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川村 誠さん

初めまして。 僕は楽しく読んだり書いたりしたいだけなんです。 自己紹介ですか。 えーと、5歳の長男と2歳になった双子の次男、三男がいます。親バカですが、子供ってかわいいですねー。 あと、僕は心の病気持ちなので、それが作品に影響することも多いと思いますが、その時はスルーして下さい。 コメントもらえるととても嬉しいです! よろしくお願い致します。

性別 男性
将来の夢 1つでもいいので、自分で納得できる小説を書いてみたい。
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僕らはまだ始まっていない

13/09/30 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:3件 川村 誠 閲覧数:1312

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 アスファルトとコンクリートのビル群がギラギラした真夏の太陽の熱を照り返している。どこかのオフィスから出てくる熱。車が走る熱。そして歩く人の熱。僕はとろけてしまうかもしれない。そう思うほどの気怠い暑さの中、就職活動なのか、リクルートスーツを着た若い女性が随分と焦った様子で駅前の案内板を見ている。僕が職場に近い駅前に停めておいたバイクにエンジンをかけた時、その女性は泣きそうな顔で僕に話掛けてきた。これから面接があるのに、どうやら随分前から道に迷っていて、もう時間がないらしい。だからもしこの場所を知っていたら、教えてもらいたいとのことだった。地図を見ると、ここからバイクで5分くらいの場所だった。僕は断りもなく君にヘルメットを被せて、「早く乗って」と言った。
 僕はスピードをあげて、目的地まで急いだ。君が少しでも落ち着けるように早く連れていかなくてはならない。こっちは少し急いでるんだ。僕は車と車の間をすり抜けていく。風は生暖かく、君の不安が背中越しに伝わってきた。
 飛ばした甲斐もあってか、なんとか面接には間に合いそうな時間に着いた。ヘルメットを脱いで君は僕にお礼を言ったあと、すぐにビルの中に走っていった。君がこのビルの会社に勤めるのかどうか分からないけれど、もしそうだとしたら、本当にご近所さんになるかもねと、僕は一人で考えて笑ってしまった。

 不思議な出会いだった。数ヶ月後、僕らは再会する。やっぱり不思議な再会だった。

 仕事は夜の10時頃には片付いたので、僕は会社に置いてあった薄手の上着を羽織って退社した。そして裏路地に停めておいたバイクにキーを差し込みエンジンをかける。アイドリングの間、僕はタバコを吸っていた。すると見覚えのない女性が、「こんばんは」と話しかけてきた。僕が誰だか迷っていると、それを察した女性は、「覚えてないかもしれませんが、去年、仕事の面接に遅れそうな時にお世話になったものです」と言った。なぜ僕のことが分かったのかとまた不思議に思って考えていると、どうやら僕のバイクのナンバーが自分の誕生日と一緒だったから覚えていたらしい。そして君はお礼がしたいと言う。僕はそんなことは気にしなくていいと言ったのだが、君はそれでは気が済まないと言う。
「じゃあ、今度デートしてくれないかな」僕がそう言ったのは、言えばそれで終わりだと思ったからだ。だけど君は即答で「はい、いいですよ」と君は言うのだった。意外な反応だったので、僕の方が困ってしまった。すると君はニコニコして「今日でもいいですよ」と、僕のバイクを指して言うのだった。

 僕たちは海を目指して走った。海ならここから30分程度で到着する。君と一緒ならばそのくらいに抑えておいた方がいいだろう。バイクに乗っている時、最初は怖かったのか、僕にしがみついていた。でも、しばらくすると慣れてきたのか、気持ちいいって言っていたのを僕は覚えている。あの時の君の温もりは今でも忘れられない。

 夜の海は静けさの中に波の音だけが小さく響いていた。僕らは砂浜に降りて、しばらく黙ったまま潮の匂いを嗅ぎ、瞬く星と海を眺めていた。どのくらいの時間が経ったのだろうか。「こんなに楽しくてドキドキするのは久し振りです」と君は言った。「気に入ってもらえて良かったよ」と僕が言うと、君は僕の肩に頭をのせてくる。僕は君の長い髪を撫でた。そして思わずキスをしてしまう。「ああ、うんと、ごめん。お互いに何も知らないのに」と僕は謝った。すると、君は遠い地平線を見ながら、「あなたはきっと本や音楽をが好き。季節は夏と冬が好きで、そして誰もいない夜の海が好き。違いますか?」と言う。だから、僕は「そうだね、当たってるよ」と答えた。「それだけ知っていれば十分です」君はそう言うだけだった。
「でも、僕は君のことを知らない。今のところ、名前も知らない」
「大丈夫です。私はあなたが読む本が好きだし、あなたが聴く音楽が好きなの。そしてあなたと歩く夜の海が好き」
「何それ」僕は笑った。ああ、僕は本気で好きになりそうだよ。

 君は靴を脱ぎ、波打ち際まで行って、夜の波と戯れて笑っていた。その姿はとても美しくて、僕はその姿にしばらくみとれていた。君の黒い髪の毛が揺れている。僕も波打ち際まで靴を脱いで歩いた。そして夜の海と一体になる。僕は思う。まだまだ帰りたくない。時間が僕らを祝福してくれればいいのに。もう少し時間が止まっていればいいのに。

僕らはまだ始まってない
何から始めようか
好きなことや楽しいこと
あればあるほどいいと思うんだ

僕は本が好きだし
音楽も好き
散歩も好きだし
夏と冬が好き
夜の海が好きだし
そして君が好きなんだ
本当さ

私はあなたが読む本が好きなの
あなたが聴く音楽が好きなの
あなたと歩く夜の海が好きなの

(了)


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このストーリーに関するコメント

13/09/30 クナリ

ストーリーとして展開が転がっていく前に、唐突に終わってしまったなあ……というのが最初の感想だったのですが、
読みながら気になっていた、
>あの時の君の温もりは今でも忘れられない。
>もう少し時間が止まっていればいいのに。
といった文言から推察するに、二人には何か、悲劇的なことが起きるという暗示なのでしょうか?
もしそうなら、この文章のラストを読み終わったときには、自分は転がり終わったストーリーをすでに受け止めていたのかもしれませんが…。

13/09/30 川村 誠

クナリ様。率直なコメントありがとうございます。実はですね、作者としては、恋が始まる瞬間を書いたつもりだったんです。ものすごいハッピーエンドなイメージで。あの時の温もりは
特別で、今でも覚えているし、明日には別の場所にいるはずだから、少しでも一緒にいたい、そんな気持ちを込めて書いたつもりだったのですが、完全な力不足ですね。でも、丁寧に読んでいただき、とても嬉しかったです。本当にありがとうございました!

13/10/12 川村 誠

凪沙薫様、こんにちは。お返事遅れて申し訳ありませんでした。とても嬉しいコメント、ありがとうございます。ベタなストーリーに何かを付け足す。ああ、そういうのがちゃんとできたらなって思います。僕はそれを意識して書いたわけじゃないので、今度は、ちゃんとそういうのを考えて書きたいです。貴方の読解力に助けて貰った感は否めないですが、まさかコメントを貰えるとは思わなかったので、とても嬉しく思います。本当にありがとうございました!

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