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実さん

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氷山の一角

13/08/23 コンテスト(テーマ):第三十七回 時空モノガタリ文学賞【 神 】  コメント:2件  閲覧数:4490

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 思い返せば神様を探していた。小さい頃は神様なんているとも思っていなかったし、いないとも思っていなかった。別に考える必要なんてなかったんだから。だからいつもふざけたギャグと下品な言葉だって使うテレビが、天皇皇后に対してだけは最高敬語って言われるものを使ってることに僕ら兄弟は不満だった。
「なんで天皇の時だけ様をつけたりするの?」
と、若干苛立って尋ねると母はすかさずこう言った。
「天皇は日本の象徴だからよ」
僕らは何も言い返せなかった。
 兄弟で神様について話したりは特になかったし、興味を抱くことさえなかった。それでもテレビ番組でたまに放送される”気功”だとか”オーラ”の話なんかにはやたら喰いついて、本当に僕らにもそれがあるのかなーって、お互いに手をかざしあっては「なんかビリビリする」「温かい感じがする」みたいな感想を言い合っていた。UFO特番は毎年必ず見ていたし、空を見上げては「あれ、UFOだよ!」なんて言い合うことだってあった。
 見えないものへの憧れっていうのは誰でも思い描いてるのかもしれない。普段目に見える現実っていうモノの背後にはとても巨大な何かが潜んでいる。僕らの目にすることのできる現実は、海上に現れている氷山ほんの一角のようなものでしかなくって、海の中にはもっと大きな氷塊が潜んでいるみたいに。
 僕らはそれぞれ大きくなっていった。小学校高学年にもなれば体の節々が痛むような強烈な成長期に入るようになるし、入学当初には考えられないほど高い景色で物を眺めるようになっていく。小さい頃登って落ちて3針を縫う怪我をしたジャングルジムでさえ、大きくなればひょいと簡単に登れるようになっていった。幼稚園の頃はサッカーばっかりやってた親友がいつの間にか学習塾に通うようになっていた。そして身体や周囲の環境が凄い速さで変化していく中で、子供たち皆がそうなるように、自分が自分であることや周囲からの期待への葛藤のために悩みを抱えていくようになっていた。
 僕ら兄弟はそれぞれ違う人間になっていった。
 二人は孤独になることが多くなっていった。誰からも理解されないって感じたり、無駄に悪いことをはじめる同級生たちに対するイライラが募っていった。小さい頃いつもあった世界との一体感のようなものがなくなって、身体を境に周囲の全てが切り離されたようになった。
 まるで神様から切り離されたみたいだった。そしてその頃から漠然と神様のことを考えるようになったかもしれない。学校の帰り道、ふと青空を眺めては「神様って本当にいるのかな?」と思うことがあった。でもそれっきり何も進展することはなくて、僕は結局神様がいるのかわからないままだった。
「どーして目に見えないものを信じれるの?私は神様なんて信じてないし、理解もできないし」
ある日クラスの女子生徒が言っていた。休憩時間なのに大声で話すものだから、僕の耳にまで流れてきた。そしてそれからもずっと頭の片隅に残って離れなかった。きっとそれは彼女にとって何気ない会話が、僕にとっては重要なことだったからなのだろう。僕には答えがわからなかったのだ。
 それからもみんなは変わり続けていった。中学を卒業すれば高校生にもなるし、僕らは引っ越すことにもなっていた。不動産の営業をしていた父は脱サラまでして弁当屋をはじめた。でも商売がふるわず貧乏になって、母はパートの掛け持ちにいつも疲れた顔をするようになった。以前は仲の良かった僕ら兄弟の会話はいつしか殆んどなくなって、メールもしないし、いつしか家族は皆ただの同居人になっていた。
 
 僕らの背後にはいつも巨大な何かが潜んでいた。海の下に潜む氷山の本体に気づかず座礁してしまう船があるように、目に見えるものだけを信じては生きていくことができないのだった。そんな時年老いた人間の目にはある勘が働く。何度も何度も座礁しているうちに、目に見える氷山から何メートル離れたところまで海の氷が潜んでいるのか、どれくらいまでなら近づいていいのか、どれくらい遊びがあるのか、いつしかそれがわかるようになる。そして人生という壮大な海の上で色々な人間が波に揺られ、座礁し、やがては沈没していくなかでこの私があること、私とは別に生まれては沈没していく船があること、大きな氷山があること、この広大な海があることは変わらないことに気づいていくんだ。
 でもそれも本当じゃない。僕は見たんだ、あの巨大な氷の塊の中にたくさんの人の顔があるのを。沈没していった人たちがいつか水に溶けていくみたいに、氷の塊がいつか海になるみたいに、結局全部は水だっていうことを。
”僕らは何も変わってなどいなかった”
きっとそういう事なのだ。神様から見れば僕らの本質はいつも変わっていくことはない。神様の現れが僕らなのだ。


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このストーリーに関するコメント

13/08/24 光石七

拝読しました。
“神様から見れば僕らの本質はいつも変わっていくことはない。神様の表れが僕らなのだ”
なるほど、と思いました。
一人一人が神のある部分を表している、そういう考え方もありますね。
興味深く読ませていただきました。

13/08/25 

>光石七さん
読んで頂きありがとうございます。
完全に持論展開だなぁなんて思いながら書いてしまいました。
ジャン・リュック・ナンシーという哲学者は「個人から集団が作られるんじゃない。むしろ集合から個人に分化していくんだ」と言っている人なんですけど、ニュアンス的にはそんな感じで書きました。
実際生きていく上で徐々に"自己(キャラクター?)"を形成していきますからね。
生まれた当初は"自分"なんて持ってないんです。
その意味で人は本来集合的な、言い方を変えれば全体的な存在でエゴなんて持ってません。
その意味での神でした。

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