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日傘の下で微笑んで

12/05/10 コンテスト(テーマ):第四回 時空モノガタリ文学賞【 傘 】 コメント:1件 tahtaunwa 閲覧数:1741

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 記憶の中で、母は、いつも日傘を差している。僕が太陽の下を走り回っているのを微笑みながら見守っていた。
 その母と日傘は、同じ棺に入って燃やされて、煙になって天に昇っていった。以来、僕は空ばかり見上げて暮らすようになった。そんな僕の目を心配して、父はサングラスをくれた。
 サングラスをかけた小生意気な男の子は、日傘の女の人が歩いていくのを見るたびにあとについていった。母が戻ってきたのだと思って。僕に足を触られた女の人が振り返るたびに僕はあわてて逃げ出した。どこか知らない街角で。
 おかげで僕はしょっちゅう迷子になった。近所の交番のおまわりさんは、僕が連れていかれるたびに「おお、日傘の坊主か」と言って飴をくれたものだ。
 あれは、いつの日のことだったろうか?僕は、また日傘の女の人が歩いていくのを見つけてついていった。今度こそ母が戻ってきたのだと思った。学習能力のない子供だった。
 交差点の前でその女の人は立ち止まっていた。まるで僕が追いつくのを待っているように。走ってきた僕の荒い息遣いを聞きつけたのか、日傘の女はゆっくりと振り返った。空から降ってくるような微笑みを見上げて、僕は、口をぽかんと開けていた。
「坊や、一緒に入っていく?」
 それが今の義母だ。
「おまえが大の日傘好きだからさ、義母さんに日傘を持たせて歩かせたんだよ。案の定、すぐ食いつきやがった。俺も、なかなかの策士だよな」
 ビールを飲みながら父は上機嫌だ。
 耳にタコの話を聞きながら、ぼくは苦いビールに口をつける。
 でも、僕は、確かに見たんだ。あのとき、日傘の下で微笑んでいる、義母とは似ても似つかない母の顔を。確かに聞いたのだ。「このひとについていっても大丈夫よ」という母の声を。


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このストーリーに関するコメント

12/06/24 ゆうか♪

初めまして・・お名前をどうお読みしたら良いのかわかりませんが…

拝読させていただきました。m(_ _)m
最後の二行を読んだとき、思わず身体に鳥肌が立ちました。
短いお話ながら、何か心にぐっとくるものを感じたようです。

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