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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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コイナリ異聞

13/09/25 コンテスト(テーマ):第四十一回 時空モノガタリ文学賞【 恋愛 】 コメント:9件 光石七 閲覧数:1791

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 田舎の小さな神社だというのに、小石川御崎稲荷神社を訪れる女性は後を絶たない。恋愛成就、縁結びにご利益があると言われているからだ。実際、この神社に参拝して恋人ができた、結婚できたという話は昔から数多くあり、近年では略称と“恋が成る”を掛けて「コイナリ神社」と呼ばれている。奉納されているたくさんの絵馬からは、乙女たちの必死な祈りが伝わってくる。
「……“ジョニーズの星瀬快斗と結婚できますように”? ふざけんなっ!」
「でも、この子確か油揚げ持ってきてくれたよ?」
「クオン、んな安い賄賂で……」
「ミノリちゃん、油揚げにもピンキリあるんだよ? この子が持ってきたのは超高級油揚げ、また食べたいなあ……」
「知るか! 一人のアイドルに何人の乙女が恋焦がれると思ってる? いくら縁結びの神でも、無理なもんは無理。これは却下!」
「ああ、せっかくの油揚げが……」
「うるさい! 次だ、次」
絵馬をチェックしているのは、コイナリ神社に祀られているコヒサキミノリヒメと霊狐クオン。もちろん、普通の人間には姿も声も感知できない。コイナリ神社が恋愛成就で大きな実績を上げているのは、彼らの働きによる。コヒサキミノリヒメが絵馬から奉納主の女性の情報や意中の男性との接点などを読み取り、クオンと協力して二人の距離を縮める策を仕掛ける。見えない力に引っ張られる当人たちは運命だと思い込んで愛を育んでいくというわけだ。男女の縁だけでなく、ビジネスの取引の縁を結ぶこともある。
「……そろそろ椎原穂夏の件の作戦実行だな。クオン、男の誘導をよろしく」
「了解」
二手に別れ、男女を引き合わせるのだ。夕方、突然の強風にあおられて体がぶつかってしまった男女は互いをみつめ合った。女は顔を赤らめ、男も偶然ではない何かを感じ取った。また一組、カップルが誕生していく。
「ミノリちゃん、さすがだねえ」
「当たり前だ。私を誰だと思ってる?」
いささか口が悪いコヒサキミノリヒメだが、恋人たちをみつめるまなざしは優しい。その胸には、二人の前途を祝福する気持ちと一抹の切なさが宿っていた。
(キリマル様……)

 かつて、コヒサキミノリヒメには想う人がいた。エニシキリマルノミコト。コヒサキミノリヒメと同じく、八百万の神の一人だ。初めはつまらない優男と思っていたのに、いつのまにかコヒサキミノリヒメは彼の穏やかさと温かさに惹かれていた。エニシキリマルノミコトも、彼女の内に秘めた優しい細やかな心を愛しく思っていた。二人は愛し合っていたのだ。しかし、他の神々は二人の仲を許さなかった。コヒサキミノリヒメは縁結びの神、エニシキリマルノミコトは縁切りの神。縁結びと縁切りが一緒になっては、現世に混乱をきたす。周りの神々は別れるよう説得したが、二人はなかなか離れられなかった。
 ある日、苛立ったとある神がエニシキリマルノミコトを切りつけるという事件が起こった。倒れたエニシキリマルノミコトの傷は深く、今にも命が尽きてしまいそうだった。必死に助けを乞うコヒサキミノリヒメに神々は条件を提示した。――エニシキリマルノミコトを助ける代わり、二度と彼に会わぬこと。コヒサキミノリヒメは承諾した。
(キリマル様が死ぬくらいなら……)
こうして彼女は自分の仕事に打ち込むようになった。皮肉なことに、仕事をこなすほど、幸せな恋人たちに自分とエニシキリマルノミコトの姿が重なってしまうのだが。

 切ない思いを抱いているのはクオンも同じだった。
(こんなに近くにいるのに……)
クオンは自分の正体も想いも口にすることができない。
 奇跡的に命を取り留めたエニシキリマルノミコトは、自分のためにコヒサキミノリヒメが身を引いたことを知った。彼は神々に嘆願した。彼女を一人にできない。どんな形でもいいから、そばにいさせてほしい。――神々はエニシキリマルノミコトを霊狐の姿に変え、口止めを条件にコヒサキミノリヒメの元に送った。
「縁切りと縁結びが共存できると証明できれば、仲を認めんことも無い」
神々の言葉を胸に、クオンとなったエニシキリマルノミコトは懸命にコヒサキミノリヒメをサポートしている。
(まだ、なのだろうか……)
彼女とともに過ごす時間に喜びを感じながらも、本来の姿ではないことがもどかしい。しかし、正体がばれたら最後、二度と彼女に会えなくなる。

