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光石七さん

光石七(みついしなな)です。 子供の頃から空想(妄想?)が好きでした。 2013年から文章化を始めました。 自分では気付かないことも多いので、ダメ出しを頂けるとありがたいです。

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待ちわびた光は

13/09/02 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:10件 光石七 閲覧数:1762

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 カイは絵本を読んでもらうのが好きな子供だった。
「――こうして白ウサギは黒ウサギと仲直りしました。二匹が空を見上げると、きれいな虹が架かっていました。おしまい」
母のエレナが絵本を閉じた。
「ママ、虹ってなあに?」
カイがエレナに聞いた。
「雨が降った後とかね、お空に光の橋が架かるのよ。赤とか黄色とか青とか、七つの色をしてるのよ」
絵本にはちゃんと挿絵もあるのだが、エレナはそれを使って説明しない。カイは生まれつき目が見えなかったのだ。
「ねえ、赤ってどんな色? 青って?」
カイは更に疑問をエレナにぶつける。
「赤は火の色で、熱い感じよ。青はお水みたいにひんやりした感じの色ね」
色を視覚情報なしに説明するのはなかなか難しい。
「……よくわかんない。僕も見てみたいなあ」
カイの言葉がエレナの心に突き刺さる。

 夜、エレナは夫のテルと話し合った。
「やっぱり、カイにもいろいろなものを見せてあげたいの」
「……角膜移植か」
「それしか方法は無いんでしょ? 昔と比べて技術が上がってきてるっていうし、お金もカイのためならいくらでも出すわ」
「そうだな。誰かの死を望むのは不謹慎だけど、カイの将来のためには……」
「角膜をくださる方には謹んで感謝したらいいじゃない。命のリレー、助け合いよ。あなた、カイの目が見えるようになるのよ? 一度お医者さんにきちんと話を聞いてみましょうよ」
「うん、近いうちに病院に行ってみよう。カイの目が俺たちを映してくれたら、どんなに素晴らしいか」
カイは二人の会話を聞いていた。喉が渇いて起きたのだ。
(僕、見えるようになるの?)
カイの胸に小さな期待が生まれた。
(見たいもの、いっぱいあるよ。パパとママの顔でしょ。お隣の優しいメグお姉ちゃんも見たいし、朝あいさつしてくれる鳥さんも、ママがきれいだって言うお月さまやお星さまも……。赤とか青とか、どんな色なのか知りたいな)
 数日後、専門の病院で診察と説明を受け、カイは角膜移植を受けることになった。今は順番待ちをしなくてはならないが、カイはうれしくてならなかった。手術すれば見えるようになる。カイはその日を心待ちにするようになった。

 半年ほど待って、カイに角膜移植の順番が巡ってきた。両眼同時では感染症等のリスクが高いため、今回は左眼だけだ。手術はスムーズに行われ、翌日には眼帯も外れた。カイの目に初めて光が飛び込んだ。
「まぶしい……」
「初めてだからね。今はまだぼんやりだろうけど、少しずつはっきり見えるようになるよ」
光の刺激に戸惑っているカイの頭を主治医はくしゃっと撫でた。テルもエレナも手術を成功させてくれた主治医に感謝した。

 主治医の言葉通り、カイの左眼は徐々に輪郭を判別し出した。色も日を追うごとに鮮やかになってくる。
「ママってこんなに美人だったんだ。パパも結構ハンサムだね」
カイの言葉がうれしくて、両親はカイを抱きしめた。
 安定するまでは日常生活の中で注意を払わなくてはならないし、病院へも定期的に通う。しかし、カイの経過は良好だった。
「本当にお星さまってきれいだね」
カイにとっては目に映るすべてが新鮮で美しいが、両親が言っていたことを実感できるのは大きな喜びだ。
「そうでしょ? 近いうちに虹を見れたらいいわね」
テルもエレナも、カイを通してこの世界の美しさを改めて感じるのだった。

 手術から二ヶ月ほど経った日、カイはエレナとともに買い物に出かけた。いつも通る道が通行止めだったため、エレナは仕方なく別の道を選んだ。
「あんまりこっちは通りたくないのよね。何人も人が死んでるアパートがあるから」
エレナは顔をしかめながらカイの手を引いて歩いた。そのアパートに差し掛かった時だ。
「うわあぁぁっ!」
突然カイが叫び声をあげ、エレナの手を振り払って車道に飛び出した。カイは走ってきた車にはねられ、命を落とした。

