光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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虚像

13/09/13 コンテスト(テーマ):第四十回 時空モノガタリ文学賞【 アイドル 】 コメント:10件 光石七 閲覧数:1768

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 ライブが始まるまであと30分。
「今日の客入りは?」
俺は慌ただしく動いているスタッフの一人に聞いた。
「超満員です。通路も立ち見でいっぱいです」
Rioシアターの客席は300。俺は報告に満足した。
 楽屋の通路で怒鳴っている少年がいた。警備員の一人が外へ連れて行く。
「RIONAに会わせろって?」
俺は残った警備員に声を掛けた。
「はい」
振り向いた警備員は見慣れない若者だった。新入りだろう。向こうも俺の顔に一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出したらしい。
「社長、失礼しました」
「いや、畏まらなくていい。お疲れさん」
若い警備員は帽子をかぶり直し、こわごわと俺に質問した
「……あの、毎日あんなのが来るんですか? 先輩、慣れた様子でしたけど」
「RIONAに会えるのはここだけだから。全国からファンが集まってくるし、中には狂信的な奴もいる」
ここRioシアターはわがプロダクション専用のライブハウスで、今やRIONAのための場所だ。妖精のような愛らしい容姿に、透き通った天使の歌声。俺の見込んだとおり、RIONAは多くの人の心を掴んだ。
「別な場所ではやらないんですか?」
警備員は率直に疑問を述べる。
「会える場所が限定されているからこそ、価値があるんだ」
「そういうものですか。ま、RIONAはメディアにも出ないですね。ミステリアスな部分も魅力なのかもしれません」
どうやらまだ知らないらしい。俺は曖昧に頷いて舞台裏に向かった。

 俺と雪谷リオナは従兄妹だ。だが、リオナの両親が早くに事故で他界し、うちでリオナを引き取った。だから、俺とリオナは兄妹同然で育った。
 小さい頃からリオナは活発でかわいかった。人を惹きつける天性の魅力があった。
「タク兄。私ね、歌手になりたいの」
リオナから夢を聞いた時、俺は賛成した。リオナは声もきれいだし、華もある。
「歌でみんなに勇気を与えたいの。私の歌で誰かが元気になったら、すごいと思わない?」
小首をかしげながらリオナが言う。
「リオナならできる。応援するよ」
俺はリオナの肩を叩いた。
「でも、歌手ってたくさんいるよねえ……。私、歌う場所あるかなあ?」
リオナが少し不安げな顔になる。
「その時は俺が作ってやるよ。リオナのためだけの舞台を」
俺は親指を立ててウィンクしてやった。
「ええっ、タク兄じゃ頼りない」
「おい、人の純粋な気持ちを……」
「冗談よ。じゃ、約束ね!」
二人で笑って指切りをした。
 リオナはオーディションを受け始めた。さすがに甘くない世界、一次審査で落とされ続ける。でも、リオナは諦めなかった。挑戦し続け、ついに審査員の目に留まった。少しレッスンをしてまずはアイドルとしてデビューさせる、いきなりそんな話を聞いて、保護者である俺の両親は驚いたようだ。事務所側の丁寧な説明と責任を持ってリオナを預かるとの約束で、両親も承諾した。レッスンを受けるため、リオナは我が家を離れることになった。
「何かあれば連絡しろよ。いつでも飛んでくから」
リオナが出発する前、俺はそう言ってやった。
「大丈夫だよ、タク兄。彼女を第一にしないと、逃げられるよ?」
優しいリオナは俺を気遣ってくれる。
「家族を大事にしちゃ悪いかよ? それに文句を言う女なんて、こっちから願い下げだ」
俺の本心だった。
「都会には変な奴もいるからな。ついていったりするなよ」
「もう、子供じゃないんだから」
ふくれっ面になると小さい頃と同じ顔だ。翌日、リオナは上京した。
 メールや電話で頻繁にやり取りした。レッスンは厳しいようだったが、リオナは前向きに頑張っていた。
 『今日もヘトヘト〜(+o+) 
  でも、アイドルデビュー近し♪』
リオナはデビューを楽しみにしていた。そして、あと数日でデビューという時、事件は起こった。マンションのエントランスでストーカーに刺されたのだ。上京して間もないリオナを見て、自分の運命の相手だと思い込んだらしい。リオナは相手にしないようにしていたし、事務所も気を付けていたのだが、一瞬の隙を突いての犯行だった。リオナは病院に運ばれたが、そのまま帰らぬ人になってしまった。

 ライブ開始1分前。客席も舞台も暗くなる。ざわつく観客。やがてイントロが流れ、ステージの上にRIONAの姿が浮かび上がる。歓声が上がる。
 『Do you know me? I know you, because……』
RIONAが歌い出す。RIONAに合わせて客も掛け声や振りを入れる。
(15年越しに約束を果たせたな……)
RIONAはホログラムだ。生前のリオナの映像や声を元に再現してある。このことを知っているのは、Rioシアターの常駐スタッフとプロダクションの一部の人間だけだ。そろそろマスコミに公表しようと思う。リオナの夢とともに。


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このストーリーに関するコメント

13/09/15 泡沫恋歌

光石七さん、拝読しました。

アイドルは人気者になるとストーカーとかに狙われて怖いものだと思います。

ホログラムでも初音ミクみたいなアイドルはいます。
RIONAさんにはずっとアイドルとして存在して欲しいです。

13/09/15 光石七

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
アイドルという虚像、でも主人公にとってRIONAはリオナで確かに存在しています。存在させたかったんですね。
初音ミクみたいだと自分でも思いましたが(苦笑)、リオナのことが公表されたらまた違う意味をRIONAは持つでしょう。

13/09/17 光石七

>OHIMEさん
コメントありがとうございます。
私自身は芸能界のことは疎いのですが、生半可な志では務まらないでしょうね。
“実体がないアイドル”という発想から書いてみました。
ホログラムという形にしたのは、誰にも傷つけられたり汚されたりせずに済むという主人公のエゴが少し入ってます。

13/09/20 青海野 灰

とても面白かったです。
ホログラムのアイドル、そして亡き妹の夢を叶えた兄、という発想と設定が、素晴らしいです。
数多の客や警備員でさえもその事実に気付かないとは、かなりの技術力が使われていますね。
掌編として完結していながらも、これからも広がっていく物語を想わせる締めもよかったです。

13/09/20 光石七

>青海野さん
お褒めの言葉、ありがとうございます。
実際にホログラムをライブに用いることもあるようで、科学の進歩には驚くばかりです。
芸能界にはとんと疎いので、これ以上話を広げるのは難しいですね(苦笑)

13/09/21 草愛やし美

光石七さん、拝読しました。

切ないですね。それでも、そこで、生きているのですねRIONAは。夢半ば、それも叶う直前で倒れるなんて、リオナさん、本当に無念だったことでしょう。きっと、アイドルとしてどんな形であれ、君臨していることは彼女にとって嬉しいことでしょうね。

13/09/21 光石七

>草藍さん
コメントありがとうございます。
自分の歌をたくさんの人が聴いてくれることを、リオナは喜んでいることでしょう。
夢を叶えてくれたタク兄に感謝してると思います。

13/09/22 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

ホログラムという秘密に驚かされました。
大切な人の死を現実として受け入れたとき、自分のなかでほんとうにその人が死ぬんだと思います。
きっと受け入れたくなかったんですね。虚像で再現されるかぎり、生きているように思います。

13/09/23 光石七

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、主人公はリオナを生き続けさせたかったんです。
ホログラムは虚像、アイドルも(ある意味)虚像ですが、リオナは主人公の心に存在し続けます。

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