「クオン、帰るか」
「そうだね」
互いに胸の痛みを笑顔で隠し、コイナリ神社へと戻っていくコヒサキミノリヒメとクオン。
「また誰か油揚げ持ってきてるかなあ?」
「アンタは食べることしか頭にないのか!」
「ミノリちゃん、痛い……」
「ちょっとは利口になるんじゃない?」
「だったら、ミノリちゃんの頭を叩いたほうが……」
「何だと!?」
じゃれあう彼らを、沈みゆく夕日が静かに見守っていた。


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このストーリーに関するコメント

13/09/25 光石七

この作品は全くのフィクションです。
作中の神社、神様の名前等は作者の創作です。
実際に言われている八百万の神とは切り離してお読みください。

13/09/25 平塚ライジングバード

光石様、拝読しました。

面白かったです。
導入はかわいい感じだなぁと思いながらも、キャラクター
描写が上手なだけ…とひねくれて読んでいましたが、
二人のバックボーンに完全にノックアウトしました。
まさか、そこからそんなパンチが飛んでくるとは( ̄▽ ̄;)
という感じでした。

光石さんは、序盤から受ける印象を覆すのが本当に
得意ですね。
読者としては、予想外のところから攻撃が飛んでくるので、
心に直接とんでもない衝撃が伝わる感じになります。
その技巧、それを支える優しい世界観に心から拍手を贈ります。

13/09/26 泡沫恋歌

光石七様、拝読しました。

ほのぼのとした神様のお話かと思えば、共に秘めた思いがあるんですね。
テンポ良く読めて、とても面白かったです。

13/09/26 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

面白い設定ですね、フィクションとは思えないというか、どこぞの稲荷神社にいそうな気がします。もしかして、この神様が、光石さんがわからないように、のりうつって書かせたのではないかと……。かってな想像してすみません。笑
確かに、縁結びと縁切りの神社や寺など全国にありますね。私、これからは神社に出向きましたら、こんな切ないお二人がおられるのかもしれないと思うかもしれませんね。楽しかったですありがとうございました。

13/09/26 光石七

>平塚ライジングバードさん
身に余るお褒めの言葉、恐縮です。
読まれる方の予想を裏切ろうと意図しているわけではないのですが、私自身がひねくれているのかもしれません(苦笑)
縁結びの神様も自分の恋は思い通りにいかないのでは、と思って書いたものです。
コメントありがとうございました。

>OHIMEさん
頑張ってそれっぽい名前をひねり出しました(苦笑)
続きを期待されるとは思わず、驚きつつも気に入っていただけた喜びをかみしめております。
ありがとうございます。

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
自分は切ない恋をしてるのに縁結びの仕事をしている神様を書いてみました。
面白かったと言ってくださり、うれしいです。

>草藍さん
ありがとうございます。
どこかの神社にいそうですか。うれしいお褒めの言葉です。
願いを聞く立場の神様も、本当はいろいろ事情を抱えているのかもしれませんね。

13/10/02 光石七

>凪沙薫さん
いつもありがとうございます。
クオンの名前の由来、鋭いですね。
読みきりのファンタジー漫画をイメージして書きました。絵は全く描けませんけど(苦笑)
こんなに頑張ってるんだから、他の神様たちも祝福してくれるといいのですが。

13/10/12 murakami

拝読しました。
切ないけれど、いつかお互いの思いが通じるという希望の持てるラストがよかったです。
弾むような会話にネーミングセンス、すばらしいですね。私はタイトルとか名前を考えるのが苦手です。

13/10/13 光石七

>村上さん
コメントありがとうございます。
会話がポップなほうが切なさが際立つかな、と。
軽口を叩き合うのも自分の痛みをごまかすためかもしれませんね。
いずれ報われて欲しいものです。
ネーミングは得意というわけではありませんが、遊び的に考えるのは楽しいです。綾重さん(怪しげ)とか(笑)

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