戸惑う事無く受け入れています。でも、自分達はきっと戸惑っちゃうと思うんですよね。それでも、戸惑った上で自分から受け入れるというのは、とても大きなことで、きっと宗教に関係無く、人間にとって大切な事だと思います。

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