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葵さん

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紫陽花と猫には傘がない

12/05/06 コンテスト(テーマ):第四回 時空モノガタリ文学賞【 傘 】 コメント:1件  閲覧数:3508

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 雨の日の紫陽花は綺麗だと思う。通学路の歩道橋の下に咲く紫の花を見つめながら、信号が青に変わるのをいつも待っている。傘もささずに、僕は泣いていた。このまま家へ帰ってしまおうかと思っていたとき、紫陽花から、にゃあと声が聞こえて、猫が出てきた。
 昨日、学校で嫌なことがあった。教科書が机の中から、全部なくなっていた。下駄箱の上履きがなくなっていたのは、一昨日のことだ。そのまえは、黒板に、学校に来るな!!と大きく書かれていて、ほかにも、死ねとか馬鹿とか、書いてあったけど、こんなことになってしまって、なぜ、学校へ行かなくてはいけないのか、わからなくなっていた。
 手のひらよりも小さい猫を学生服の中にいれてやり、そのまま家に帰ることにした。両親は離婚していて、僕は母親にひきとられた。母はいつも酒を飲むたび、暴力をふるっていた父親への愚痴を別れた後もずっと言い続けていた。洋服の縫製のパートの仕事が終わるのは、いつも7時過ぎだ。僕が学校へ行かなかったことくらい気づきもしないだろう。
 「あんたはどんどん父親に似てくる」僕は大人にはなりたくないと思った。「あんたのその顔や目つきがあの男にそっくり」高校を卒業したら、すぐに就職をして、ひとり暮らしをしたいと思った。暴力を繰り返しうけ続けてきた母へは僕の気持ちは届いてなかったような錯覚をおこす。
 傘を持たずに、そのままいつも通りに、通学して、いつも通りに、何も変わらずに・・・。雨が涙を流してくれることに気付いたとき、やっと泣くことが出来たのだ。天気予報は雨になるって言ってたけど、僕は傘を持たずに、そのまま雨に打たれて歩いていた。くるりと背を向けて、猫を抱いて、家へ帰る。ぽかぽかとした温度が猫の身体から僕の身体に伝わってきた。
 家には誰もいない。しんっとしている。あついお湯でお風呂を沸かして、猫の身体もあたためて、僕もあたたまって、バスタオルで、お互いの身体の水滴を拭いた。
 そのまま2階の僕の部屋に猫を連れていってから、ときおり、にゃあと鳴くのを聞いて、僕はまた1階にある台所に牛乳を取りに行った。お皿にいれて、レンジであたためて、猫にあげた。ぴちゃぴちゃと小さい舌で牛乳を飲む猫を見ながら、このまま飼って、猫との同居生活に憧れを感じ、猫と一緒から、嫌なことも忘れられると思った。僕には仲間がいなかったから、一匹でも仲間ができるなら、嬉しかった。
 クッションの上で尻尾を追いかけて、ぐるぐるまわっている猫を見ながら、僕は笑顔になった。そうだ、まだ猫には名前がない。雑種だろうけれども、真っ白な毛なみで、長さもあるので、毛づくろいをはじめた猫にシロタンと呼んでみた。猫はかまわず、僕の足にすり寄ってきて、にゃあと鳴いた。シロタンともう一度呼んでみた。すると今度は僕の顔をじっと見つめて、まんまるい黒い瞳が涙でゆらゆらと揺れていた。シロタンと何度も呼んで、猫をなでてやると、シロタンににゃあと鳴き声が続くようになり、猫の名前はシロタンに決定した。
 玄関の扉のカギががちゃがちゃと音をたてて、ぱたんと開いて閉まる音が聞こえた。シロタンと僕はベットの上で、ごろりと昼寝をしてしまっていたらしい。
 「あら、ただいま。すぐ夕食にするから、居間の新聞紙片付けてよ。お母さん疲れているんだから・・・」
 「あのさ、猫飼ってるんだけどいいよね?」
 「あんた、いつから猫飼ってるのよ?」
 「今日から、これ、シロタン、いいよね?」
 「面倒みれるんでしょうね?」
 「わかってるって」
 こうして、母と僕とシロタンの暮らしがはじまることになった。シロタンは家族に新たな絆を作ってくれて、ふたりだけの家族の絆を取り戻してくれた。
 次の日から、僕はまたいつも通りの通学路で学校へ行った。シロタンは家でお留守番をしてくれている。母も変わらずパートの仕事へ出かけた。
 学校に着いたら、上履きがあってほっとした。教室へ行って、自分の机に、落書きがされた教科書がどっさりと置かれていた。だけど、読めないわけではない。
 僕はここで頑張るのだ。家にはシロタンが居る。授業がはじまっても休み時間になっても、誰も僕に気がつかないようにして一日が過ぎていくような気がする。窓の外の空を見つめながら、誰かが気付いてくれるのを待っているような毎日だったと思う。
 放課後、僕は写真部の部室を訪ねた。思い切って入部したいと言ったら、女子からいやだぁと声がしたけど、部長らしき男子が僕に握手をしてくれた。シロタンの写真をまず撮るのだ。
 「ありがとう」
 「これからは君も写真部の一員だから」
 僕のはじまりの時間だった。
 


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このストーリーに関するコメント

12/05/07 

投稿してから、「傘」であるモノが使われていないことに気付きました。よって、もうひとつ同じテーマで作品を書きなおしました。至らない点が多く、深くお詫び申し上げます。

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