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梅子さん

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輝く場所

13/09/13 コンテスト(テーマ):第四十回 時空モノガタリ文学賞【 アイドル 】 コメント:4件 梅子 閲覧数:1157

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人口の激減、それに伴う労働力不足。2xxx年政府は「雇用の再分配」を強行した。余剰な労働人口を不足している業種にあてがう、要するに強制的な転職だ。

再分配にあたって最も風当たりが強かったのは言うまでもなく芸能界だった。“一流”と呼ばれる人々を除いて、ほとんどすべての芸能人に「再分配協力願」が届いた。「協力願」とは言ったもののそれは「通告」に違いなかった。この国はかつて掲げた民主主義をいつの間にか放り投げていた。

その日集まったメンバーは8人。再分配が始まってから半年、一人、また一人とメンバーが減っていきとうとう半数になってしまっていた。「協力願」を持って楽屋に現れたメンバーの顔は一様に沈んでいるように見えたが、実際喜んでいるものもかなりいたように思う。このままアイドルという賞味期限の短い仕事をするよりも安定した仕事に就いて、「普通の女」として生きる道に少なからず皆魅力を感じていたに違いない。しかし自らやめるものは一人としていなかった。スポットライトや歓声、「アイドル」としてもてはやされる自分。この甘美な感覚は麻薬のように私たちを魅了し放さなかった。

収録が終わり、楽屋に訪れたのは元メンバーのみくだった。みくは一番初めに再分配されて、OLとして働いていた。「みんな久しぶり!」と笑顔で話すみくは半年前より輝いているように見えた。

その後、再会した私たちはかつてよく訪れていたバーに向かった。みくとは齢も近いこともあって一番親交があった。みくが脱退してからは連絡を取り合うこともなくなっていたのだが。
「まきもさ、はやくやめちゃったがいいよ。」
ふいにみくが切り出した。
「あんたももういい歳じゃん、再分配ももうかなりの人数されてるし。どんどんいい職なくなってくよ。」
「それにさ、こうやって普通の女するのって悪くないよ。」
顔も声も何もかも、半年前と変わらない。むしろメイクだって薄くなって、地味になっているはずなのに。ずっとずっと輝いてるのはどうして。ずっと遠くに感じるのはどうして。
「うるさい!」
気付いたら怒鳴って、持ってた烏龍茶をみくにかけてしまっていた。ステージの上じゃない、スポットライトも浴びていない、それなのにきらきらしているみくと、バーの間接照明なんかじゃ少しも輝けない、ちっぽけな自分に怖くなってしまった。自分がしたことに唖然とする私と対照的にみくはあっけらかんとして「わあびっくりした。」なんて笑っていた。それからちっとも気を悪くしていないようだったみくは遅くまで私に付き合ってくれた。帰りのタクシーで「まきはもう気付いてるんじゃないかと思ったんだけどな。」と眉を下げて笑ったみくの顔だけがやたら鮮明に思い出される。

次の朝、「再分配協力願」が私の手元に届いた。なんてタイムリーな、と乾いた笑いを一人こぼした。不思議と涙なんて出なくて、なぜか心は穏やかだった。

それから私の脱退に際したファンイベントや番組収録、ライブが行われ、それと同時進行で再分配の手続きも滞りなく進み、2カ月後、私は「アイドル」から「普通の女」になった。


そして今、私は訪問介護の仕事をしている。介護といっても寝たきりの人ばかりを相手にするのではなく、担当区域の老人のサポート全般を行う少し変わった仕事だ。今は体が弱ってこなせなくなってしまった農作業を手伝っている。
「まきちゃん、おつかれさま。冷たい麦茶あるよー。一休みしなさいー。」
少し向こうの縁側から声をかけてくれたおばあちゃんに手を振り返して歩き出す。

今ならみくの言っていたことがわかる気がする。ステージは確かに明るくて華やかだったけれど、どこか寂しくていつも渇いていた。あの頃、脱退していくメンバーたちを羨ましく思ったのは、安定やそんなものを求めていたからじゃない。あの渇きを潤すものがなんなのか知っていたからだ。
“ただの私”を必要としてくれる、この満たされた感覚はスポットライトやカメラのフラッシュなんかよりずっと私を輝かせてくれる。


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このストーリーに関するコメント

13/09/13 光石七

拝読しました。
アイドルでなくても輝ける。同意です。
本当の幸せを教えてくれるお話でした。

13/09/14 梅子

光石七さま
コメントありがとうございます。
そのことにたくさんの人が気付いてくれたらいいな、と思いながら書きました。
同意していただけてとても嬉しいです。
ありがとうございました。

13/09/20 青海野 灰

近未来的な設定のお話のようでいて、妙に現実的で身近に感じる世界観で、面白かったです。
スポットライトによる物理的な光ではなく、「再分配」によって体や心の奥から輝きを放ち始めた主人公に、爽やかな救いを感じました。

13/09/22 梅子

青海野灰さま
コメントありがとうございます。
せっかく近未来の設定だったのでそこをもっと活かすことができたらよかったかなとも思いました。
少し暗い雰囲気の中で強く生きていこうとする主人公の姿を少しでも感じとっていただけたらうれしいです。
ありがとうございました。

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