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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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桜で終るふたつのストーリー

13/08/28 コンテスト(テーマ):第三十九回 時空モノガタリ文学賞【 待つ人 】 コメント:5件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:1864

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 昭和九年 三月吉日

 一日千秋の思いとは、この事でございましょう。
 いつも、手紙をポストに投函してからというもの、あなたからの返事を待って、気もくるわんばかりの日々を送らなくてはなりません。
 いっそ汽車に乗って、あなたのところまで一散に飛んでいきたい衝動に、何度駆られた事でしょう。
 けれども、いくつもの山河を越え、方言さえ異なるあなたの町に何日もかけて出かけることは、わたくしにはとても不可能な話でございます。
 きょう出した手紙が届くのはいったい、何日先の事なのでしょうか。
  一週間、十日、いいえ、もっと先のことかもしれません。あなたがこの手紙に目をとおし、すぐにお返事を認めてお出しくださったとしても、それとおなじ日数がかかるのだと思うと、わたくしは本当に焦燥のあまりどうにかなってしまいそうでございます。
 いつか将来には、カタツムリの歩みにも似た手紙のかわりに、きっともっと便利で、簡単で、なにより迅速な通信手段が確立されている事でございましょう。
 空想を弄ぶのがなにより好きなわたくしは、それがどういうものかを時々、頭の中で思い描いて楽しんでいます。どうか子供みたいだとお嗤いにならないでください。
 それは、手のひらに乗るほどのごく、小っぽな機器で、こちらの考えを文章にしてくれ、その上その文章を、一瞬にして相手の持つ、やはりおなじ機器に転送する事ができるというものです。
 そんな突飛な魔法みたいなものができるわけがない。あなたのあきれる声が、いまにもきこえてきそうです。
 そうね、あなたは現実家であらせられるから、そう思われるのも無理はないでしょう。ですが私は毎日、目覚めてからも、夢ばかりみて過ごしています。本当に、あなたを夢みないことは、片時もないのですから。
 言葉以外に目の前にある光景などもその機器で交換できたら………とまあ、さすがにそこまでは言いますまい。あくまで遠く離れたところから言語を交換できる装置―――そんな機器が、手元にあれば、まるでお互い向かい合っているかのように、言葉をやりとりできるのですよ。いまあなたがなにをし、なにを考え、そしてわたくしのことを思っていてくださるかを、すぐに確かめることができるのです。なんてすばらしいことでしょう。

  現実のわたくしはいま、懐紙にむかって筆をはしらせています。紙面ににじむ墨のまったく遅い乾きを、憎々しげにみつめるほか能のない身が、腹立たしいばかりでございます。

  お返事、首を長く、長く、長くのばしてお待ちしております。  今泉菊枝
                                  
  追伸 あなたと何度か歩いた裏山から風に運ばれてきた桜が、開けた窓から文机の上に、はらりと舞い落ちました。花びらを数枚、同封いたします。


  2013.3.12

【ハロー アキボー元気? きのうあったね。笑 お昼、いつものとこで。ミーコより】
【いいね。 アキボーより】
【昼たべたら、花見にいこー】
【かふん症だから、ふかのー】
【アキボー、花粉しょう?】
【くしゃみ百回 鼻ミズ1トン】
【それってじゅーしょー】

 昼過ぎ、アキボーとミーコの二人は、行きつけのラーメン店のカウンターに並んで座っていた。二人は顔を見交わすことも喋ることもなく、黙々と自分たちのスマホにむかっている。やがてでてきたラーメンをかれらは、音をたててすすりだした。まもなく、アキボーのスマホに隣のミーコからメールがきた。

【チョーうま】

 すぐにアキボーも返信した。

【トンコツ、サイコー】

 二人はまたラーメンを食べはじめ、再びその目は自分たちのスマホに釘づけになった。
 ミーコのスマホにだれかからメールがきたのは、二人がほぼラーメンを食べおえたときのことだった。
 ミーコはそれを見終えるとすぐ、アキボーにメールをした。

【アキボーがキャンセルだから、クラコンと花見にいくことにしたの】
【クラコンて、だれ?】
【バイト友達】
【男?】
【それってジェラシー?】

 ミーコはすぐ、クラコンのフォトをアキボーのスマホに送った。

【レディよ。かわいいでしょ。こんど、しょーかいするね】

 二人は席をたって、入り口のレジにむかった。店のまえで別れた二人は結局、ただの一度も互いの顔に目をむけることはなかった。
 一時間ほどして、アキボーのスマホにミーコのメールが届いた。

【花見サイコー。プレゼントあり】
 
 スマホ画面に、舞い散る桜の花びらが映しだされた。


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このストーリーに関するコメント

13/08/29 てんとう虫

わたくしの手紙に添えられた桜とミ−コのスマホの桜の花びらは大切な人に見せてあげたい思いは同じですね。2人の女性は桜を見ながら笑顔で思い人を想うのでしょうね。見せてあげたいとい願いを込めて

13/08/29 W・アーム・スープレックス

てんとう虫さん、はじめまして。コメントありがとうございます。

てんとう虫さんのおっしゃるように時代が変わり、表現が変わっても、人の気持ちのここというところは、不変なのかもしれませんね。ただ、封筒にしのばせた桜と、スマホ画面の桜のちがいは、これはもう好みの問題かもしれませんが。

13/09/02 光石七

拝読しました。
時間がかかる手紙と手軽なスマホ。
奥ゆかしさは断然前者のほうですが、相手と桜を共有したいという思いは同じですね。
面白い構成だと思いました。

13/09/02 W・アーム・スープレックス

光石七さん、コメントありがとうございます。

手紙しかなかった場合はその遅々とした配達時間にしびれをきらし、スマホの時代は目の前の現実は無視され、ただ画面の中のみの瞬間的なやりとりに夢中になる。どちらがいいとか悪いとかでなく、人はその与えられた条件にしか係われないということになるのでしょうか。

13/09/27 W・アーム・スープレックス

凪沙薫さん、楽しいコメントありがとうございます。

結局それです。最初の手紙だけでおわっていたら、スープレックスの居場所がありません。凪沙さんを、一瞬でも、どうしたと思わせたのはたいした収穫―――でもないですか。桜は同じでも、見る人は年々変わるというような
話を学校の教科書で読んだ記憶がありますが、人は変わるのが常態なのでしょうね。

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