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風さん

風です。 文章を書くのが昔から好きで、マイペースにほのぼのと書いております。不思議な話が大好きです。コメントへのお返事は遅くなることもあるかと思いますがよろしくお願いします。

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デンシャ

13/09/04 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:0件  閲覧数:931

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がたん・・・ごとん・・・がたん・・・ごとん・・・
今日も電車は走る。
まだ日は高く、晴れた空からは暑い日差しが降り注いでいた。窓から入ってくる風もなまぬるく、汗で髪が頬にひっつくのを感じた。窓の外はどこかの住宅地。ふと、視線を前方に向けると、黄色い鞄に黄色い帽子をかぶった、小さい子が一人立っていた。
ああ。この電車に乗るのか。

電車はホームに緩やかに止まった。
その子は、ステップをよいしょ、よいしょ、と懸命に登って、電車の中を見回した。数人の乗客がいるのをみていると、僕とばっちり目があった。その子は少し顔をこわばらせる。僕がすっと視線をそらすと、おそるおそる僕の座っていた椅子の端っこに、ちょこんと座った。

がたん・・・ごとん・・・がたん・・・ごとん・・・

電車の中は静かなものだ。僕とその子以外にも人はいるが、みな静かに座って、行き着く駅を待っているのだ。電車の中で大声で話すなんて、非常識なことであるのに変わりないし、静かなこの状況が当たり前なんだろうけど。
ちらと隣を盗み見ると、まだ床につかない頼りない足を、退屈そうにぶらぶらとふっていた。幼稚園生か。彼が身につけていた黄色は、卵のからを破って生まれたひよこを僕に連想させた。
と、椅子がわずかに振動する。視線を横にやると、退屈に耐えかねたひよこ君が、窓から外の景色を眺めていた。外は住宅街を抜けて、田園が広がっている農村地帯に入っていた。電車と並走するように、赤とんぼが飛んでいるのを、ひよこ君はうれしそうに見つめていた。
きらきらとした瞳。純粋なまなざし。屈託のない笑顔。ああ。まぶしくて、どうしようもなく切ない。
どれくらいそうしていただろうか、気づいたら、ひよこ君が僕を困惑した目で見つめてきた。口をきゅっと結んで、不安そうに見つめてくる。内心、めんどくさいな、とため息。
「とんぼが、好きなのかな」
できるだけ優しそうな声を心がける。
「うん。すき。」
だが、さすがは子供。僕の心の中が透けて見えたのか、警戒しながらうなずいてきた。うーん。やっぱり子供は苦手だ。
「君は、ひとりなのかな」
「うん」
「えらいね」
「教えてもらった」
「誰に」
「おじちゃん」
「君の」
「ちがうよ。このまえ会ったおじちゃん」
「そうか。……教えてもらえてよかったね。」
たわいもない会話をしていると、ひよこ君は僕から何かを感じ取ったのか、だんだんと口数が多くなってきた。しまいには、とことこやって、僕の隣に移動して窓の外を楽しむようになった。
んー、やりすぎたかな。僕がひそかに頭をかいていると、急にひよこ君の雰囲気が変わった。窓の外の何かをきっ、と見つめている。後ろを振り向くようにして窓の外を見ると、そこには踏み切りがあった。

カンカンカンカンカンカンカンカン

赤のランプを点滅させながら、独特の警戒音が鳴り響く。黄色と黒の刺激的な色彩が、不安をあおる。
踏み切りがしまって、電車が通過するまで、ひよこ君の身体は固まったままだった。目は大きく見開き、手をギュッと握りしめて、今にも泣き出しそうだった。でも、ひよこ君はなかなかった。僕はそっとひよこ君を抱き上げて隣に座らせ、頭をぽんぽんとなでた。
ひよこ君の震えが止まる間にも、電車はいろいろなところに停車して、さまざまな人が乗り降りしていった。

がたん・・・・・・ごとん・・・・・・がたん・・・・・・ごとん・・・・・・

やがて、電車のスピードが遅くなってきて、一軒の家の前に止まった。
外はオレンジ色に染まっていて、ひよこ君のまるいほっぺもおれんじ色になっていた。
落ち着きを取り戻していたひよこ君は、椅子から勢いよく飛び降りると、僕にぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございます」
ひよこ君は礼儀正しく頭を下げた。
「そんなことしなくていいよ。こういうことはお互い様だ。」
僕の声に頭を上げたひよこ君の表情は、幼児にしては大人びたものになっていた。
「さようなら」
手を大きく振って、しっかりした足取りでステップをふんで降りていく。
ひよこ君は、そのまま後ろを振り返らず、まっすぐに家の玄関に向かった。
ちょうど、ドアの前には人がいた。ポケットをさぐって、家の鍵を開けようとしている男の人。そして、まだ若い女の人が、幼い、ちょうどひよこ君と同じくらいの年頃の女の子を連れている。みな一様に黒い服を着ていて、女の人は目元がほのかに目元が赤く染まっていた。
「ねー、にぃに帰ってくるー?」
ひよこ君は、ぐんぐん早くなって、皆を追い抜いて真っ先にドアをすり抜けていった。
電車のドアが閉まる瞬間、かすかにお香の匂いがした。

がたん・・・ごとん・・・がたん・・・ごとん・・・


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