高橋螢参郎さん

何でもいいから金と機会おくれ

性別 女性
将来の夢 二次元に入って箱崎星梨花ちゃんと結婚します
座右の銘 黙り虫、壁を破る

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I?

13/10/07 コンテスト(テーマ):第四十回 時空モノガタリ文学賞【 アイドル 】 コメント:0件 高橋螢参郎 閲覧数:1287

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女は起き抜けに、部屋へ備え付けられた姿見の前に立った。
映っているのはどこからどう見てもごくごく普通の女の子だ。
丸っこい輪郭。いささか自己主張の乏しい小さめの瞳。やや低めな鼻。そして白い肌へ散りばめられた、いくつかの黒子。紋切り型の美人というよりかは少々個性的で、愛嬌のある顔だが、恋愛、結婚と平凡な人生を送っていく分には特に不自由する事もないだろう。
ただこれから努力を幾重にも重ねていったところで、超人気アイドルには決してなれない。それは彼女自身がよく知っていた。
気が遠くなるほどレッスンを繰り返し、歌、ダンス、スタイル、ファッションを極限まで磨き上げても、やはり容姿だけはどうしても生来の素養に因るところが大きいのだ。所詮、砂上に天を破る楼閣など築けはしない。
どこか魔術めいてさえいる、人々を魅了して已まない絶対的なカリスマ。当然そんなものを、このどこにでもいそうな女の子が持ち合わせている筈もなく。よくもまあここまで上手くやってくれたものだと、女は自嘲を込めてぎこちなく笑った。
笑ったつもりだったが、違和感はまだ拭えなかった。

女は着替え、街へと繰り出した。
しばらく家に籠り切りだった為多少は太ったが、それでも世の標準体重にすら及ばない。また、彼女の流行に対する嗅覚は実に鋭敏なままだった。十人並みの容姿でも、自らの性質を十全に理解しメイクや着こなしを駆使すれば、十二分に魅せる事は可能だ。こうして街を歩いていればいつも何人かの男に声をかけられ、自由に手や体を繋いだ。
――悪くはない。
それが彼女の素直な感想だった。愛されている、という実感がある。肉付きが良くなり丸みを帯び始めた体も、抱く男からすればそう悪くない事にも気付かされた。お決まりの文句なのは承知の上でも、君じゃなきゃダメだと言い切ってくれるのが嬉しかった。その内に誠実そうな男を見つけ、結婚し、子どもを産み、どこにでもいる母親の1人になる。それでいいのだろう。卒業、引退、挫折。形は様々だが、きっと数多くの夢見る少女たちがこの道を通ったに違いない。
もちろん私もいつかは、という思いは常にあった。夢は花火のようなもの。光った瞬間には終わりが見えている……カラオケでのお決まりのナンバーになりつつある、とある流行歌の歌詞だ。
不意にビルへ埋め込まれた巨大スクリーンが輝き始める。道行く多くの人々がふと足を止める。聞こえてくるのは、紛れもないあの流行歌のメロディー。直に発売される、高森実玖のベスト・アルバムのCMだった。
冷たさすら感じるきりっとした顔立ち、メイクに頼らずとも大きい瞳、スレンダーな体。時折見せる笑顔からのぞく、チャームポイントの八重歯。男性のみならず誰もが魅了される、アイドルの中のアイドルだ。
女も立ち止まると、チェックのスカートを翻して踊る少女の姿を見た。
――ああ、私が歌っている。私が踊っている。

国民的アイドル高森実玖は大きくなり過ぎたのだ。
多忙なスケジュールに心身を壊した高森実玖に、これ以上の芸能活動は事実上不可能だった。だが、全国ツアーを始めとする複数の巨大なプロジェクトが、少なくとも向こう数年にわたり控えている。数百億の金が動く。その中核に据えられた高森の引退は到底認められない。それが関係者の総意だった。
よって高森実玖は、高森実玖を辞めざるを得なくなったのだ。
公には病気療養中と発表して数ヶ月の時間を作り、その間高森の音声ライブラリと3Dモデリングデータが急遽制作された。ライブは特殊スクリーンにホログラムを投影する事で対応し、音楽活動に専念する、として以降のTV出演は一切中止した。記者会見も関係者による徹底した情報統制の下、ホログラムのテストを兼ねて秘密裏に行われた。
後日高森本人もその映像を見る機会があったが、構成作家の脚本に沿って喋る『自分』の姿は気味が悪いほどに違和感が抜け落ちていた。
「ね、高森実玖好きなの? カラオケで聴かせてよ」
呆然としていたところ不意に自分の名前を呼ばれたので、女は上擦った声を上げてしまい急ぎその場を離れた。そのハスキーな声は、高森実玖のそれとはまるで似ても似つかなかった。
全ての手術を終えて最後にマネージャーから手渡されたものは、整形後の高森の写真の入った架空の人物の運転免許証やパスポート、その他日常生活に必要な証明書一式だった。かつて愛した彼は高森実玖を非常によく知る者として、今も尚プロジェクトに深く関わっているという。
本人も了承の上でこの要求を呑んだ。いまだに多額の『原作料』も、毎月振り込まれてはいる。しかし大型スクリーンから、家電量販店のTVから、車のラジオから、新聞の広告から高森実玖は絶えず彼女に問いかけ続けるのだ。

「私高森実玖。あなたは誰?」


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