 カイに提供された角膜は検査をクリアした正常なものだった。だが、その提供者は、醜い悪霊と戦ってきた霊能者だったのだ。カイはアパートに留まっている、人間とはかけ離れた霊の姿が見えてしまったのだった。

 さて、カイが事故に遭ったその日の夜、ある家族の元に待ちに待った知らせが届いた。
「ドナーが見つかったそうだ!」
「ユーリと同じくらいの子の心臓が!? ああ、神様!」
「これでユーリは助かる!」
夫妻は重い心臓病を抱える我が子を救う道が開けたことを喜び、神に感謝の祈りを捧げた。


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このストーリーに関するコメント

13/09/02 泡沫恋歌

光石七さん、拝読しました。

美しいお話だったので、このまま幸せに成れたらイイなあと思っていました。

命のリレー、助け合い。
誰かの不幸が誰かの幸せになるというのは、何んとも複雑な思いがしますね。

13/09/02 クナリ

霊能者とは展開が急かな……と思ったのですが、
このラストはとてもいいですね。
果たして心臓は、新たな移植先において、何らかの
影響を宿主に与えるのでしょうか……?

13/09/02 平塚ライジングバード

光石七様、拝読しました。

一筋縄ではいかない物語ですね。
二重の仕掛けに思わず引き込まれました。
起承転結が非常によくまとまった作品だと感じました。
全てがうまくいけばよいですが、人生はなかなか厳しいですね。
命のリレーのアンカーがユーリさんであることを願います。。

13/09/02 光石七

初めに断わっておくべきでしたが、臓器移植を揶揄したり批判したりする意図は毛頭ございません。
不快に感じられた方がいらっしゃれば、申し訳ありません m(_ _)m

>泡沫恋歌さん
コメントありがとうございます。
強引にまとめたので、前半と後半ではかなり雰囲気が違ってしまいました。もう少しうまく織り込めたらよかったのですが。
臓器移植を巡ってはいまだ議論がなされていますが、難しいなと思います。

>クナリさん
ムリヤリ感がありまくりですが(苦笑)、ラストを褒めて下さりありがとうございます。
単純に、特殊な力がリレーしていくことに焦点を絞ったほうがよかったかもしれませんね。
話がなかなかまとまらなくて……力量不足です。

>平塚ライジングバードさん
お褒めの言葉、ありがとうございます。
まとまってますか? 自分では強引だと思っているのですが。
命のリレーをどうとらえるか、難しいです。

13/09/03 そらの珊瑚

光石七さん、拝読しました。

後半の思いがけない展開に、一気に物語の空気感が変わったように感じました。
臓器は誰のものなのだろう、果たしてもとの持ち主の記憶が臓器に残るものなのか(臓器移植後に性格が変わったり、知らないはずのことを知っていたり、などという話を読んだことがありますが)などと考えました。

13/09/04 光石七

>OHIMEさん
色の説明は、視覚障碍について調べる中で読んだものをアレンジしただけです(苦笑)
ドナー登録されているのですか。そのお心が素晴らしいと思います。
いつもありがとうございます。

>そらの珊瑚さん
コメントありがとうございます。
もうちょっとスムーズに話を運べればよかったのですが。
臓器移植後の変化、小説や漫画では読んだことがありますが、実際は……?
有り得ないとも言い切れず、人間の不思議さに思いを馳せてしまいますね。

13/09/07 光石七

>凪沙薫さん
複雑な気持ちにさせてすみません。
命のリレーと不思議な力のリレー、両方入れようと欲張って無理にまとめた結果です(苦笑)
カイをもう少し大人にして受け継いだ力で霊を成仏させるという案もあったのですが、テーマからは少し外れると思いやめました。
コメントありがとうございます。

13/09/23 つるばた

拝読しました。

最後の展開に意外性があって、とても楽しく読めました。
僕も昔、本かテレビで「移植した臓器にドナーの記憶が残っている」みたいな話を聞いたことあります。
記憶は脳だけでなく、体中にある細胞の中の「どこか」にも蓄積されているのではないか、ということを研究している学者がいたような……

面白かったです。ありがとうございました!

13/09/24 光石七

>つるばたさん
感想をありがとうございます。
研究されてる方もいらっしゃるんですね。
人間って不思議です。
楽しんでいただけたなら、何よりです。

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