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桐生和さん

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丸窓の誘い

12/05/08 コンテスト(テーマ):第五回 時空モノガタリ文学賞【 京都 】 コメント:0件 桐生和 閲覧数:1821

時空モノガタリからの選評

最終選考

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丸窓の向こうはしとしとと雨が降っていた。まるでこちらの宿の中と丸窓の向こうは、隔離されたかのように、違って見えた。
丸窓は一枚の絵のようだ。さすが京都、と言えばいいのか、洗練された美、という感じか。天気はあいにく雨になってしまったが、雨の京都もいいものだな、と思っていた。

「きれいだねえ」

と、耳元で幼い声が聞こえた。私は辺りを見回す。最近おひとり様、が増えているとかテレビで見たが、私もその内の一人で、気ままな一人旅の最中だ。だから、同行者などいない。当たり前だが。
聞こえた声は女の子のようだった。親戚に幼い子どもはいたが、あまり触れ合わないので、自信はない。

「……」

私は無言でもう一度辺りを見る。誰もいない。

「きれいだねえ」

丸窓の向こうに、艶やかな着物を着た女の子が立っていた。雨にも関わらず、何も差さずに女の子はそこにいて、景色を見ながら笑っていた。
初め、私は同じ宿に泊まっている子どもかと思った。しかし、何か違う。
存在が薄い、というか、現実味を帯びていないというか。丸窓の景色とぴったり合って、最初からそこに描かれているかのようだ。
私は恐る恐る声をかける。

「君は……どこの子なのかい?」
「きれいでしょう」

話が噛み合わない。

「宿にいる子?」

女の子は空を見上げたり、木々に触れたりするが、私を見ようとはしない。くるくると視線を回りに走らせている。
……と、突然目が合った。
にこ、と女の子が笑う。つられて私も笑ってしまった。

「お兄さん、京都は気に入った?」
「……あ、ああ。とても素敵だね」

急に会話が始まって、私はしどろもどろになってしまった。しかし彼女の正体がわからない。害を与えるものではなさそうだが。

「お兄さんが考えてること当ててあげようか」
「え?」
「お化けだと思ってるでしょう」
「いや、そんなことは……」
「当たり」
「え」

彼女は丸窓まで走ってきて、もう一度笑った。
そういえば、彼女の着物は一切濡れていない。雨は霧雨のようで、長時間いれば結構濡れてしまうだろう。

「あのね、丸窓の向こう、って興味ない?」
「向こう?」

何故か我々は自然と会話ができた。まるで絵画のようだと思っても、宿の中と外は同じ世界だ。なのに、私は違うものだと思ってしまっていた。

「こっちはきれいだよ。お兄さんがいるところとは違って、とても穏やかなんだ」
私は彼女の言葉を聞きながらも、気になったことを問う。

「君は、君のことをお化け、と言ったけれど、やっぱり人間ではない、ということかい?」
「うーん、そうかな。そう言ったほうが簡単でしょ?」
「でももとは人間なんだろう?」
「そうだよ。四神の加護でこういう姿なんだ」
「四神……」
「さすが京都、って感じだよね」

話が飛躍しすぎて、私は戸惑っていた。
おひとり様旅行のはずが未知への誘いになってしまった。しかし、それをまるっきり信じてしまうほど子どもでもないし、目の前にある現実を否定するだけの知識があるわけでもない。いや、もしかしたらこの会話も幻想かもしれない。

「うーん、お兄さん、考えすぎだよ。単に、丸窓の向こうに来ない? ってお誘いだよ。興味があれば、頷けばいいだけのお話」

彼女は頬を膨らませながら、そう言う。私の反応が気に入らないようだ。

「……そっか、お兄さんはそっちの世界のほうが好きなんだね」
「……好きかといわれると、考えてしまうな」
「はっきりしないねえ。ま、いいや。今回のスカウトはやめにしよ」
「スカウト?」
「まだここに泊まってくれるお客さんはたくさんいるし、わたしが探してる友だち、できるかもしれないし! ごめんねお兄さん、バイバイ!」

またしても噛み合わない会話をすると、突然彼女の姿は消えた。

「友だち、を探してるのか……」

私がそう呟いた途端、私は意識を手放した。

「あーあ。またお客さん消えちゃったじゃないか。片付けるの大変なんだよ、なあ、“丸窓”」

宿の主人がやってきて、私の部屋を見て言った。
丸窓の向こうは、相変わらず霧雨だった。
美しい景色。
私の手をぎゅっと握っている女の子。女の子の後ろにいる四神。
丸窓の中にのまれた私はどんな存在なのだろう。彼女に少し同情の感情を寄せてしまった私は愚かだったのだろうか。しかし、その疑問も薄れてきている。
彼女には四神以外、いないのだ。その使命感に似た感情が支配してくる。
私の京都一人旅は、人を捨てる旅になってしまったのだ。そう、悟りの窓。
丸窓の向こうから見た宿の中は、とても現実離れしていた。


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